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「政府も野党も何してたんだ」 再び発令された緊急事態宣言に倉持麟太郎弁護士が警鐘

2021年01月08日 11:41  弁護士ドットコム

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新型コロナウイルス感染拡大に伴い、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言が1月7日、発令された。昨年4月の発令以来2度目のことだ。


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対象の地域は、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県で、期間は2月7日までの1カ月。飲食店を中心に営業時間を20時までとするよう要請するとともに、20時以降の不要不急の外出の自粛徹底を呼びかける。



要請に応じない飲食店については、店名を公表できるように政令を改正する方向で動いている。一方、学校の一斉休校は要請しない方針だ。



政府はさらに、コロナ対策として、より実効的な措置をとれるようにするため、特措法の改正を目指している。改正内容として、休業要請などに応じた事業者への財政的な支援や、要請に応じない事業者への罰則の規定などを検討しているとされている。



まだ、政府と各政党が協議している段階だが、報道によると、法的拘束力のある「命令」を事業者に出せるようにして、緊急事態宣言時の休業命令違反については「50万円以下の過料」とする政府原案もあるようだ。



しかし、こうした政府の動きに対して、懸念を示す声も上がっている。有志の弁護士やジャーナリストでつくるグループは1月6日、緊急事態宣言に慎重な対応を求める声明を発表した。



そのメンバーである倉持麟太郎弁護士は「自粛要請するなら、責任の主体が国であることを明らかにするためにも、補償とともに法改正で実施すべきだ。このままでは事実上の強制になりかねない」と危機感を示す。ふたたび緊急事態宣言が発令されたその日、倉持弁護士にインタビューした。(編集部・若柳拓志)



●「市民同士の相互監視と同調圧力で自粛を実現しようとしている」

——政府は、要請に応じない飲食店の店名を公表できるよう、政令を改正する方向で動いています。



政府は、あくまで要請によって自粛を実現しようとしています。強制的な措置であればそれに伴う責任の所在も明確ですが、要請だと「最終的に自粛を判断したのは店側」になるなど、責任の主体があいまいになります。



要請は、法学上「行政指導」にあたり、どこまでいっても「強制」ではありません。従うかどうかはあくまでも任意で、従わなくても違法ではありません。強制ではないのだから仮に従わなくてもペナルティは軽い、というのが法令の基本的な構造です。



店名の公表というのは、営業停止などに比べ、本来、さほど強くないペナルティです。



しかし、その店名の公表が、「あくまで要請にとどめ、市民同士の相互監視と同調圧力で自粛を調達しよう」という政府の姿勢によって、今現在は社会的に非常に強いペナルティとして、行政指導を事実上強制するような手段になるのではないでしょうか。



このことは、「行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない」と規定する行政手続法32条2項の趣旨にも違反しているのではないでしょうか。



今回のような要請をするのであれば、責任の主体を明らかにし、事後的に法的な検証ができるように処分性を伴ったものにすべきです。公表についての政令改正ではなく、国会での議論を経た法改正で実行すべきでしょう。



また、そもそも店名(施設名)の公表は、広く国民に情報提供する手段として特措法に定められたものとされています。今回は明らかに制裁目的に転用されており、この点も問題あると思います。



——店名が公表された場合、飲食店側が法的に争う手段はあるのでしょうか。



裁判などで公表を取り消せるかどうかは議論あるところですが、仮に取り消すことができるとしても、1年後に実現では事実上、無意味です。実効的な救済手段とはいえないでしょう。だからこそ、現時点で、より慎重であるべきといえます。



——店名の公表というペナルティを伴う自粛要請は、感染拡大防止対策として合理的な手段なのでしょうか。



今回の要請は、店側の「営業の自由」に対する直接的な強い制約ですし、一定の地域の飲食店という特定の対象に対しておこなわれている点、他業種・他地域との関係で「平等」な扱いなのかという問題もあると思います。



それら法的権利に対する今回の制約(手段)が、コロナ対策という目的と実質的関連性があるかというと、実効性を証明することが難しいこともあり、法的には合理的な手段といえない可能性が十分あるのではないかと思います。



コロナ対策の必要性ばかりが肥大化しており、対策における具体的な手段の相当性(許容性)に関する議論が極めて乏しい状況です。コロナ対策が必要なのは間違いありませんが、適切な手段でおこなわれているかどうかの議論・検証をもっと緻密におこなうべきです。



前回の緊急事態宣言から今に至るまで、一定の時間・猶予があったにもかかわらず、そこの議論が十分にされなかったことも問題でしょう。自分もそうですが、法律の専門家である弁護士などがもっと声をあげるべきだったとも思います。



●罰則を課す手続きについてもっと議論すべき

——報じられている政府原案では、現行法上の「指示」よりも法的拘束力のある「命令」を設ける方向で検討しているようです。



政策的な是非はともかく、法的拘束力のある命令に従わない場合には罰則が課されるということになれば、要請の場合とは異なり、法的に争えることが明確となり、事後的な検証が可能となりますので、外延が不明確な要請によってそれぞれに「自粛」をさせるというよりは法的なあり方として望ましいかたちだと思います。



——また、罰則として、緊急事態宣言時の休業命令違反については「50万円以下の過料」なども案としてあがっています。



特定の業種に対する制約として罰則まで課すことは、営業の自由などとの兼ね合いも考えれば、個人的には不要だと思っています。



過料(行政罰)は刑事罰・行政刑罰とも異なりますので、課される過程で事前の告知・聴聞手続きや司法手続きが担保されているわけではありません。



過料についても司法が関わるべきだという裁判例がありますし、過料を導入するとしても、適正手続きの保障等についてもっと議論すべきでしょう。中立的な第三者が判断に加わるなどのあり方も考えられます。



——感染拡大してから慌てて法改正しようとしているように見受けられます。



今ごろ改正しようとしている政府・与党は、「これまで何していたんだ」と言われても仕方ないでしょう。



一方、野党にも責任があると思います。「緊急事態宣言をもっと早くだすべきだった」と言ってましたが、それなら法改正はさらに早い段階で検討しておく必要があったはずです。しかし、抜本的な改正案などを出す動きはありませんでした。



現状として、政党というものが争点を整理したり、形成したりする機能を果たせていないということだと思います。これは日本国の不幸でもあります。



●「緊急事態時の国家のあり方を考えたい」

——特措法の改正を含めたコロナ対策としての法令のあり方に関して、何かアクションを起こす予定などはありますか。



グループ(緊急事態宣言に慎重な対応を求める有志の会)の輪をもっと大きくして、具体的な内容を盛り込んだ法律案の提示などができればと考えています。



たとえば、今の緊急事態法制は特措法だらけで、パッチワーク的につないでいる状況ですので、基本法など統一的な法体制を構築すべきといった議論は必要でしょう。また、感染症法や検疫法なども見直して、非常時に誰がどのような権限をもつべきかなどについても改めて整理すべきだと思います。



仮に法改正をやるとして、各政党からどれだけ人員をあてがうことができるのかという問題はあるでしょうが、少数でもできると思います。われわれもできる範囲で具体的な提言をしていきたいです。



——個人的な考えという点では他に何かありますか。



さまざまなコロナ対策が実施される中で、「緊急事態条項」の必要性を痛感しました。



緊急事態条項といえば、緊急事態の際には「選挙を延期する」「内閣が法律を作成できるようにする」などの議論が過去にされてきました。



私が考えているのはそういう点ではなく、「停電した際の非常灯をどこに設置するのか」というのと同じように、「国会がどういう権限でどう動いていくのか」「◯◯裁判所の機能は止めない」などについてです。



国家の機能となれば、憲法を改正する必要もあるかもしれませんが、法律レベルも含めて「非常時に国家(三権)がどういうバランスで機能し続けるのか」という点について、まとまった内容を提言として出してみたいと思います。




【取材協力弁護士】
倉持 麟太郎(くらもち・りんたろう)弁護士
2012年弁護士登録(第二東京弁護士会)。日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事、弁護士法人Next代表弁護士。ベンチャー支援、一般企業法務、「働き方」などについて専門的に取り扱うほか、TOKYO MXテレビ「モーニングCROSS」レギュラーコメンテーター、朝日新聞「論座」レギュラー執筆者、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師(憲法)など多方面で活動。著書に「リベラルの敵はリベラルにあり」(ちくま新書)等がある。
事務所名:弁護士法人Next
事務所URL:http://next-law.or.jp/