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『アンデッドアンラック』ハイテンションな展開で物語は未知の領域へ 否定の力の“可能性”とは?

2021年01月07日 09:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『アンデッドアンラック』4巻

 『アンデッドアンラック』(以下、『アンデラ』)の魅力は、とにかく展開が早いということに尽きる。まだ4巻だが、15巻分くらいの物語が圧縮されているように感じる。


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 戸塚慶文が「週刊少年ジャンプ」で連載している本作は、皮膚が接触した相手に不運をもたらす「不運」(アンラック)の出雲風子と、死なない身体を持った「不死」(アンデッド)のアンディの物語。


 2人は否定者と呼ばれる存在で、否定者10人の特殊チームを頂点とするユニオン(対未確認現象統制組織)に追われていた。しかし、ユニオンの否定者2人を倒したことで、逆にユニオンの特殊チームにスカウトされ、様々な課題(クエスト)に挑戦することになる。


以下、ネタバレあり。


 マフィアが主催するUMAや否定者の黒競売(ブラックオーディション)に潜入するため、リオデジャネイロ港に到着した豪華客船に潜入したアンディと風子。2人の目的は「不治」(アンリペア)の否定者との接触だったが、マフィアに捕まっていたのは「不動」(アンムーブ)の否定者・重野力だった。


 やがてアンディと風子は、重野をめぐってユニオンと敵対する謎の集団「UNDER」(アンダー)の否定者たちと衝突。能力者の1人はアンディたちが探していた「不治」の否定者・リップ。どんな攻撃をうけても再生するアンディの身体もリップのメスで切りつけられると再生できない。風子も負傷しマフィアに囲まれ、絶体絶命のアンディ、しかし怯えていた重野が参戦し「不動」の力を発動することで形勢は逆転する。


 そして第4巻は、ユニオンの否定者・タチアナの過去から物語がはじまる。彼女の能力は「不可触」(アンタッチャブル)。「U・Tエリア」と呼ばれる(自分の身体を中心とした)球体状の不可触の空間を作り出し、触れたものを破壊する巨大な力だ。力を制御するため、彼女は常に球体状のメカに入って行動する。


 タチアナはロシア出身の幼女で、5歳の誕生日に「不可触」の力に覚醒め、その影響で両親を圧死させてしまう。わけもわからず逃げているところをマフィアに捕まりオークションで競売にかけられたが、円卓の否定者のビリーに助けられてユニオンに加わる。風子も重野もタチアナも、否定者の力に覚醒めた影響で、両親を亡くしている。その描写は実にシビアで、否定者たちの力が他者との接触に障害をもたらす理不尽な呪いだということが、繰り返し強調されている。


 同時に描かれるのは、否定の力は「大切な人を守る」武器にもなり得るという可能性だ。風子たちを助けるためにタチアナが「不可触」の力を開放して船を破壊する場面はカタルシスのある名場面となっている。


 UNDERを撃退した重野力は「一緒に神サマぶっ殺そうぜ」とアンディと風子にスカウトされ、特殊チームの仲間に加わる。11人目の否定者として重野力が加わったことで、新しい課題に挑むことが可能になったアンディたち。


 しかし4つの課題が提示されたところで、ビリーが突然、仲間たちを攻撃。実は彼はUNDERのボスだった。ビリーは全身が炎で包まれた巨人のUMA・バーンを操り、課題に挑む際に必要な「円卓の席」を奪い逃走。仲間には不可信(アンビリーバブル)と伝えていた能力は、実は否定者の力をコピーする力で、特殊チームの否定者たちの力を身につけていた。


 当初は展開が早く状況が次々と変わっていくスピード感に圧倒されると同時に「もしかして打ち切りか?」と心配だった『アンデラ』だが、連載が起動にのった3巻からは物語のスピード感を少し緩めて、今後はアンディと風子が様々な課題に挑戦して成長する姿を描くRPG的な展開になるかと思っていた。実際、黒競売における否定者同士のチーム戦はとても面白かったため、こういったイベント&バトルを順番に見せる方向に向かうと思っていたのだが、4巻でビリーが裏切ったことで、再び物語は大きく展開する。


 2巻の最後で、本来の姿であるヴィクトルに戻ったことで暴走するアンディを止めるために特殊チームの否定者9人とアンディのバトルとなった時も「最終回?」という盛り上がりだったが、逃走するビリーを止めようとアンディ&風子&タチアナが戦いを挑む場面も「ラスボス戦か?」というハイテンションで、勢いは全く衰えない。


 感心したのは、4巻冒頭でタチアナの過去が語られ、彼女にとってビリーとの絆がいかに大きいかが描かれていること。だからこそ、ビリーに裏切られたタチアナの悲しみという人間ドラマが際立つ。


 「黒競売」と「ビリーの裏切り」は別のエピソードだが、同じ4巻に収録されているため、物語の繋がりが本誌で読んだ時よりもはっきりとわかる。連載で読んでいる時は意外性を狙った行き当たりばったりの展開にも思えたが、単行本で読むと各エピソードが有機的に繋がっており、計算された見事な配置だとわかる。意外性の連続でありながら圧倒的な完成度を誇る『アンデラ』の物語はどこに着地するのか。物語はまだ4巻である。


(文=成馬零一)