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ドンキ前社長逮捕「インサイダー取引」とは違う? 知人に「自社株購入」勧めた疑い

2020年12月22日 10:12  弁護士ドットコム

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ドンキホーテホールディングス(HD)=現パン・パシフィック・インターナショナルHD=が関わった株式の公開買い付け(TOB)をめぐり、TOB公表前に知人に自社株の取引を勧めたとして、ドンキHD前社長が12月3日、金融商品取引法違反(取引推奨)の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。


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報道によると、前社長は在職中の2018年9月、流通大手ユニー・ファミリーマートホールディングス(現ファミリーマート)によるドンキ株TOB実施の公表前に、知人に利益を得させる目的でドンキ株購入を勧めた疑いがあるという。



TOB実施は2018年10月11日、両社が公表した。この知人は勧めに応じて、ドンキ株計7万6500株を計約4億3000万円で買い付けて、公表直後に売却して利益を得たという。



今回の逮捕容疑となった「取引推奨」とはどのようなものなのだろうか。また、「取引推奨」を受けて取引した側は処罰されないのだろうか。岩崎哲也弁護士に聞いた。



●「取引推奨」で処罰されるのは実際に取引が行われた場合のみ

——「取引推奨」はどのような行為なのでしょうか。



「取引推奨」(金融商品取引法167条の2)は、インサイダー情報伝達の潜脱的行為となり、あるいは未公表の重要事実に基づいた取引に繋がり、証券市場の公正性・健全性に対する投資家の不信感を生むおそれがあるものとして、2014年4月に施行された法改正で新たに禁止された行為です(インサイダー取引規制に関するワーキング・グループ「近年の違反事案及び金融・企業実務を踏まえたインサイダー取引規制をめぐる制度整備について」)。



——「取引推奨」として禁止されているのは、具体的にはどのような行為なのでしょうか。



業務等に関する重要事実を知った会社関係者又は公開買付け等事実を知った公開買付等関係者が、その事実の公表前に、当該株券等の売買等又は買付け・売付け等により他人に利益を得させ、あるいは損失を回避させる目的で、その他人に当該株券等の売買等又は買付け・売付け等を勧める行為が禁止の対象とされています。



重要事実又は公開買付け等事実を教えなくても、売買等又は買付け・売付け等を勧めるだけで違反となり得ます(上記事実を教えた場合は、「情報伝達行為」として「取引推奨」と同じ条文により別途規制されています)。



——「取引推奨」をした場合の罰則などはどのように定められていますか。



罰則は、5年以下の懲役も若しくは500万円以下の罰金、又はその併科となっています(同197条の2第14号・15号)。また、課徴金の対象にもなり得ます(法175条の2)。ただし、これら刑罰・課徴金の対象となるのは、条文上、「取引推奨」を受けた者が重要事実等の公表前に売買等を現実に行った場合だけです。



したがって、「取引推奨」を行っても、これを受けた者が売買等を行わなかった場合、刑罰・課徴金の対象とはなりません。



もっとも、刑罰・課徴金の対象にならないとしても、「取引推奨」をした者が金融商品取引業者の場合は行政処分の対象となり得るほか、それが上場会社の役職員の場合はその会社の社内規則に違反することとなり得ます(金融庁「情報伝達・取引推奨規制に関するQ&A」)。



●「インサイダー取引をした場合と同等の悪質性までは認められない」

——「インサイダー取引」とはどう違うのでしょうか。



最も典型的な「インサイダー取引」は、重要事実を知った会社関係者等が、その事実の公表前に自分自身で売買等の取引をすることです。



「取引推奨」との違いとして、(1)会社関係者等が自分自身で売買等をしなくても、他人に取引を推奨すれば違反となり、さらにその他人が売買等を実際に行えば、その会社関係者等が処罰されることがある、(2)「取引推奨」を受けた側は、売買等をしても処罰規定はない(これに対し、「情報伝達行為」を受けた者が売買等をすれば、同166条3項・197条の2第13号で処罰され得ます)、という点が挙げられます。



——「取引推奨」を受けた側の処罰規定がない主な理由について、金融庁は弁護士ドットコムニュース編集部の取材に対し「インサイダー取引をした場合と同等の悪質性までは認められない」「制限すれば過度に取引を抑制してしまうおそれがある」などと回答しました。



私なりに言い換えれば、会社関係者等から重要事実等を知らされた者が有価証券等の売買等をすれば、そうした「おいしい情報」を知らずに取引をする一般投資家から見れば極めて不公平に映り、証券市場の公正性・健全性を害すること甚だしく、刑罰により規制するのが相当と考えられます。



一方で、「取引推奨」を受けただけの者は、売買等を行ったとしても、そうした「おいしい情報」を知らされることなく、いわば「推奨」に乗っただけですから、その者が結果的に「おいしい思い」をしたとしても、刑事的責任まで負わせるのは行き過ぎであり、「取引推奨」をした者さえ処罰すれば、規制の目的は達せられると考えられたからと言えるのではないでしょうか。



●2年後の逮捕も「そう長期とは言い難い」

——「取引推奨」から2年後の逮捕となったのはなぜでしょうか。



一般に、証券取引等監視委員会や東京地検特捜部は、違反の情報を得ても、すぐには被疑者の逮捕等の強制捜査に着手しません。



調査・内偵捜査段階で、有価証券の取引の状況、これに関する金銭の動き等についての客観的な裏付けを行うのはもとより、違反行為およ及びそれをめぐる事実関係(今回のケースで言えば、「取引推奨」行為の具体的状況、推奨をした者とこれを受けた者と関係、推奨した者の売買等への関与、背景事情等)に関する関係者からの事情聴取、その他必要な調査・捜査を慎重に行い、これを十分に尽くした後に強制捜査に着手するのが通常です。



もちろん、一般刑事事件においてもその捜査を慎重かつ十分に行う必要があることに全く違いはありませんが、今回のような社会の耳目を引く事案では、なおさら慎重な捜査を要したと言うことはできるでしょう。



そのような観点から、今回のケースについて約2年という期間はそう長期とは言い難いのではないかと考えます。



——逮捕後、東京地検特捜部ではどのような捜査が行われるのでしょうか。



あくまで一般論ですが、上記の捜査を継続するほか、今回の行為の動機、背景、本当に「取引推奨」に尽きるのか否かなどの疑問点につき、被疑者の弁解を十分に聴取した上で、その弁解等に関する関係者の事情聴取や、その他の広範な裏付け捜査を実施することとなるのが通常でしょう。



特に、今回のケースにおいて、被疑者が「違法性の認識はなかった」と供述しているのであれば、その弁解が成り立つのか否か、仮にそうだとしても「取引推奨」の故意を否定するものとまで言えるのかなどについて、慎重な捜査が行われるものと考えられます。




【取材協力弁護士】
岩崎 哲也(いわさき・てつや)弁護士
41期、平成元年検事任官。麻薬、暴力、外事、財政経済、特捜応援等様々な事件の捜査・公判を経験。平成14年に退官後は弁護士登録し、一般・重大刑事事件、交通事故、一般民事、家事、相続、債務整理等多彩な事案、第三者委員会の調査等の広範な経験も積む。
事務所名:中村国際刑事法律事務所
事務所URL:https://www.t-nakamura-law.com/