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Appleのゆく年くる年、iPhone 12、M1搭載Mac、コロナ禍でもヒット連発の舞台裏

2020年12月31日 16:31  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
2020年はAppleにとって変化の年だった。

MacのプロセッサにApple Siliconを採用
iPhoneが5G対応に
iPadがトラックパッド/マウスをサポート
AirPodsに初のオーバーヘッド型「AirPods Max」
App Storeの手数料率を引き下げ
フィル・シラー氏がワールドワイドマーケティング担当の上級副社長をグレッグ・ジョズウィアック氏に譲り、Appleフェローに就任

2020年のAppleをふり返る上でまずスポットライトを当てたいのが、上記の変化の背後にあってほとんど気づかれることがなかった大きな変化、「ニューノーマルへの対応」である。それがあったから、iPhone 12シリーズやM1(Apple Silicon) Macといった他の変化を実現でき、2020年度(2019年10月~2020年9月)に過去最高の売上高 (2,745億ドル)を達成することができた。

2月後半に新型コロナ禍の感染が拡大し始め、テクノロジー大手の株が急落し始めた際に、Appleは回復に時間がかかる可能性が指摘された。同社は主にハードウェアデバイス販売から収益を上げており、中国などの工場に生産を委託しているからだ。2019年1月にUnited AirlinesがTwitterでシェアした情報によると、Appleはサンフランシスコ-上海間のビジネスクラスを1日に約50席も利用している。それほど頻繁に往来しながら、サプライチェーンの流れ、製造施設や生産・出荷などを管理していた。人とものの流れが停滞すれば、新製品の供給が滞る可能性がある。

ところが、Appleは1年を通じて順調に新製品を発表し続けた。それどころか2020年は”当たり年”と呼べるほどたくさんの魅力的な製品を送り出してくれた。本当に次々に出てきて、それが当たり前のようになって見過ごされているが、2020年にAppleの新製品に対する需要に応える量を揃えて、これほど多くの新製品を投入し続けたのは驚くべきことである。

それをどのようにして実現したのか、7~9月期決算を発表した際に、オープニングの挨拶でティム・クックCEOが語っている。アイディアを出す段階から開発、製造、マーケティング、購入したお客さんに製品を届けるまで、Appleのビジネスには全てのプロセスで人と人の協力やふれ合いが欠かせない。多くのアナリストが指摘したように、コロナ禍の制約によって一時は一歩先すら予測できないような状況に追い込まれていた。

そうした困難を受け入れて抗せず、コロナ禍前のような日常が戻るのを耐えて待つのも対応の一つだった。しかし、Appleはそれを是とせず、困難を顧客のために改善できること、新たなことに取り組めるチャンスと見なして行動を起こす道を選択した。それは顧客に製品を届けるという目標を達成するために、製造管理、輸送、製品発表やマーケティング、販売・配送まで、全てのプロセスを短期間で作り直すことを意味する。新たにビジネスをゼロから作り上げるような困難な作業である。それを社員達はキッチンのテーブルやリモートオフィス、または改装した研究室や製造施設から開始した。当時の様子をクック氏が「飛行機を飛ばしながら空中であらゆるパーツを再構築しているようだった」とふり返ったように、何が起きるか予想しがたい状況だった。リモートを余儀なくされる状況ではAppleらしさを発揮できないかもしれない。ところが、社員達はリモートでもソリューションを導き出し、オフィスにいる時と同様にクリエイティビティを発揮することが不可能ではないことを証明。経営陣の予測を超えて、逆に経営陣がそれまでのマネージメントを見直すような結果を生み出した。Appleは目標を達成できただけではなく、2020年の春・夏を経て「会社として前進できた」とクック氏は述べた。コロナ禍が長期化し、また収束してもコロナ禍前と同じ環境には戻らないという見方が強まる中、2020年にAppleが前進した意義は大きい。

2020年の変化の中で最大のサプライズを挙げるとしたら、初のMac用Apple Silicon「M1」の優れたパフォーマンスと効率性で異論はないだろう。2005年にPowerPCからIntelプロセッサに移行した時は、開発者向けに先行提供された「Developer Transition Kit」の段階でIntelプロセッサの圧倒的なパフォーマンスを確認できた。今回Apple Silicon発表後に提供が始まったTransition Kit (A12Zを搭載したMac mini)は、ベンチマーク結果がそれほど印象的ではなく、特にパフォーマンスに関して事前の期待が高くはなかった。ところが、フタをあけてビックリである。それが意図した演出だったのかは分からないが、大きなサプライズになったことがApple Siliconの革新性を際立たせ、Macだけではなく、PC・モバイル業界全体を変えそうな激震になっている。

春にiPadが進化したインパクトも大きかった。新しい「iPad Pro」は、SoCがA13世代ではなくA12Zにとどまり、iPadでは活躍しにくいLiDARスキャナが新機能の目玉であるなどアップデートの狙いが見えにくい新製品だった。しかし、トラックパッド/マウスをサポートし、タブレットに最適化したマウスカーソルを備えた「iPadOS 13.4」が同時に登場し、iPadがパソコンの代替になる可能性が大きく広がった。秋には、A14プロセッサを搭載した「iPad Air」を発売。オリジナルiPadの登場から10年、節目の2020年にiPadは新たな歴史に進み始めた。

iPhoneはminiが加わって、主力モデルが「iPhone 12 Pro Max」「iPhone 12 Pro」「iPhone 12」「iPhone 12 mini」の4機種のラインナップになった。スマートフォンの使い方はユーザーによって様々であり、大は小を兼ねるという人がいれば、コンパクトさを求める人もいる。市場調査の結果を見ると、大きな画面のモデルに比べてminiのシェアが小さい模様だが、だからといってminiを失敗と見なすのは早計だ。iPhone SEシリーズへの反応を通じて、コンパクトなiPhoneを支持する確かな声があることをAppleは知っており、そうしたニーズにも最新モデルで応えるラインナップを揃えた。各モデルの区分は、画面の大きさの違いだけではなく、扱いやすいバランスの良さであったり、ラグジュアリー感であったり、カテゴリーそれぞれの特徴が感じられる。自動車のセグメントの考え方に近い分類だ。4月にA13 Bionicを搭載した第2世代の「iPhone SE」が登場したが、iPhone SEはセグメントには含まれない軽自動車のような存在といったところか。それはそれで確かなユーザーのニーズを満たす製品である。

2020年はGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)と呼ばれる巨大IT企業を規制する動きが強まった年だった。Appleについては、App Storeのビジネス手法が問題視されている。独占的にアプリを配信できる立場を利用し、高い手数料を設定、またAppleと競合するアプリに不利な条件を突きつけているという指摘を受けた。WWDC開催直前にBasecampが提供する「Hey」というメールアプリの拒否を巡って開発者コミュニティを巻き込んだ論争が起こり、夏には人気バトルロイヤルゲーム「Fortnite」を開発・提供するEpic Gamesがアプリストアの収益配分モデルや課金システムに異議を唱えてAppleとGoogleに反旗を翻した。

そうした批判に対して、Appleはユーザーの利便性と保護のための管理であるとし、独占的支配という指摘についてもGoogle Playなどいくつかの競合が存在し、自分達は支配的なシェアを持っていないと主張している。その上で同社は11月に、年間販売額が100万ドル以下の開発者に対して、通常は売り上げの30%であるApp Storeの手数料率を半分の15%に引き下げる「App Store Small Business Program」を発表した (2021年1月1日から開始)。中小ビジネスの負担を軽減する同プログラムは開発者コミュニティから歓迎されている。だが、Epicのような大手ベンダーは「開発者を分断する策略」と批判を強める。

11月には、Apple Music、Apple TV+、Apple Arcadeといったサブスクリプションサービスと、iCloudの有料プランをパッケージにして割引き提供する「Apple One」を開始した。ここ数年噂されていて、Appleのサービスを利用するApple製品ユーザーが待ち望んでいたサービスである。しかし、音楽サービスでAppleと競合するSpotifyはサービスバンドルが反競争的であると声高に批判している。「利用者のため」というAppleの主張は一定の支持を得ているものの、強大になった同社の支配力を警戒する声もまた強まっている。(Yoichi Yamashita)