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さらなる「時短要請」に飲食店は限界、焼肉屋経営の弁護士「罰則導入なら補償を前提に」

2021年01月06日 19:02  弁護士ドットコム

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飲食店が、再び苦境に立たされている。


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帝国データバンクの調査によると、飲食店の倒産は2020年11月時点で過去最多の736件となった。12月は飲食店の一番のかきいれ時だが、忘年会は自粛され、飲食店はすでに限界を迎えている。



さらに今後首都圏の1都3県は、飲食店に対し午後8時までの時短営業要請をおこなう予定だ。



自身も神奈川県で焼肉店を経営し、飲食業界の法律問題を専門的に取り扱う石崎冬貴弁護士は「ただでさえ去年1年厳しかった中で、しばらくこの状況が続く。先が見えず、心が折れている経営者は多い」と話す。飲食店の現状を尋ねた。



●売り上げが戻ってきた矢先に…

——緊急事態宣言が発令された2020年4月と比較して、飲食店の状況はどう変わっていますか。



昨年の緊急事態宣言を受け、飲食店はとても厳しい状況に陥りました。そこから7月末に「Go To トラベル」、10月に「Go To イート」が始まり、経営者からは「だいぶ売り上げが戻ってきた」「なんとかなりそうだ」という声が聞かれました。



また、居酒屋チェーンの「ワタミ」が居酒屋から焼肉店に業態転換するなど、チェーンは業態転換や店舗の撤退を行いましたし、個店はテイクアウトやデリバリーの活用、ゴーストレストランとしての展開など、ウィズコロナを見据え、企業努力でコロナ禍を乗り越えようとする企業も出てきました。



私が経営する焼肉屋も、9~10月はとても売り上げが良かったです。秋はイベントもないので本来売り上げはそこまで上がらないのですが、「Go To イート」では、インターネット予約が、開始前の10倍に跳ね上がりました。飲食店にとって「Go To イート」はかなり追い風になったと思います。



——そこに襲来したのが「第3波」でした。11月末に一部都道府県は再び時短営業を要請し、「Go To イート」の食事券も発行停止しました。



12月は飲食店の一番のかき入れ時です。業態によっては11月末から12月で、1年の売り上げの半分近くに達するという店もあります。



繁忙期の居酒屋は売り上げを伸ばすため回転率が重要ですが、午後10時までの時短営業では1回転で終わります。さらに、大手企業中心に飲み会の自粛が広がり、大口の忘年会はほとんどなくなりました。



ただでさえ2020年は厳しく、持続化給付金や家賃支援給付金、制度融資などで食いつないでいる中で、さらなる時短要請がおこなわれます。これも1カ月では収まらないのではないでしょうか。さらに、3~4月に例年通り歓送迎会がおこなわれるわけがない。先が見えません。



●協力金は事業者ごとに

——感染者拡大がいつ収まるか予想がつかず、しばらく自粛生活が続きそうです。



今回は本当に緊張感があります。12月の繁忙期も売り上げがダメで、この先数カ月は厳しい営業となるでしょう。春先に需要が復活するとは思えず、同業者で話すと「今回は致命傷だ」「廃業しようかな」という声も多く聞きます。



——時短要請する代わりに、各都道府県は協力金を支給しています。これらを、どう受け止めていますか。



東京都は2020年11月28日から12月17日までの間、営業時間短縮した事業者に対して、一律40万円を支給するとしました。1日あたり2万円になります。



ただ、これは「事業者ごと」です。1店舗のみ営業する個人店もあれば、数百店舗営業する事業者もある。店も都心と郊外では家賃が大きく違います。協力金をもらい十分回る店もあれば、まったく意味のない店もある。どうしてもひずみが出てきます。



東京都は現在、「店舗ごと」に1日6万円の協力金で調整しているとの報道がありました。この数字はインパクトがあると思います。やはり、店舗ごとにしっかり補償した上で、飲食店に自粛を求めないといけないと思います。



——特別措置法の政令改正で、時短営業要請に応じない飲食店が公表されることになりました。また、応じない事業者に罰則を設けることも検討されています。公表や罰則をどう考えますか。



もともと特措法上、要請に応じないキャバクラやカラオケ店などを公表する仕組みはあります。その対象に飲食店は入っていませんでしたが、制度として、飲食店だけを入れない理由は特にないと思います。



結局のところ、公表や罰則がないと損得勘定の話になりますから、実効性が担保できなくなります。補償をするという前提ですが、制度設計としてペナルティを課すことはやむを得ないと思います。



もちろん罰則の内容や条件を吟味する必要はあります。



接待を伴う飲食店やカラオケ店かどうか、また、ガイドラインを守っているかどうかで、感染リスクは全く異なります。ガイドラインを守っている飲食店では100人検査して一人も陽性者が出なかったという結果も出ています(第12回新型コロナウイルス感染症対策分科会調査)。



何とか店とお客さんを守ろうと企業努力をしている飲食店と、そうでない飲食店を同列に扱うのでは、やはりフェアではありません。罰則や公表を導入するにしても、先にガイドラインの徹底(人数制限や設備)という段階を踏んでもよい気がします。




【取材協力弁護士】
石崎 冬貴(いしざき・ふゆき)弁護士
神奈川県弁護士会所属。一般社団法人フードビジネスロイヤーズ協会代表理事。自身でも焼肉店(新丸子「ホルモンマニア」)を経営しながら、飲食業界の法律問題を専門的に取り扱い、食品業界や飲食店を中心に顧問業務を行っている。著書に「なぜ、一年で飲食店はつぶれるのか」「飲食店の危機管理【対策マニュアル】BOOK」(いずれも旭屋出版)などがある。
事務所名:弁護士法人横浜パートナー法律事務所
事務所URL:http://www.ypartner.com/