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「車体開発とレース現場の運営が上昇気流に乗っている」2021年に向け弾みに/ホンダ本橋CEインタビュー(前編)

2020年12月27日 15:11  AUTOSPORT web

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2020年F1第17戦アブダビGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)
スクーデリア・アルファタウリ・ホンダとチーム名も変わって再出発した1年目。ほぼ毎戦コンスタントに入賞し、2019年より4戦少ない開催数だったにもかかわらず、チーム史上最高の二桁ポイントを獲得した。さらに第8戦イタリアGPではピエール・ガスリーが初優勝を果たすなど、確かな足跡も残した。

 一方でコンストラクターズ選手権は7位と、2019年より順位を下げた。目標としていた5位を達成できなかっただけでなく、ライバルのマクラーレン、レーシングポイント、ルノーに大きく差をつけられてしまった。2020年はどの部分で進化を実感し、一方で何が足りなかったのか。アルファタウリ・ホンダの本橋正充チーフエンジニアが振り返った。

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──1年間お疲れ様でした。しばらく会っていない間に、髪の毛がずいぶん伸びましたね。

本橋正充チーフエンジニア(以下、本橋CE):伸びましたよ。6月の頭に日本から飛んできてから、一切切っていないんです。

──それだけ忙しかった?

本橋CE:それもありますけど、やっぱり(コロナが)心配じゃないですか。田辺(豊治/ホンダF1テクニカルディレクター)さんが「切ってやる」っていうんですけど、それも怖くて(笑)。

──確かに(笑)。最終戦アブダビGPはピエール・ガスリー8位、ダニール・クビアトは入賞にわずかに届かず11位でした。今季のアルファタウリを象徴するような、そんな1戦だった気がします。

本橋CE:う~ん、結果だけ見るとそうかもしれませんが、レースの流れも含めてちょっと運に左右された部分もありました。運とかタイミングで、(ふたりの)差がついているのかなと思いますね。週末を通したパフォーマンスでは、ふたりはほぼ同じぐらいなんですよ。ちょっとした出来事で、クビアトの順位が下がることが多かったですね。

──運やタイミングで順位が大きく変わるというのは、中団グループのなかのアルファタウリにも言えることですよね。今年もライバルたちとのパフォーマンス差は、非常に接近していました。

本橋CE:そうですね。上の数台は抜きん出ていますけど、中団の戦いは完全にパックになってた。予選もレースも、ちょっとしたことで大きく順位を落とす。そんな1年でした。

──シーズンを振り返ると序盤4戦ぐらいは、なかなか結果が出せなかった。「ポテンシャルはあるのに、マシンへの理解が進んでいない」と、本橋さんは当時語っていました。その後少しずつ結果が出るようになって、けれどもマクラーレン、レーシングポイント、ルノーとの差はどんどん開いていった。モンツァの優勝を別にすると、8位前後の入賞が多かったです。ダブル入賞も少ない。中団のなかでの上位3チームとの差は、最終戦まで縮まらずにきたということですか。

本橋CE:クルマのパフォーマンス自体は、チームの開発力もあって、かなり上がってきたという認識です。金曜と土曜の、クリーンエアで走ってる時のパフォーマンスは、割りといいところにきています。それがレースでは、どうしてもDRSトレインにハマってしまって、そこでのタイヤの保たせ方、セーフティカーのタイミングなどで順位が入れ替わったりする。レースをうまく戦えないことで、本来のパフォーマンスにそぐわない結果になっているのかなと。クルマ単体で見た時には、パフォーマンスは2019年よりさらに改善しています。事前準備でも狙ったバランスでセットアップができたりと、車体開発とレース現場での運営が揃って上昇気流に乗ってきていると思っています。

──すでにもう年末ですし、開発制限もありますから、2020年の力関係がそのまま2021年に移行するかなと漠然と思っています。となると、2021年もいい戦いができそうですか?

本橋CE:自分の担当するチーム以外の競争力ははっきり見えませんけど、パフォーマンスは間違いなく伸びています。ちょっとした出来事に、戦略も含めてどう対応できるか。車のパフォーマンス自体は上昇気流に乗っていると思いますので、そのまま来季に臨めるかなと。私自身は決して悲観的じゃなく、楽しみに2021年の開幕を待ってます。

──ちょっとしたことで大きく順位が変わる状況というのは、逆にいうとちょっとしたチャンスをガッチリ掴むと、モンツァのように勝てる可能性もあるということでしょうか?

本橋CE:そう思いますね。まあモンツァはいろんなことが起きすぎましたが(笑)、少なくとも中団のなかで上位に行ける実力はあると感じてます。

──今季のアルファタウリ『AT01』は、レッドブルから2019年型の足回りやリヤアクスルなどの提供を受けました。その影響がどれほどあったのかわかりませんが、レッドブルの『RB16』に比べて非常に挙動が安定していた印象です。来季もそのあたりの長所は、継続されると考えてもいい?

本橋CE:どうでしょう。なんとも言えませんが、シナジー効果というか、レッドブルとの協力関係が、もちろんホンダも含めてですが、良い方向に進んでいることは間違いないでしょうね。ただ空力はチーム独自の開発ですし、その辺の努力が身を結んだのだと思います。

──一方で中団グループのライバルは、2021年も強力でしょうね。

本橋CE:そう。強力でしょう(苦笑)。

──接近した戦いは、来季も続くと。

本橋CE:そう思いますね。もちろんみんな、中団という位置に満足しているわけではない。少しでも上にいこうと開発にしのぎを削っているわけで、ほんのちょっとの気の緩み、開発の遅れが、大きく結果に影響しますよね。すぐに置いていかれてしまう。

──数字的には、2019年の21戦で獲得したポイントより、17戦の2020年の方が獲得ポイントは多かった。にもかかわらず選手権順位は、去年の6位から7位へとひとつ落ちてしまった。それだけ厳しい競争を戦ったということなんですね。

本橋CE:そう思います。獲得ポイントがいくら多くても、戦っている我々からすると選手権順位がすべてです。今年の結果はチームも含めて、真摯に受け止めないといけない。ただ開発自体はいい流れなので、さらに弾みをつけて上を目指したいですね。最終戦後のミーティングでも、そんな話をしたばかりです。

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(後編に続く)