2020年12月27日 10:22 弁護士ドットコム
2020年を振り返って、どんなニュースが印象に残っていますか。コロナウイルスに関連したニュース以外にも、様々な出来事が起こりました。2020年、弁護士ドットコムニュースで反響のあった記事をもとに、今年を振り返ってみます。
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2020年05月21日に掲載され、反響があったのが、特別定額給付金10万円をめぐる家族のトラブルについての記事でした。以下は当時の記事です。(掲載当時とは状況が異なっている可能性があります)
特別定額給付金10万円の支給をめぐり、家庭内でトラブルが発生しているようだ。
その理由は、世帯主が申請し、世帯主のもとに振り込まれる仕組みにある。「世帯主の夫が、自分のためだけに使うと言っている」「子どもが全額を自分で使おうとしている」などの悲鳴があがっているのだ。
弁護士ドットコムのLINEには、「世帯主である夫から、全額オレが使うと言われた」という相談が寄せられた。夫は家族5人分の50万円を、自分の仕事関連に使う予定だという。女性が娘と共に「ひどい。なんで?おかしい」と訴えると、逆ギレされ暴れられたという。
女性は「これからもお金がかかるから、10万円をとっておきたいのですが、よくないことなのでしょうか」と夫の行動を疑問に思っているようだ。
別の悩みを抱えている人もいる。「自分のお金だから、自分が好きなように使いたい」と主張する子ども(10)に悩んでいるのは、都内の主婦(40)だ。当初、貯金するつもりでいたものの、子どもはニュースで特別定額給付金について知ると、欲しいものができてしまった。
女性は「ベストセラーとなった『こども六法』を読み、財産権の概念を知ったようで、自分のお金は自分で使えるはずだと主張してくるので、困っています」と話す。
法的にはどのように考えられるのだろうか。石井龍一弁護士に聞いた。
ーー「10万円」を世帯主が家族に渡さなかった場合、法的に問題と言えるのでしょうか
今回の特別定額給付金について、2つの考え方があると思います。
1つ目は、世帯主のみが受給権者(給付金の受け取り手)なのであって、家族は給付対象者(給付金の額を計算する基準となる人数)に過ぎない、というものです。
2つ目は、受給権者はあくまでも国民ひとりひとりなのであって、手続上、世帯主に家族全員分が支給されるようになっているだけだ、というものです。
1つ目の考え方に立つと、世帯主が受け取った給付金を他の家族に渡さず、仮に遊興費に使ったとしても、それは世帯主が自分がもらったお金を自分の思うように使っただけのこととして、法的な問題は生じません。
2つ目の考え方に立つと、世帯主が受け取った給付金を他の家族に渡さないことは、他の家族ひとりひとりが持っている給付金を受け取る権利を侵害したことになり、法的な問題が生じることになります。
ーー今回の「10万円」は、どちらの考え方になるのでしょうか
どちらの考え方に立つべきかは、現時点で法的な見解が確立されているわけではなく、もちろん裁判例もありませんから、確定的なことは言えません。
ただ、今回の特別定額給付金の目的は、「感染拡大防止に留意しつつ、簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行う」とされていて、「国民ひとりひとり」への支援という文言になっていません。
また、総務省の説明によると、「給付対象者は、基準日(令和2年4月27日)において住民基本台帳に記録されている者」「受給権者は、その者の属する世帯の世帯主」とされていることなどからすると、私は1つ目の考え方の方が自然ではないかと思います。
ーー世帯主がお金を勝手に使い込むなどした場合、法的に問題になりますか
この点も、1つ目の考え方からすると、そもそも世帯主がお金を使い込んでも民事、刑事とも何の問題もないことになります。
2つ目の考え方に立つと、世帯主が自身の10万円以上の他の家族分の給付金を勝手に使い込むことは横領と言えることになりますが、刑法では夫婦、親子間では横領罪は成立しないこととなっているので、刑事罰の対象にはなりません。
ただ、民事上は返還請求ができることになります。
ーー今回10万円は子どもも対象です。もし、子どもが「10万円」を自由に使いたいと主張した場合、親は拒否できるのでしょうか
親が世帯主の場合、1つ目の考え方に立つと、子ども分の給付金もそもそも子どものお金ではないことになりますから、当然拒否できることになります。
2つ目の考え方に立っても、親権者には子の財産管理権がありますから、子の願望を拒否することは認められます。
親が世帯主でない場合は、いずれの考え方に立っても、親権者として子の願望を拒否できます。
ーー今回の「10万円」は誰のものなのか。考え方には2つあり、それにより法的な問題が生じるかどうかも違ってくるということですね
冒頭で、1つ目の考え方の方が自然な解釈ではないかと申し上げました。
世帯主だけが受給権者とされたのは、あくまでもそうしないと迅速な支給が実現できないから、という現実的な理由によるところであり、実質的には、この給付金は国民ひとりひとりへの支援として生かされるべきものだと思います。
実際、DVを理由に避難している方で、事情によって基準日以前に住民票を移すことができない人は、世帯主でなくても給付金を受け取ることができるという措置も今回取られています。
給付金を受けるかどうか、支給された給付金を誰がどのように使うか、といった問題は、家族間でよく話し合って決めるべきでしょう。
【取材協力弁護士】
石井 龍一(いしい・りゅういち)弁護士
兵庫県弁護士会所属
事務所名:石井法律事務所
事務所URL:http://www.ishii-lawoffice.com/