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「カイジの地下帝国を思い出した」パソナの就活支援にネット反応…弁護士はどう見る?

2020年12月21日 11:12  弁護士ドットコム

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人材サービス大手「パソナグループ」は12月16日、コロナ禍の影響で困難な就職環境に直面している大学生などを対象に、来年春から「キャリア形成プログラム」を提供すると発表した。まるで、漫画『賭博破戒録カイジ 』に登場する「地下王国」(帝国)のようだと話題になっている。


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●社員寮の食費が月5万4000円、寮費が月2万6000円

パソナグループによると、プログラム参加者は、最長2年間の契約社員として採用されて、同グループが本社機能の移転を計画している兵庫県淡路島に配属される。同グループ運営の施設で働きながら、ビジネスマナーや語学などの研修を受けることになるという。



勤務は週30時間のシフト制で、初任給は大卒・院卒で月16万6000円、高卒で月15万6000円とされている。健康保険・厚生年金・労災・雇用保険などにも加入できるようだ。



一方、研修プログラムは有料で、月2万8000円となっている。パソナグループは「任意受講であり、雇用関係に基づく労務提供を予定しているものではない」と説明している。



また、社員寮の食費が月5万4000円、寮費が月2万6000円と設定されている。



●『カイジ』の地下王国を思い浮かべた人も

報道によると、最大1000人が契約社員として採用されるという。しかし、ネット上では、漫画『カイジ』のエピソードに登場する「地下王国」(帝国)を思い浮かべたという声もあがっている。



作中の「地下王国」(帝国)は、借金を抱えた人たちが送り込まれる労働施設だ。そこでは過酷な強制労働がおこなわれているほか、食費などをピンハネされて、手元に残るお金はごくわずかという設定になっている。



今回のパソナの計画は、はたして法的にはどうなのだろうか。今井俊裕弁護士に聞いた。



●寮費・食費の天引きは「労働基準法」の要件を充たす必要がある

契約社員という謳い文句ですから、法的には「有期雇用の労働者」になると思います。学歴に応じて、給与が異なるようですが、寮費以外に、寮での食費も定額制になっているようです。



労働条件の詳細はわかりませんが、寮の食堂で食事するかどうかの自由はなく、一律に食費を負担する労働条件になっている可能性も否定できません。



もし仮に、寮費・食費が給料から天引きされるとなると、労働基準法の定める要件を充たしておかなければなりません。



つまり、その事業場の労働者の過半数で占める労働組合や、仮に組合がなければ民主的な選出方法で過半数の労働者から選ばれた労働者代表との合意が必要になっています。



この条件をクリアしておれば、天引きすること自体がすぐに違法と言うことにはなりません。



●給料と比較して寮費・食費が高い?

ネットで批判的な意見が述べられているのは、むしろ給料と比較して、寮費や食費が高いということだと思います。



これについては、企業努力や品質に関わってくるので、なんとも言えません。しかし、この給料から、税金や社会保険料など、法律にしたがって絶対に天引きされる額を控除すれば、従業員の意思で自由に使える金額は小さいものとなるでしょう。



さらに、契約社員として雇用されて以後、受講はあくまで任意と謳っているようですが、有料の研修制度があるようです。寮費や寮での食費以外に、各人の必要に応じて日用品購入費なども生活する上で当然要します。それを前提として、この受講料を支払えば、お小遣いなんてほとんどない状況かもしれません。



パソナとしては、コロナ禍による就職難の卒業生のためという提案のようですが、実際に応募して就労した方々がどのような感想を抱くかは、今後の問題ですね。




【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html