2020年12月25日 10:11 弁護士ドットコム
妻の日ごろの言動への鬱憤が爆発して、突発的に壁に穴をあけて壊してしまったーー。自分のやったことは「精神的DV」なのではないかと悩む30代の男性から、弁護士ドットコムに相談が寄せられました。
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相談者の妻は専業主婦。朝食をまったく作らないほか、「一生セックスしなくて良い」と言い放ったこともあるそうです。また、相談者としては家事や育児に協力していたつもりでしたが、妻が相談者の母親に「まったく協力してくれない」と報告したことにも不満を感じていました。
このようなことが重なり、妻に対する苛立ちを募らせた相談者は、ある日、妻子の不在中、壁に穴をあけて壊してしまいました。また、妻に対して「生活費を制限する」「今帰ってきたら何をするか自分でもわからない」などと脅迫するようなメールを衝動的に送りつけてしまったといいます。
冷静になった相談者は、自身の行為は「精神的DVとも取られかねない態度」ではないかと考え始めました。このような行為は「精神的DV」にあたるのでしょうか。井坂和広弁護士の解説をお届けします。
ーー相談者の行為は「精神的DV」にあたるのでしょうか。
少なくとも相談者の「鬱憤の爆発」は、DVの始まりだと思います。
そもそもDVとは、1回限りの暴力ではなく、反復・継続しておこなわれ、そして、家庭のような親密な関係で行われる「構造的」な暴力のことです。
したがって、もし、相談者がたまたま1回だけ、日頃の不満や鬱積が爆発して、壁に穴をあけてしまったなら、一般的なDVの範疇から外れると考えられます。もちろん、今後一切、そのような行動がないことを前提に考えた場合です。
しかし、相談者の鬱積の爆発が、本当に1回きりで済むとは限りません。相談者自身は「突発的」と言っているようですが、そのような行動に出るにはそれなりの理由があるはずです。恐らく長い年月を経て溜め込まれたその鬱積は、一度爆発してはけ口を見つけたら、止まらないのではないでしょうか。
実は、壁に穴をあけるという行動はDV特有です。妻や子は壁にあいた穴を見て恐怖を覚えるでしょう。暴言や暴力的な行動によって相手の心を傷つけることは、精神的DVにあたります。
相談者は「妻の仕打ち」に耐えかねたと言っていますが、DVに妻との諍い(いさかい)などの原因は関係ありません。DVの原因は、DV加害者自身の心の中にあるからです。
ーー相談者は妻との離婚を考えているそうです。しかし、今回のような行為は、離婚をするにあたって不利な要素になるのではないかと心配しています。
相談者が心配しているとおり、DVがあったことは、離婚するにあたって間違いなく不利な要素となります。相談者からの離婚請求は認められないでしょうし、逆に、妻側からの離婚請求と慰謝料請求は、DVを理由に認められるでしょう。
ただ、実感として、この事案のようにDV行為をしている人自身が「自分のやったことはDVではないか」と悩むというのは極めて稀で現実的ではないと思います。このような文学青年的内向性を持つ人に「DV」は馴染みません。
DVの本質は加害者当人が自分の行動にまったく疑問をもたない病理的行動なのです。
(弁護士ドットコムライフ)
【取材協力弁護士】
井坂 和広(いさか・かずひろ)弁護士
群馬弁護士会所属、早稲田大学政経学部卒。専門分野は、低周波音問題、DV問題、医療問題など。平成17年度群馬弁護士会副会長、前橋家庭裁判所調停委員。
事務所名:弁護士法人井坂法律事務所
事務所URL:http://isakakazuhiro-lawoffice.jp/