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映画『ザ・プロム』は“ミュージカル=ダサい”の概念を打ち壊す作品に 楽曲がくれる明日を生きるパワー

2020年12月27日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

映画『ザ・プロム』

 この場を借りてタモリさんにひとこと言いたい。「ミュージカルがダサいって、もう20年前の話ですよ」と。


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 ブームといわれた時期を経て、今やミュージカルは一部のコアなファンに支えられるコンテンツでなく、多くの観客に愛されるエンタメとなった。その要因のひとつが優れたミュージカル映画の公開である。


 中でも『ドリームガールズ』や『レ・ミゼラブル』、『美女と野獣』等の良質なミュージカル映画が「ミュージカル=急に歌いだすのがダサい、不自然」というある種の先入観を打ち破ってきたのは間違いない。え、『キャッツ』? まあ、えっと……うん、あれは実験的な作品で……げほんげほん。


 と、ここ数年、ブロードウェイやウエストエンド発のミュージカル作品が続々と映画化されているわけだが、またひとつ「ミュージカル=ダサい」といった概念を打ち壊す作品が現れた。現在、映画館とNetflixにて公開中の『ザ・プロム』だ。


 舞台はインディアナ州の保守的な町。LGBTQの当事者である高校生のエマ(ジョー・エレン・ペルマン)は、恋人とのプロム参加をPTAから却下され、やり場のない気持ちを抱えていた。時を同じくして、新作ミュージカルでの演技を酷評され、ブロードウェイでの公演打ち切りが確定したディーディー(メリル・ストリープ)とバリー(ジェームズ・コーデン)、業界歴は長いが俳優としてはパっとしないトレント(アンドリュー・ラネルズ)とアンジー(ニコール・キッドマン)の4人は、SNSでインディアナのニュースを知り、自分たちのイメージアップを図るためNYから現地へと乗り込む。10代の想いと大人たちの思惑とが交差する中、いよいよプロムの当日にーー。


 『ザ・プロム』の基になっているのは2018年から19年にかけてブロードウェイで上演されたミュージカル『プロム』。公演回数は約300回とロングランには至らなかったが、ミュージカル作品賞を含め、その年のトニー賞6部門にノミネートされている。映画版を監督したのはマシュー・モリソンやリア・ミシェルをはじめ、ミュージカル俳優を積極的に起用したドラマ『glee』で製作総指揮を務めたライアン・マーフィーだ。


 本作のテーマは「多様性」=「他者を受け容れ認めること」で間違いないのだが、中でも特にフォーカスされているのがセクシャリティである。エマとその恋人・アリッサ(アリアナ・デボース)、ゲイであることを10代の時に両親から否定されたバリー。物語ではLGBTQの当事者である彼らが“ありのままの自分”で存在しようとする姿がポジティブに描かれる。


 そんな彼らの想いを表現するのに大きな役割を担っているのが音楽とミュージカル映画ならではの演出だ。


 NYからの闖入者で場が混乱する中「シンボルにもスケープゴートにもなりたくない、ただあなたと踊りたい」とエマとアリッサが歌う「Dance with You」は女性同士のラブソング。2人の気持ちが強まるにつれ、学校の裏庭から花咲く木の下とカメラが切り替わり、日常が夢の世界へと昇華する。


 また、エマから「あなたとプロムに行きたい」と誘われたバリーの「Barry Is Going to Prom」は映像ならではの仕掛けに満ちた1曲。カフェ、ホテル、リムジンの後部座席と次々とシーンが移り、最後はプロム会場に入れなかった17歳の自分と大人になった今の自分とが華やかな会場で共に歌い踊るという楽しくて少し切ないナンバーだ。


 もちろん、アカデミー主演女優賞を2回獲ったメリル・ストリープも負けてはいない。ディーディーが高校の体育館で生徒やPTAに披露する「Changing Lives」や、校長を陥落する時に歌う「The Lady’s Improving」ではスターとしての貫禄をこれでもかと見せつける。今回、ダンスシーンが登場人物の中で1番多かったと語るメリルはダンスダブル(吹替え)を一切使わず、すべて自分で踊り切ったそう。ここで彼女の年齢に言及するのは避けるが、最高のほめ言葉=“化け物”と評さずにはいられない素晴らしいパフォーマンスを魅せてくれた。


 本作の見せ場のひとつがクライマックスのプロムシーン。登場人物全員がそれぞれの想いを100%出し切って歌い踊る「It’s Time to Dance」では、ミュージカル映画のおいしいとこどりともいえる華やかでポジティブ、キラッキラの世界がこれでもか! と展開。音楽の持つパワーと作品のメッセージとが化学反応を起こし、非常にエモーショナルな場面になっている。もう「ミュージカル=ダサい」なんて言わせない!


 そして舞台版の『ザ・プロム』は2021年、地球ゴージャスのプロデュースにより日本でも上演が決定。エマとアリッサのカップルを葵わかなと三吉彩花が演じ、ディーディー役は大黒摩季、草刈民代、保坂知寿の3人が日替わりで務める。日本版脚本・訳詞・演出を担い、バリー役として舞台にも立つ岸谷五朗は、ブロードウェイでの公演を見て、自らの演出で上演したいと熱望したそう。


 「ありのままの自分でいるためには声を上げることが必要」と、画面の向こうから私たちに訴えかけてくる本作。そのメッセージに加え、キャッチーでノリノリ、時に胸にきゅんと刺さるキラキラした楽曲にも明日を生きるパワーをもらえること間違いなしである。(上村由紀子)