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Appleの来し方行く末 - ニューノーマル時代にMac復権、2021年にAppleが重視すること

2021年01月04日 16:52  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●PC業界の話題をさらうMチップ、Apple製モデムは……
依然として収まる気配をみせないコロナ禍。2021年も我慢の年になりそうだが、回復からニューノーマルへの道すじを模索する動きは間違いなく進んでいる。2020年をふり返った「Appleのゆく年くる年」に続いて、2021年のAppleを考察する。

昨年末にPC業界の話題をさらったM1 (Apple Silicon)搭載Mac。時計の針を2005年に戻すと、PowerPCからIntelのプロセッサに移行した際にAppleは6月に移行を発表、2年を設定していた移行計画を大幅に短縮して翌年の8月には全てのMacのIntel搭載を完了させた。今回も2年の移行期間を設定しており、2006年と同じように、今年は新しいプロセッサへの移行を粛々と進める年になる。だが、前回のような移行ペースにはならないだろう。前回は、Intelが圧倒的な開発力を誇っていた時期で同社がスケジュールを前倒ししたことが短縮につながった。Apple Siliconは新しい製造技術が立ち上げから間もなく、全モデルの移行完了は製造技術の成熟に合わせたものになる。

iMacや16インチのMacBook Proなど、よりパフォーマンスが求められる機種に搭載を拡大する上で注目点になるのがスケーラビリティだ。現在のM1は高性能コアx4、高効率x4という構成で、高性能コアやGPUコアを増やすことでデスクトップやProモデルのニーズを満たす。

昨年12月にBloombergのMark Gurman氏が、MacBook ProとiMac向けに、高性能コアx16個、高効率コアx4個のSoCを設計しており、生産状況に応じて最初は高性能コアを12個または8個を有効化したチップを計画していると報じた。

16コアの設計でなぜ製品が12コアまたは8コアになるのかというと歩留まりを高めるためと見られている。M1は5nmプロセスで製造されているため、シングルコア性能と効率性で既存のPC用チップ(Intel製は10nmまたは14nm)を凌駕しているが、量産が始まったばかりで不具合の発生が少なくない。低い歩留まりはチップのコストアップにつながる。対策として、製造歩留まりを高められるデザインにとどめ、さらに許容する幅を広げると推測されている。例えば、昨年末に登場したMacBook Airは同じM1チップでも上位モデルのGPUが8コア、下位モデルは7コアだ。7コアのみ有効化しているチップの中には、不具合によって8コアが揃わなかったチップも含まれると見られている。製品として十分に利用できるチップを採用することで製品歩留まりを高め、チップのコストを抑えられる。5nmの性能と効率性を手頃な価格でも提供できるようになる。

そうして新しい製造プロセスが安定してきたら、ハイエンド向けの量産が見えてくる。Gurman氏によると、新デザインのMac Pro向けに32個の高性能コアを搭載したチップをデザインしており、グラフィックスも64コアや128コアを視野に開発を進めているとのこと。

チップ関連では、5Gモデムも注目点の1つだ。AppleはiPhone 12/12 ProでQualcommのモデムを採用しているが、過去にビジネス慣行を巡って対立したQualcommに依存するのではなく、Intelのモバイル向けモデム事業を買収して自社開発に乗り出している。

新しいiPad ProからApple独自のモデムの搭載が始まるという噂が昨年末に出てきた。しかし、忘れてはならないのが、今はまだ自社開発が可能かどうか、開発の進捗が問われている段階だということ。そもそもIntelの5Gモデム開発のトラブルが、Appleが自社開発に踏み切る発端だった。モデム事業がAppleに移っただけで抱えていた問題が解決するわけではない。モデムは持続可能な事業として成立させるのが非常に難しく、Intelだけではなく、過去にいくつもの企業が挑戦しては思うような成果を上げられなかった。Appleといえども不安材料の方が挙げやすいのが現状であり、Apple Siliconのような成功をモデムでも再現できるかまだ不透明だ。

Qualcommとの契約は6年。十分な開発期間があるように思うかもしれないが、買収したIntelのモデム事業が抱えていた問題、アンテナ、RFモジュール、業界団体や参加企業との関係作り、携帯電話事業者との連携など課題は山積みである。それらのいくつに今年チェックマークを付けられるか、その結果次第でApple製5Gモデムの見通しは変わる。

●2020年のクリスマスに最もプレゼントされたiPhoneは?
昨年iPhoneは、5nmプロセスで製造されるA14チップ搭載で性能と効率性が大きく向上した。次期AプロセッサはTSMCの5nmの改良プロセスで製造される可能性があるが、昨年のような大幅な向上は期待できない。次期iPhoneについては、120Hzリフレッシュレート、Wi-Fi 6E、ノッチの縮小、1TBの最大ストレージ、大きな画像センサーをMax以外の機種に拡大、ポートレスなど、様々な噂が飛び交っている。

ただ、話題性はともかく、2021年のiPhone市場で最も大きな存在になりそうなのは次期iPhoneではなく「iPhone 12」だ。以下は、米国の昨年のクリスマスにおけるスマートフォンのアクティベーション数のトップ10だ(Flurry調査)。青いラインはアクティべーション数、点線はアクティベーション数/日のクリスマス前7日間の平均。増減率の数字は、12月18~24日の平均とクリスマスの比較(つまり、プレゼントだったかどうか)。

ここ数年のiPhoneの販売傾向は、秋の発売直後には一時的にハイエンド機種が伸びるが、売れ筋はiPhone XRやiPhone 11のようなミドル~ミドルハイの機種である。順当なら昨年末はiPhone 12がトップになるはずだった。ところが、iPhone 11が2連覇するという異変が起きた。昨年のクリスマスはアクティベーション数が前年比23%減だった。コロナ禍でスマートフォンを買い換える意欲が減退し、また5G対応で最新のミッドレンジ上位であるiPhone 12の価格が上がったこともあって、iPhone 11がよく売れたのだろう。

ただ、トップ10の9機種がiPhoneと、コロナ禍においてもiPhone人気がすさまじい。価格を除けば、iPhone 12の評価は高い。今年の秋に次期iPhoneが登場し、今のiPhone 11のポジションにiPhone 12、つまり5G iPhoneが降りてくることで5Gスマートフォンの普及が加速すると期待できる。iPhone 12の後継になる次期iPhoneが再び699USドルに下がったら爆発的に売れるという予測もあるが、OLED (有機EL)パネルやQualcommの5Gモデムといったコスト要因を考えると価格を抑えるのは「難しい」と言わざるを得ない。

iPadは、iPad Proが大きなアップデートのタイミングを迎えており、こちらは現在の搭載SoCが7nm製造のA12Z Bionicなので、5nm製造のA14の強化版またはそれ以上ならジャンプアップになる。

iPadは、iPad ProがOLEDパネルを搭載するという噂があるものの、大画面で安定しないため、12.9インチにミニLEDを採用するという予測も。ミニLEDの場合、広い色域やダイナミックレンジの表現は申し分ないものの、コストがネックであり、MacBook Proにも搭載して量を増やす可能性があるが、それでもプロをターゲットにしたデバイスの価格が上昇する可能性が気になるところ。

売れ筋という点では、iPhoneと同様に、iPadも普及価格帯の機種である。iPadのアップデートサイクルは約18カ月と言われているが、それはiPad Proの場合で、基本機種の「iPad」は第5世代(2017年3月)、第6世代(2018年3月)、第7世代(2019年9月)、第8世代(2020年9月)というようにほぼ1年のサイクルで新世代製品が登場している。iPad独自の機能追加はないものの、手頃な価格を維持し、コストが下がってきたiPad ProやiPad Airの機能をとり入れている。今年も新世代製品が登場すると期待したい。

●独占批判への切り札、コロナ禍を経て変わった製品戦略
2021年はブラウザ「Safari」の存在がこれまで以上に重要になりそうだ。FacebookやGoogleほどではないが、独占に関してAppleにも厳しい目が向けられているからだ。Appleの場合、問題視されているのはApp Storeにアプリの提供が限定されるApp Storeのビジネス手法であり、App Storeに縛られることに反旗を翻す動きが広がっている。

iPhoneやiPadと同じARM系のSoCであるM1を搭載したMacが登場し、Appleの全てのデバイスで利用できるアプリの開発が容易になってきた。それはより多くのデバイスにアプリを提供できるチャンスを開発者にもたらし、iOS/iPadOSアプリとMacアプリを一貫した体験で利用できる環境はユーザーにとって便利で生産性も上がる。だが、プラットフォームの囲い込みと見なされるリスクをはらむ。

そうした批判に対して、Appleは同社のデバイスにおいて、Webアプリを通じて自由にサービスや機能を提供することを認めている。例えば、昨年ストア規約の制限でゲーム・ストリーミングのアプリをiOSアプリで提供できないことが批判されたが、AmazonがWebアプリを通じた提供に乗り出し、MicrosoftやGoogleも追随している。「ネイティブアプリか、Webアプリか」という論争があるが、Webアプリの実行環境としてSafariを強化することで、AppleはApp Storeアプリが重要な役割を果たすプラットフォーム戦略を積極的に押し進められる。

2021年のAppleを見通す上で重要なテーマになりそうなのが「ニューノーマル」だ。2020年のまとめでも「同じことを言っていた」という声が聞こえてきそうだが、昨年のニューノーマル対応は、コロナ禍(およびポストコロナ禍)において製品開発や製品提供を遂行できる体制に移行するApple自身の対応だった。今年のニューノーマルへの対応は、新しい生活スタイルや社会のニーズに応える製品やサービスの提供である。

例えば、昨年7~9月期決算発表で、Tim Cook氏が今後の大きな可能性として「コンタクトレス(非接触)」を挙げていた。世界的に非接触決済の利用が急伸しているが、非接触決済が常態化すると、現状では子供や高齢者が利用しにくくなるという問題も。また、米国では800万世帯以上が銀行口座を持たず、現金に頼っているという問題もある。Apple Watchのファミリー共有やApple Cashは、そうした課題の解になる。

決算発表でCook氏は「MacやiPadの重要性が変わった」とも述べていた。コロナ禍でオンライン会議やオンライン学習を初めて経験した人達が、実際に使ってみて役立つことを実感し、スマートフォンと同じようにパソコンやタブレットを必携のツールと見なすようになった。特に、若い層から敬遠されてレガシー感が強まっていたパソコンに対する評価が変わっている。だからといって、今のパソコンが使いやすいかというと、カメラやマイク、周辺機器との連携、モバイルとの間で同じアプリ/サービスが使える環境など、ニューノーマルのニーズを満たすために改善できることはたくさんある。アナリストのBob O'Donnell氏は、昨今のパソコン/タブレット市場について「デバイスそのものではなく、得られる体験が重視され始めた」と指摘する。

そうした傾向はウェアラブルやホームでも見られる。新デザインのAirPodsやAirPods Pro、ゲーム向けに強化されるApple TV、長く噂されている落とし物追跡タグ(AirTag)などの登場が有力視されているが、Appleプラットフォームならではの体験が人々の心をつかむポイントになりそうだ。例えば、昨年のAirPodsシリーズの「空間オーディオ」、または米国などでスタートしたフィットネスサービス「Fitness+」のような体験である。

Fitness+は、自宅で計画的に運動を続けるのは難しい、でもジムに通うのは面倒……という人達の問題を解決してくる。Apple Watchで使うサービスで、最初はデバイス要件によって普及が難しいように思った。ところが、使ってみて、印象が逆転した。Apple Watchとサービスがインタラクティブに作用して、これまでにないウェアラブルを活用したワークアウト体験を実現している。コロナ禍でジムに通いにくくなって、自宅でできる優れたワークアウトを求める人にFitness+は魅力あるプログラムになると思う。この体験が口コミで広まったら、Fitness+に興味を持ってApple Watchを試す人が現れても不思議ではない。そう思わせる相乗効果が形になっている。私はFitness+を使ってみて、2000年代にiPodとiTunesが新しい音楽の楽しみ方を提案し、音楽のためにiPodを手にしたユーザーからMacユーザーが増え始めたのを思い出した。(Yoichi Yamashita)