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鉄道局職員、ニセの「青春18きっぷ」を使った疑いで逮捕…鉄道マニアの弁護士が解説

2020年12月30日 10:02  弁護士ドットコム

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偽造した「青春18きっぷ」を使って、電車に乗ったとして、国土交通省鉄道局の男性職員が12月中旬、偽造有価証券行使と詐欺の疑いで警視庁に逮捕された。


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報道によると、男性は12月18日昼ごろ、JR石川町駅(横浜市)から東京駅まで、偽造した「青春18きっぷ」で電車に乗った疑いが持たれている。



自宅のパソコンやプリンターで偽造していたようだ。警察の取り調べに「電車代を節約するつもりでやってしまった」などと容疑を認めているという。



青春18きっぷの冬季利用分は、12月1日から31日まで販売されている(利用期間は12月10日から2021年1月10日まで)。鉄道にくわしい甲本晃啓弁護士に聞いた。



●鉄道局職員である意味

――そもそも偽造した「青春18きっぷ」を利用したら、どんな罪に問われるのでしょうか?



青春18きっぷを偽造したことについては有価証券偽造等罪(刑法162条1項)、それを使用したことについては同行使罪(163条1項)が成立します(法定刑は3カ月以上10年以下)。



有価証券とは、特定の価値を持っている紙のチケット類をいいます。切手、商品券、クーポン券、割引券、株主優待券、各種の入場券・入園券などのほか、鉄道の切符もこれにあたります。



また、偽造した切符を使って、運賃の支払いを免れるという行為については詐欺罪(刑法246条2項:法定刑は1カ月以上10年以下)も成立します。詐欺罪と聞くと、人を騙してお金や物を奪うことをイメージしますが、人を騙して支払いを免れることも同じように詐欺罪として罰せられる行為なのです。



なお、男性職員の行為について、鉄道営業法違反や建造物侵入罪なども理論的には成立しえるのですが、法定刑(刑罰)が軽いので、処罰の際に別途これらの罪が考慮されることはありません。



―――鉄道会社を管理監督する鉄道局の職員であることは何か影響がありますか?



いわゆるコンプライアンスの問題です。企業や官庁には、その活動実体の大きさゆえ社会的責任があり、従業員や職員についても、職務との関係で高い清廉潔白性が求められています。



交通安全を推進するべき自動車会社の立場のある人が飲酒運転で捕まったという事件が先日ニュースになりましたが、今回のケースもまさにこれと同様で、より強い社会的非難を浴びることになる事件といえます。



今回、容疑者が鉄道局の職員であったことは、刑事事件で処分が重くなる方向で影響します。



●片道切符を偽造するより悪質だといえる

―――ほかの切符を偽造した場合と「青春18きっぷ」を偽造した場合とでは違いがあるのでしょうか?



どちらも罪になるという点で違いはありませんが、法定刑には幅があります。詐欺罪で言えば「1カ月から10年まで」という幅の中で、どの程度の刑罰を選択するのかというのは、行為の悪質性で決まります。



青春18きっぷは、日本全国のJR全線が乗り放題となる1日フリーパスが5回分セットになった切符で、価格は1万2050円です。一方、この事件で支払いを免れた運賃は570円(切符利用)です。570円の片道切符を偽造することよりは、青春18きっぷを偽造したことのほうが悪質であるといえます。



―――自動改札を強硬突破した場合で処罰に違いはありますか?



結論から言うと、それほど変わらないと考えられます。



少し詳しい方ですと「有人改札で人を騙すと詐欺罪になるが、自動改札を突破しても鉄道営業法違反として少額の罰金刑になるだけだ」という話を聞いたことがあるかもしれません。たしかに、たまたま出場時にICカードの残額が不足していて、出来心でゲートをすり抜けて行ってしまったという事案であればこの理解のとおりと思います。



しかし、最初から正規料金を支払う意思もなく、少額の切符・入場券やICカードを使って入場し、到着駅の自動改札を強硬突破するようなケースについては、鉄道施設への立ち入り自体が違法になるので、建造物侵入罪として3年以下の懲役または10万円以下の罰金が課される可能性があります。



有人改札で不正な切符を示して運賃の支払いを免れた場合と、故意に自動改札を強行突破した場合と比較しても、実務上はどちらが明らかに軽い、重いといった扱いはないように感じます。もちろん、最終的にどんな処分になるかは個別事案での悪質性の評価によりますのでひとくくりにはできませんが、どちらの場合であっても鉄道会社と示談ができて不起訴処分になるケースも少なくありません。また、起訴されたとしても、この犯罪だけで懲役1年を超えるような重い刑事処罰がされることは稀だと思います。



●転売するときには注意しよう

―――青春18きっぷについて、ほかに気をつけるべきことはありますか?



青春18きっぷは、日本全国のJR全線が乗り放題となる1日フリーパスが5回分セットになった1枚のチケットで、使用の際に券面に日付印を押してもらいます。青春18きっぷを使用当日中に他人に譲渡することはできません(JR東日本旅客営業規則167条1項7号)。ほかの会社にも同様の規定があります。



しかし、たとえば、4回分を使い終わってまだ1回分が残っているものを売ったり買ったりすることは、特に問題ありません。



一方、青春18きっぷの利用時期に合わせて運行される夜行列車(たとえば東京~大垣間の「ムーンライトながら」、この年末年始は運行なし)の指定券を、旅行を取りやめたからといって、払い戻しをせずに転売することは、いわゆる「ダフ屋行為」として都道府県条例で処罰対象となる可能性があります。




【取材協力弁護士】
甲本 晃啓(こうもと・あきひろ)弁護士
東京・日本橋兜町に事務所を構える弁護士・弁理士。東京大学大学院出身。著作権と商標に明るく、専門は知的財産とIT法。鉄道模型メーカーをはじめ多くの企業で法律顧問を務め、鉄道にも造詣が深い。個人向けサービスとしてネット名誉毀損「加害者」の弁護に特化したサイト「名誉毀損ドットコム」(http://meiyo-kison.com)を2016年7月から運営。
事務所名:弁護士法人甲本総合法律事務所
事務所URL:http://komoto.jp