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「テレワーク=在宅勤務」からその先へ 全国各地で仕事ができる"サブスク型住居サービス"が人気

2020年12月21日 18:00  キャリコネニュース

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「テレワーク」とは本来、在宅での仕事のみを指す言葉ではない。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの会社員がPCとネット環境さえあれば仕事ができることが分かった今、国内外を飛び回りながら仕事をしたいと考える人が増えているようだ。

長崎市のベンチャー企業、KabuK Style(カブクスタイル)が運営するサブスク型住居サービス「HafH(ハフ)」が堅調に利用者を伸ばしている。新規登録者数は6月以降、過去最高を更新し、10月は前年同月比3倍増だったという。

キャリコネニュース編集部は11月下旬、同社がサービス提携する「ホテル アンテルーム那覇」(沖縄県那覇市)などでプレスツアーに参加し、共同代表の大瀬良亮氏らに話を聞いた。

"家か会社"の二択になり、会社に戻っていくのは「何かもったいない」


ハフは会員が毎月定額を支払うことで、国内外265都市の宿泊施設に泊まれるサービス。現在は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で海外渡航がストップしているが、国内だけでも179都市282拠点の中から好きな行き先を選んで滞在できる。

同サービスには、月額3000円~8万2000円の4段階のプラン(Go Toトラベル適応前)があり、プランによって宿泊できる上限日数が変わる。さらに、利用状況などに応じて付与される「ハフコイン」という制度を導入しており、追加課金をせずに部屋のアップグレードなどをすることも可能だ。

ハフ利用者に多いのが、ワーケーション目的でサービスを活用する会社員やフリーランスら。ワーケーションは「ワーク」(仕事)と「バケーション」(休暇)を組み合わせた造語で、観光地でテレワークを活用し、働きながら休暇を楽しむ過ごし方を指す。

大瀬良氏は6月ごろ、テレワークの是非が各メディアで取り上げられた際に「テレワーク=在宅勤務」と訳されていることに苛立ちを覚えたと振り返る。

「場所にとらわれずに働くこと、働く場所を自分で選ぶことには無限のポテンシャルがあります。何が起こるか分からない時代に、自分で計画することにこれからのキャリアを積み上げる無限の可能性があるのに、『家で働くのと会社で働くのとどっちがいいか』という話になり、結局みんな会社に戻っていく――。これは何かもったいないし、絶対に違う」

緊急事態宣言が解除されたばかりの当時、ほとんどの企業は「本来のテレワークは"働く場所を自分で選ぶ"ということに気付けていませんでした」という。

「でも、ヤフー、メルカリといった企業は『むしろ出た方がいいんじゃない』と考え、就業場所の移動を始める企業もちらほら出てきています」

と今後の事業展開に希望をのぞかせた。

朝の通勤時間は"ヨガでリフレッシュする時間"に 夜はハフ仲間と交流

8月から同サービスを利用するAkinaさんは、一か月間毎日利用することができる最大プラン「いつもHafH」に登録中のヘビーユーザーだ。以前から「国内外を旅しながら働きたい」という思いを抱いていたAkinaさんは昨年、8年間の会社員生活に終止符を打った。その後、業務委託で英語教材のライターや英会話講師として働き、現在は新たな挑戦として絵本の制作を進めている。

利用登録した8月末以降、これまでに長崎、福岡、岡山、香川、大阪、奈良、和歌山、山梨と移動し、約2か月間にわたり「がっつりとハフを使ってきました」。その後、都内の自宅で1か月ほど過ごした後、11月中旬からまた長崎、沖縄と移動している。

「新しい人と出会いやすいのがハフのいいところ。旅しながら働くライフスタイルに憧れて挑戦してきた人に出会えるので、結構エッジの効いた面白い人や、エネルギーの高い人たちに出会えます」

ハフの利用者同士の交流は盛んに行われているようで、Akinaさんもこれまでにヨガ、すき焼きパーティー、百人一首などを通じて親睦を深めてきたという。

「元々は通勤に毎朝2時間くらいかけていたのですが、そういう時間を全部ヨガに充てて、日中はしっかりと働いて、終わったら夜は他の利用者と交流……というのが一日のスケジュールです」

と話し、現在のライフスタイルについては「とっても楽しいです」と満足げだ。

一方、自身の人生設計については「ノマドはやっぱりパートナー探しが大変です」と苦労も感じているようだ。

「最初は『家族で多拠点生活は無理かな』とも思っていたのですが、最近は夫婦で旅しながら働いている人も増えています。理想としては、多拠点生活で一緒に回れるような旦那さんがいいです」

また、子どもについても「一緒に世界一周に連れていく人とかもいて、今ではそれもアリかなと思っています。あとは旦那さん次第ですね」と話し、笑顔をのぞかせた。

「現代アート」「屋外プール」「ラウンジ」で特色アピール

ハフで宿泊できる施設は、沖縄県内だけでも毎月のように増えている。筆者が今回、宿泊した「ホテル アンテルーム那覇」は、まさに"泊まれる現代美術館"。2月に開業したばかりで、客室を含む館内の至るところにアート作品が展示されている。

「名前の"ANTE"には、そこに住む人とトラベラーの中間という意味があります。宿泊客以外も利用できるレストランも営業しており、『地元と観光客をつなぎ合わせる場所にしたい』という思いを込めました」(同ホテル担当者)

すべての客室は海の見えるバルコニー付き。目の前には泊漁港があり、漁船のほか、離島との間を定期的に往来する旅客船なども見ることができる。

沖縄都市モノレール「ゆいレール」の美栄橋駅からのアクセス良好な「ホテル ストレータ那覇」は、建築設計などを手掛けるUDSのグループ会社が運営。名称の"STRATA"(地層)にちなんだ壁紙やカーペットを使用するなど細部にまでこだわり抜いた内装が光る。

施設面では、屋外プールやルーフトップを活用した絶景バー「Sky Salon」のほか、24時間利用できる宿泊者専用のジムを完備。緑豊かな広々とした庭には椅子も置かれており、客室内だけでなく、日光浴を楽しみながら仕事をするにもピッタリの環境だ。

地元の住民や宿泊客がラウンジで交流する「ESTINATE HOTEL沖縄那覇」も、カジュアルにワーケーションを楽しみたい利用者から好評を得ているホテルの一つだ。昨春のリノベーションでラウンジ内の壁側席の電源を増設し、働きながら長期滞在する宿泊客も増えているという。

「コロナ禍に入ってから、お客様の宿泊日数が長くなりました。3割以上の方が5泊以上されていて、実際にお話を伺ってみると『仕事がどこでもできるので』『会社のOKが出たので』といった声も聞かれます」(同ホテル担当者)

宿泊客によっては「会議は部屋、通常業務はラウンジ」とニーズによって使い分けをしていたり、テラスで酒を飲みながら仕事をしたりする人もいる。担当者は「コロナ禍を経て人が集まるのが難しい時代に、私たちも新しいステイが提案できるようになってきました」と話した。

沖縄と聞いて「観光」を思い浮かべる人が多い反面、「仕事」と結び付けられる人はどれだけいるだろうか。一見相反するようにも思える両者だが、好きな場所を訪れながらデイリーワークを両立させることは、想像していたほど難しくなかった。

一方、職種による制限があったり、ワーケーションに対する職場の理解がなかなか進んでいないのもまた事実だ。大瀬良氏も「法人プランを今後どうやって売っていくかが課題です」と話す。

テレワークが主流になることで、従業員向けの福利厚生の在り方も変わっていくことが予想される。在宅だけでなく、ワーケーションが可能な環境なども、今後は求職者の興味を引く企業の"魅力"になっていくのかもしれない。