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『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『約ネバ』『チェンソーマン』……2020年の“ジャンプ一人勝ち”を振り返る

2020年12月31日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2020年は「少年ジャンプ」一人勝ちと言える年だった。


 まず何より吾峠呼世晴の漫画『鬼滅の刃』の大ヒット。昨年のアニメ化によって人気が急上昇し、単行本も(文字通りの意味で)桁違いの売上となり、最終23巻が発売された12月の時点で累計発行部数1億2000万部となった。


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 アニメから入った読者が単行本をまとめ買いし、そこから、クライマックス間近の本誌連載に追いつくというアニメ・単行本・雑誌という各メディアの連携がうまく繋がったことがヒットの要因だが、アニメ化で火が付いた作品の勢いが連載終了まで続くという現象は、今までになかったものだろう。この勢いは連載終了後も続いており、映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』も大ヒットを記録。『千と千尋の神隠し』を抜き、歴代興行収入第一位となった。


 最終巻発売の際に全国紙の新聞5紙に新聞広告が掲載されたことも話題となり、文字通りの意味でも国民的大ヒット作となっており、最終回を向かえた今もこの勢いはまったく衰えていない。むしろ連載終了後の現在の方が、人気が高まっているように感じる。その意味でも2020年は『鬼滅の刃』一色の年だったと言って間違えないだろう。


 一方、昨年の『鬼滅の刃』と同じようにアニメ化によって人気に火が付き、単行本の売上が倍増しているのが、芥見下々の『呪術廻戦』だ。本誌ではすでに大人気の看板作品だったが、「呪術」を用いたバトルや呪術師や呪霊を中心とする世界観が複雑すぎたため、ジャンプ読者以外には若干、敷居が高かった。しかし、アニメ版は複雑なバトルや世界観をうまく整理して見せており、入り口として最適なものとなっている。


 UfotableやMAPPAといった制作能力の高いスタジオがアニメ化することで一気に一般層に広がるという流れは、今後のジャンプ漫画の必勝パターンとして確立されたと言えるだろう。


 また、5月に『鬼滅の刃』(全23巻)、6月に『ゆらぎ荘の幽奈さん』(全24巻)と『約束のネバーランド』(全20巻)、7月に『ハイキュー!!』(全45巻)、12月に『チェンソーマン』(第1部完、全11巻の予定)と『ぼくたちは勉強ができない!』(全21巻の予定)と、人気作が続々と終了した。


 今後のジャンプを心配する声も多かったが、人気がある限り連載が引き伸ばされるというイメージが強かったジャンプ連載が「終わるべきタイミングでしっかりと終わる」という連載方針に変わったことを強く打ち出す結果となっていたと思う。 


 第1部の連載が終わった『チェンソーマン』は、「ジャンプ+」で第2部をスタートする予定だが、元々、作者の藤本タツキは「ジャンプ+」で連載した『ファイアパンチ』で注目された作家だった。


 『チェンソーマン』は先の読めない物語と斬新な漫画表現によって本誌に新風を巻き起こした。本作の成功は、ジャンプ本誌と「ジャンプ+」の連携がうまくいったことを証明するものだったが、『チェンソーマン』の第二部が「ジャンプ+」に移ることを考えると、今後、ジャンプ漫画の中心は今後、「ジャンプ+」へと移っていくのかもしれないとも感じる。


 すでに「ジャンプ+」は、『終末のハーレム』、『地獄楽』、『SPY×FAMILY』、『怪獣8号』といった話題作を生み出しているが、ここに『チェンソーマン』が加わることを考えると、本誌に匹敵する連載陣が「ジャンプ+」に揃いつつあると言っても過言ではない。


 新人の発掘も本誌以上に勢力的。新人漫画家が作品の投稿・公開ができる「ジャンプルーキー!」を運営しており新人賞も、月間ルーキー賞や「ジャンプ+」での連載を賭けた連載グランプリ。プロ漫画家を対象に他誌でボツになった原稿を募集する「NEXT ステップ」など選択肢が豊富。先日発表された新漫画賞「MILLION TAG」(ミリオンタッグ)は、連載候補者と編集者がタッグを組んで課題に挑み、その選考過程を番組配信で見せていくという企画で、優勝者は賞金500万円の他に「ジャンプ+」での連載確約、コミックス発売、アニメ制作(一話分相当)といった副賞が用意されている。


 藤本タツキの影響を感じる作品も増えており、11月の28~30日の3日にわたって開催された「連載グランプリ2020」でゴールデングランプリを受賞した程野力丸の「宇宙の卵」は、架空の戦後史を題材にした超能力SF漫画。主人公はフィリピンでゴミ拾いをして暮らす日本人で、貧民窟の描写は『チェンソーマン』冒頭を思わせるものがあった。2話以降はネームで、第1話も画のクオリティが高いとは言えないが、それを補って余りある魅力的な物語となっており、どのような仕上がりとなるのか、今から楽しみである。


 もともと、ジャンプは新人育成に力を入れていたが、投稿の敷居が低いネットの強みもあってか、もっとも面白い新人が集まっている場所が「ジャンプ+」だと、言えるだろう。国内エンタメでは圧倒的な力を見せつけた少年ジャンプだが、今後その地位を脅かすとすれば「ジャンプ+」なのかもしれない。


(文=成馬零一)