トップへ

日本の高級車に必要なものは? レクサスの新型「LS」に試乗

2020年12月21日 11:02  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
年次改良を受けたレクサスの旗艦モデル「LS」に試乗した。年次改良とは、ほぼ毎年加えられる改良のこと。7~8年に1度のフルモデルチェンジや2~4年に1度のマイナーチェンジほどの規模ではない小変更であることが多いが、近頃の自動車メーカーは以前よりも年次改良を重要視する傾向にある。クルマの自動化、電動化の技術進化が日進月歩であるため、数年に1度の変更ではライバルに遅れをとってしまうおそれがあるからだ。

乗ったのは「LS500」と「LS500h」の2台。LS500は3.5リッターV型6気筒ターボエンジンを搭載する純内燃機関車で、LS500hは3.5リッターV型6気筒エンジンと電気モーターおよびバッテリーを組み合わせたハイブリッド車(「h」はハイブリッドを意味する)だ。

LS500、LS500hに共通して感じた変化は、乗り心地が改善されていたこと。もともと国産車としてトップクラスの快適な乗り心地を誇っていたLSだが、さらに快適性が上がった。路面の状況が悪くてもタイヤがバタつかず、乗員は常に平滑な道路を走行しているような感覚でいられる。

エンジンの回転軸であるクランクシャフトの剛性を上げて振動を低減したのをはじめ、バネ下重量(サスペンションが吊り下げるタイヤ&ホイール、サスペンションアーム、ブレーキ部品などの重さ)を低減してタイヤの路面追従性を向上したり、ダンパーの減衰力を最適化したり、シートの内部素材を変えるといった、大掛かりでコストもかさむわりに言葉にすると地味な作業を積み重ねたというが、その作業は確実に実を結んでいたように感じた。

試乗のシチュエーションと時間が限られていたこともあって、動力性能についてはプレスリリースに書かれていた「使用頻度の多い走行領域でのエンジントルクの立ち上がりを向上させ、余裕のある力強い走りを実現」といった変化を明確に感じることができたわけではないが、静粛性は例えばメルセデス・ベンツ「Sクラス」、BMW「7シリーズ」、アウディ「A8」といった海外のライバル勢と比べても遜色のないレベルにあることが確認できた。

LS500hのハイブリッドシステムは「マルチステージハイブリッド」と呼ぶだけあって、リアにオーナーを乗せて粛々と走行する際にはエンジンの存在感をできるだけ消し、音もなく移動しているかのような状態となる一方、オーナー自らがステアリングを握って走りを楽しむような場面では、モーターアシストによって海外のライバルが設定するV8エンジン搭載モデル並みの加速力を楽しむことができた。

「銀影ラスター」と名付けられた新設ボディカラーは深みのあるシルバーで、美しく高級感があるだけでなく、インテリアがライト系でもダーク系でも似合う懐の深さを感じさせた。内装には西陣織(京都の先染め織物)のドア内張りやプラチナ箔(金箔のプラチナ版。金沢の伝統工芸)の加飾パーツを採用。いずれもひと目で手が込んでいるのがわかり、日本の高級車らしさも感じさせる装備だが、両者が同時にあしらわれた内装はややしつこく、“これでもか”といわれている気がした。

ただし、レクサスがこうしたチャレンジ、すなわち“ニッポンらしさ”や“ニッポンの高級"を追求し続けるのはすばらしい取り組みだと思う。

高級車には動力性能、快適性、先進性といった全方位的な性能の高さが求められるが、レクサスにはそれがある。それらすべてを兼ね備えていれば、高級車を名乗ることはできる。ただ、飛び抜けて高い評価を受けるには、そうした機能面での高性能に加え、目には見えず、明確な定義もないブランド力が求められる。それは例えばヒストリーであったり、“ならでは”のストーリーであったりするものだ。圧倒的な独自性もそうだろう。西陣織やプラチナ箔といった自国の伝統工芸は、レクサスブランド構築の有効な一手になり得る。

塩見智 しおみさとし 1972年岡山県生まれ。1995年に山陽新聞社入社後、2000年には『ベストカー』編集部へ。2004年に二玄社『NAVI』編集部員となり、2009年には同誌編集長に就任。2011年からはフリーの編集者/ライターとしてWebや自動車専門誌などに執筆している。 この著者の記事一覧はこちら(塩見智)