2021年01月03日 10:02 弁護士ドットコム
新規の契約獲得など、NHKの営業経費のうち訪問要員にかかる約300億円の費用を削減するため、「訪問によらない営業活動」の拡大を打ち出しているNHK。新型コロナウイルス感染拡大はその方針をさらに加速させている。
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現場の徴収員にとっては仕事を失う危機でもあるが、一部からは好意的に受け止める声も聞こえてくる。
「経費も減って、クレームも減るなら良いこと」。こう話すのは、受信契約などを受託する「地域スタッフ」ら60人でつくる「全日本放送受信料労働組合(全受労)」の勝木吐夢書記長だ。
一方で「公共放送を維持するためには、最低限の訪問営業は欠かせない。ごまかしや脅しではなく、健全な訪問は残さないといけない」とも言う。
背景には「NHKは不要」という人に真摯かつ繰り返し、受信料の必要性を説く訪問営業こそが、公共放送を“メンテナンス”しているという発想がある。営業活動のあり方について、現場の考えを聞いた。
――新型コロナ問題でどんな影響がありましたか?
2月末に北海道、3月末からは東京や大阪などの大都市、4月11日からは全国で訪問ができなくなりました。
地域スタッフには、住所変更や未納者からの収納などの業務もあり、歩合制です。平均すると月収は約30万円。全受労にはいませんが、年収1000万円を超える人もいます。
それだけに訪問できないとお金になりません。その点NHKは、3月については前年の成績に応じた報酬を払ってくれました。
4月からは2カ月ごとに見直されています。たとえば、前年度の業種平均の6割を払って、あとは営業リストの整備やポスティング量に応じてといった感じです。平均額近くにはなりますが、成績が良かった人にとっては大幅減収です。
――最近の活動はどうなのでしょうか?
10月から集金に限って、客先訪問が始まり、12月からはインターホンを押しての新規契約も再開されました。コロナの感染が再拡大していますし、組合としては訪問再開に反対でした。
――コロナ禍もあって、NHKは「訪問によらない営業」を強調しています。
それ自体はもう何年も前から言われていて、不動産会社やインフラ企業などとの業務連携を強めています。実際、新規契約の獲得数は、訪問した場合と変わらなくなっている。
――訪問によらない営業の拡大は怖くない?
いきなり訪問をなくすのは無理なので、NHKからは組合の意見を聞きながら検討したいと言われています。私たちとしても、経費も減って、クレームも減るなら良いことなので、反対はできない。
ただ、集金はなくなりませんし、訪問しなければ契約してもらえない方もいる。契約件数は増えていますが、契約変更や世帯消滅、転居先不明などで毎年300万件ほどの解約もあるんです。訪問をなくすと、81.8%(2019年末現在)という契約率を維持するのは難しいと思います。
――訪問を減らすため、総務省の検討会では、NHKからテレビの有無の届け出を義務化してほしいという要望が出ましたが、世論は反発の声が大きかった。
放送法は、テレビを持っている人に契約の義務があるとしていますが、支払いの義務までは直接明記していません。
そういうところに新たな義務であるとか、罰則をつくるとなると絶対に歪む。NHK自体の自浄能力がなくなると思います。総務省が検討を要請した、支払いの義務化なんてもってのほかでしょう。
我々は、罰則を設けず、訪問の説得だけで納得してもらっているのは、一つの価値だと思っています。本当に変えるべきは、「営業の質」です。
――どういうことでしょうか?
NHKは2004年に発覚した不正支出問題で、100万件を超える支払い拒否が発生し、政府から営業経費の削減と公平負担の実現、つまり支払い率の向上を要請されました。
その中で、地域スタッフの数は減らされ、10年ほど前からより効率のよい外部法人への委託が進んでいきました。地域スタッフは2004年の不祥事前最盛期には5800人もいましたが、今は1000人を切っており、歩合制によるアメと成績不振者に対する委託契約打ち切りというムチの政策で成績に対するプレッシャーも強くなってきています。
支払い率が80%を超え、テレビ離れやロックマンション、お会いできないなど訪問営業活動には厳しい状況の中で、解約におびえながらノルマを達成しなければならない状況があります。そういう中でごまかしや脅迫まがいの契約取次が起こり、法人化が拡大する中で国民・視聴者との軋轢が拡大し、多くのクレームが発生しています。
そうなると外部法人はもとより、地域スタッフでも強引で不適切な営業になりやすい。これは是正しないといけません。
――どうすれば良いのでしょうか?
全受労は、受信料制度は民主主義を支えるものだと考えています。公共放送を守るためには、受信料の理念を国民に理解してもらう必要があります。しかし、歩合制と解約のムチのもとで営業成績を上げようとすればするほど、クレームが出てきてしまいます。
我々は徴収員を委託契約ではなく、子会社で良いから雇用すべきだと思っています。安定収入があるからこそ、健全な営業活動ができる。そこに一定のお金がかかってしまうのは、「民主主義の経費」として仕方がないのではないでしょうか。
今のようなゴリゴリの営業をやらなければ、費用は縮小できます。支払率を維持しつつ、健全な営業を続けられる適正規模というのがあるはずだと思っています。
――払わない人のためにお金がかかるとなれば、公平性の問題が出て来ないでしょうか?
拒否する相手には説得しても無駄だと思います。でも、4~5年も通って説明すると、ある日、突然払ってくれることがある。番組や報道の中身で国民・視聴者の支持を得る中で支払ってくれる人が増えてくれれば一番いいと思います。
我々としても、家計が苦しいのに払ってくれている人がいるので、不公平だなと思うことはありますが、あえて言えば、それで良いのだと思います。