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売れているのに変える? ホンダが「N-BOX」をマイナーチェンジ

2020年12月24日 11:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
5年連続で軽自動車ベストセラーの座に君臨するホンダ「N-BOX」がマイナーチェンジを実施した。売れている車種だけあって大きな変更点はないが、その中でデザイナーやエンジニアが手を入れた箇所とはどこなのか。事前説明会での情報を中心にお届けしよう。

○なぜN-BOXの人気は根強いのか

全国軽自動車協会連合会が発表した今年11月の車種別新車販売台数によると、ホンダ「N-BOX」は昨年12月から12カ月連続でトップの座を守り続けている。2020年1月からの累計販売台数は18万2,557台に達した。

2位のスズキ「スペーシア」は12万9,104台、3位のダイハツ工業「タント」は12万106台なので、2位以下には5万台以上の大差をつけていることになる。12月中の逆転は難しそうなので、2014年からの6年連続年間ベストセラーはほぼ確実だろう。だからこそ、12月24日のマイナーチェンジに対しては「必要ないんじゃない?」という声も聞こえてきそうだ。

N-BOXの初代が発売となったのは2011年のこと。初代はモデル末期になっても販売台数第1位の座にあったが、ホンダは2017年8月にフルモデルチェンジを実施し、現行型に切り替えた。その結果が、現在までのN-BOXの人気ぶりにつながっているのだ。王者の進化とはどうあるべきかを、ホンダはわきまえつつあるのかもしれない。

なぜN-BOXの人気は根強いのか。マイナーチェンジ発表の事前取材で本田技研工業 商品ブランド部 商品企画課の樽谷眞氏は、同社の創始者である本田宗一郎氏の「ユーザー目線で考え、既成概念に囚われない」という教えに言及しつつ、軽自動車の常識を破る空間、質感、走りなどでゲームチェンジを狙ったことがN-BOXの成功に結びついたと解説した。

車体後部のフロアを低くしてスロープ状にした車種を初代から用意したことも新しい提案だったという。他車の車いす仕様車のような扱いとせず、普通のバリエーションとしてラインアップに加えたことで、自転車や耕運機を乗せて運ぶなど、幅広い使い方に対応することができた。その結果としてユーザー層が広がったそうだ。

N-BOXのようなスーパーハイトワゴンは、子育て中の母親がユーザーとなることが多い。N-BOXも2011年に登場した頃は、ママユーザーが4割を占めていたという。しかし、走りの良さやマルチパーパス性などが評価され、今は男女比が半々になっているとのことだ。
○似ているようで違う顔つき

説明会場には新型N-BOXの他に「N-WGN」、「N-VAN」、そして、先月フルモデルチェンジを実施した「N-ONE」も置かれていた。「N for Life」をコンセプトに掲げる「Nシリーズ」の4台だが、11月の販売台数を見るとN-BOXが1万5,000台以上であるのに対し、他の3車種はいずれも5,000台に届いていない。ホンダとしてはN-BOXを「Nシリーズ」の牽引役に位置付け、プラットフォームやパワートレインを共用しているシリーズ全体のアピールにも注力していく方針だ。、

では、N-BOXのデザインはどう変わったのか。本田技術研究所 デザインセンターでエクステリアデザインを担当する石川厚太氏からは、ノーマルとカスタムの違いをより明確にしたという説明があった。

マイナーチェンジなので変更点はフロントまわりに留まるが、まずノーマルはグリルのスリットやクロームメッキの帯の位置が異なり、バンパーの開口部にもクロームのバーを入れている。ヘッドランプも瞳のような奥行きを感じるようになった。

グリルの変更により、多くの人は高級感が増したと思うだろう。バンパーのバーは低重心を強調するものだそう。N-ONEはモデルチェンジで開口部を広げていたが、手法は異なるものの目的は同じだ。

カスタムはグリルやバンパーの開口部を広げた。ヘッドランプを貫くように左右に伸びたクロームメッキのバーは、ノーマルのグリルと同様に凝った造形になった。バンパー開口部左右を囲むようにクロームが追加され、ナンバープレートの取り付け位置が中央に移動したことも特徴だ。いずれも押し出し感を強調したという。

同じデザインセンターでCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)を担当する濱村奈奈絵氏によれば、ボディカラーはノーマルにホワイトパール、カスタムにブルーメタリックを新色として追加。ノーマルのインテリアはベージュだった部分をブラウンとしたそうだ。カスタムでは逆に、インパネやドアトリムのブラウンだったパネルをダークブルーとした。
○新設定の「コーディネートスタイル」とは

新たな提案としては、2トーンカラーを「コーディネートスタイル」に進化させたことがある。ノーマルではルーフの塗り分けをホワイトからブラウンに変えるとともに、ドアミラーだけでなく、ホイールも同じブラウンで統一したのである。インテリアはオフホワイトのトリムやシートもブラウンになる。

カスタムのルーフはシルバーあるいはブラックで、やはりドアミラーも同色になるが、ホイールはブラックで統一される。インテリアはダークブルーだったパネルがワインレッドになり、シート中央のラインも同色で合わせた。ノーマルを含めて独特の雰囲気だ。

メカニズムについては、軽トップクラスの予防安全機能である「Honda SENSING」をレベルアップさせた。具体的に何が変わったのかについては、開発責任者であるホンダ 四輪事業本部 ものづくりセンターの宮本渉氏から説明があった。

アダプティブクルーズコントロールや車線維持支援システムなどは時速120キロ対応に。後方誤発進抑制機能はセンサー数を2個から4個に増やすなどの機能向上を図ったという。

660㏄3気筒エンジンは、ターボ仕様の燃料の蒸発量を抑えることで環境性能を高めた。全車に搭載するCVTは加速の立ち上がりを良くし、エンジン回転をリニアに上げ、下り坂やコーナー入り口などで積極的にエンジンブレーキを掛けるなどのチューニングを施した。

装備では、リアシートに荷物などを置き忘れた際に注意してくれる「リアシートリマインダー」が便利そう。荷物だけでなく、車内に子供を置き去りにしてしまうことで発生する事故の防止にも貢献するだろう。

現状でも好評を博しているだけに、大きく変える必要はなかったはずのN-BOX。それでも、コーディネートスタイルを新たに用意するなどしたマイナーチェンジからは、N-BOXと過ごす日々をさらに楽しく、豊かにしていこうというホンダの気持ちが伝わってきた。王座でありながら挑戦をやめないこの姿勢が、ベストセラーの理由なのだと教えられた。

森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)