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コンビニ問題、行政圧力だけでは変わらない? フランチャイズ法で「共存共栄を」 木村義和氏

2021年01月04日 10:31  弁護士ドットコム

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現代日本において隆盛を極める、フランチャイズ・ビジネス。飲食、教育、さまざまある中でも、人々の生活になくてはならないまでに成長し、「社会インフラ」とまで呼ばれるようになったのがコンビニだ。


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ところが、24時間営業や無断発注など、2019年にコンビニビジネス特有の問題が次々に炸裂。経済産業省や公正取引委員会から改善を迫られている。



フランチャイズ問題にくわしい愛知大学法学部准教授の木村義和氏は、「業界が変わろうとしている姿勢はみえる」としつつ、行政からのアプローチだけでは不十分という立場だ。



木村氏はこのほど上梓した『コンビニの闇』(ワニブックスPLUS新書)で、海外のような「フランチャイズ法」の必要性を指摘している。海外の状況などを聞いた。



●小さな加盟店と巨大な本部、圧倒的な力の差が生んだ「利益相反」

木村氏はコンビニの問題の多くが、「本部と加盟店の利益相反」から生まれていると説明する。



たとえば、「コンビニ会計」という独特の仕組みがある。本部と加盟店とで利益配分する際に、弁当類の廃棄分は原価に含まないというものだ(本部がわずかに負担はする)。



売れた分でしか考えないから、本部は欲しい商品がない「機会ロス」を減らすため、加盟店に多くの発注を求めがちだ。一方で加盟店にとっては、売り上げが増えても、廃棄が多ければ、利益にならない。



本来なら加盟店が儲かることが本部の利益となる「win-winの関係」が望ましいはずだが、実際には微妙なズレが生じている。



こうした仕組みもコンビニの拡大局面では、合理的だったのだろうが、今となっては店舗数の増加や人件費の高騰などで疲弊した一部加盟店の不満につながっている。



●フランチャイズのスキームそのものには「素晴らしい可能性」

ただし、こうした条件と引き換えに、店舗側は10兆円産業へと成長したコンビニ経営のコツや、CMで話題の独自ブランド商品を独占的に仕入れる事ができる。そのうえ経営やマーケティングの経験は、店を開く段階では必須でない。手取り足取り教えてもらえる。



「自分の店を持つ夢を抱えた、脱サラの一家。これがコンビニのオーナーに多い特徴と言われています。そのような人たちが、最新の店舗を構えて営業ができたのがコンビニの強み。



コンビニの発展は、本部のみならず、加盟店や従業員、更には消費者への利益にもなったからこそ、ここまで大きく成長してこれた。ですが今は、加盟店が疲弊してしまっているのです」



木村氏の目には、コンビニの刻んできた功罪が映っている。



「私は研究者として、フランチャイズのビジネススキーム自体は否定するつもりはない、素晴らしい可能性を秘めているとても興味深い分野なのです」



一方で「加盟店と本部とで力の差が発生しやすいフランチャイズビジネスに対しては、やはりきちんと法整備を進め、弱い加盟店を護りつつ全体の成長を目指すべきではないのか」とも話す。





●アメリカやオーストラリアなどにあるフランチャイズ法

そこで木村教授が主張するのが、アメリカやオーストラリア、韓国などで導入されているフランチャイズ法の制定だ。



例えばアメリカでは、連邦法ではないが州法で、フランチャイズ法が定められているエリアがある。



「例えばある州では、コンビニに限らず、フランチャイズの契約書を州のWEB上に開示する事を求めています。これによってアメリカ全州で展開する様々なフランチャイズ業者の、それぞれの契約書全文をいつでも読む事ができるのです。これを参考に、コンビニ経営を検討する人は初期段階から余裕を持って詳しく読んで検討する事ができるのです」



日本でも、中小小売商業振興法や独占禁止法などにより、加盟希望者に対する情報開示が求められており、契約書そのものではないにしろ、一定の情報が公開されてはいる。ただし、誠実に説明する義務までは課されていない。



「フランチャイズ契約に関する紛争は、『そんな話は聞いていない』や『いくら儲かると言っていたのに…』など、言った言わないの争いになることが多い。法律で情報の開示と説明を義務付けられれば、本部にとってもトラブル防止につながるはずです」



また、契約更新などの規定もあるという。



「米フランチャイズ法では、契約を打ち切るための正当な理由が本部に無ければ基本的に契約更新となります。



日本のコンビニでは10年15年といった期間ごとに契約更新(再契約)がありますが、これができるかは本部が決めることになっており、契約更新前は店舗側が弱い立場になってしまう恐れがあります」



●米セブンはほとんどの加盟店が団体に加入

加盟店の結びつきも大切だ。海外のフランチャイズ法を見ると、オーストラリアではフランチャイズ加盟者の団結権と団体交渉権が認められている。法律にもとづいて、本部との話し合い(団体交渉)ができるのだ。



一方、アメリカでは団体交渉権は認められていないものの、米セブンイレブン(7-Eleven, Inc.)では、加盟店主の9割がオーナー団体(注:労働組合ではない)に加盟しており、このメンバーが本部との交渉や、メーカーとの仕入れ価格の交渉を直接行い、加盟店の地位をある程度守る事ができているという。





日本にも、いくつかコンビニオーナーの団体は出来ているが、加入する加盟店は正直言って極めて少ない状況だ。



「日本では現在コンビニ加盟店は独立事業主となっていますが、同時に労働者性も認められるべきだと考えます。プロ野球の選手に認められている形態と同様ですね。



昨年、国の中央労働委員会が、フランチャイズ加盟店オーナーには団体交渉権を認めない決定を下したことに対して、コンビニ加盟店ユニオンが、国と中央労働委員会を相手取って、命令取消しの行政訴訟を起こしています。国による、フランチャイズビジネスについての独自性の理解が待たれます。



加盟店団体とだけで話せば済むので、本部側にもメリットがあると思います。裁判をするより、互いに窓口を作って交渉する方が、両者の成長にとってもプラスなのです」



このほか、アメリカでは、近隣に同一店舗を固める「ドミナント」について、加盟店に一定のテリトリー権を認めたり、新店経営の提案がないままドミナントして売上が前年比で6%以上減った場合は、損害賠償を請求する権利を認めたりしている州があるという。



●「幸せな牛ほど良くミルクが取れる」

こうした海外のフランチャイズ法にある規定は、コンビニに限らず、フランチャイズでよくみられるトラブルにも対応することができる。



「幸せな牛ほど良くミルクが取れる」ーー。木村氏は、アメリカのセブンイレブン加盟店主から聞いたことわざが、強く印象に残っている。



さまざまな可能性があるフランチャイズという業態だからこそ、法律によって、フランチャイザー(本部)とフランチャイジー(加盟店)の共存共栄が図れるモデルを探っていく必要があるという。