2020年12月19日 09:01 弁護士ドットコム
老若男女問わず、根強い人気を獲得し続ける『鬼滅の刃』。クリスマスや誕生日プレゼントに主人公たちが使う日輪刀のおもちゃを欲しがる子どもたちや、影響を受けて模造刀を買う人たちもいる。
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小学生の息子がいる神奈川県在住のアオイさん(30代・女性)もその1人だ。親子ともに『鬼滅の刃』の世界観にどっぷりハマり、鬼殺隊に憧れるようになった。
刀にも興味を抱くようになったアオイさん親子は、東京都内で亜鉛合金製の模造刀を購入。日輪刀ではないが、重みもあり、本物の刀のようにもみえる。親子ともに気に入り、部屋に飾って満足していた。
ところがある日、息子は「模造刀を公園に持っていって友だちに見せたい」と言い出した。
怪我のリスクなどを考えたアオイさんは大反対。すると、息子は「友だちはおもちゃの刀を持ってきた。僕は『煉獄さん役なのに刀ないの変だね』って言われた」と泣き出した。息子は友人たちと公園で「鬼滅の刃ごっこ」を楽しんでいるのだという。
そもそも、模造刀を持って外出することは銃刀法に違反しないのだろうか。模造刀の規制について、元警察官僚で警視庁刑事の経験も有する澤井康生弁護士に聞いた。
ーー銃刀法が規制しているのは、どのような刀剣類でしょうか。
銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」といいます)における刀剣類の規制は、大まかに次のようになっています。
まず、刀剣類は刃渡り15センチメートル以上の刀剣類を「所持」することが禁止されています(同法2条2項)。これに違反すると3年以下の懲役か50万円以下の罰金となります(同法31条の16第1項)。
ここでいう「刀剣類」とは、人畜を殺傷する能力を有することや鋼質性であることが必要です。とすると、模造刀は殺傷能力がないことから、ここでいう刀剣類には該当しないということになります。
ーーでは、模造刀であれば自由に所持してよいのでしょうか。
いえ、そうではありません。模造刀は、昭和45年に発生した「よど号ハイジャック事件」を契機として規制され、「模造刀類」の「携帯」も禁止されています(同法22条の4)。
ちなみに模造刀とは金属で作られ、かつ、刀剣類に著しく類似する形態を有する物とされています。これに違反すると20万円以下の罰金です(同法35条2号)。
亜鉛合金製の模造刀はここでいう「模造刀剣類」にあたることから、銃刀法の適用を受けることになります。具体的には、業務その他正当な理由なく携帯することが禁止されます。
ーー「正当な理由なく携帯すること」とは、具体的にどのような意味でしょうか。
「正当な理由」がある場合とは、研磨、修理あるいは購入したものを自宅に持ち帰る場合などをいいます。なお、護身用はこれにはあたらないとされています。
「携帯」は自宅または居室以外の場所で手に持ち、あるいは身体に帯びる等して、模造刀を直ちに使用し得る状態で身辺に置くことをいい、かつ、その状態が多少継続することとされています(判例実務)。
したがって、亜鉛合金製の模造刀を公園に持ち出して遊ぶことは、模造刀剣類を正当な理由なく「携帯」することに該当し、銃刀法違反となります(同法22条の4)。
なお、模造刀剣類は「携帯」が禁止されており、「所持」は禁止されていません。そのため、家の中で飾って見ている分には問題ありませんが、外に持ち出すと銃刀法違反になるということになります。
ーー中には、木やプラスチックでできたおもちゃの日輪刀なども売られています。これらの「携帯」は問題ないのでしょうか。
このようなおもちゃの刀はそもそも「模造刀剣類」にあたらないので、銃刀法違反にはならないということになります。
ーー模造刀を購入した場合は、どのような点に注意すべきでしょうか。
殺傷能力のない模造刀だといっても、金属製のものは銃刀法の適用を受けますし、携帯することは違法なので気を付けるようにしましょう。
公園で遊ぶ目的や護身用というのも正当な理由にはなりません。
ーー「軽犯罪法」にも刃物などに関する規定がありますが、「銃刀法」とは違うのでしょうか。
【軽犯罪法1条2号】 「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、または人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者は拘留または科料に処する」
刃物のうち刃体の長さが6センチメートル以上の刃物は銃刀法22条で携帯禁止とされており、6センチメートル以下の刃物は上記の軽犯罪法の規定で携帯禁止とされています。
刃物とは殺傷能力を有し、硬質性またはこれと同程度の物理的性能を有する材質でできている器物で刀剣類以外のものをいいます。
以上を整理すると刀剣類(模造刀含む)と刃体長さ6センチメートル以上の刃物は銃刀法で規制されており、6センチメートル以下の刃物は軽犯罪法で規制されていることになります。
なお、模造刀は大きさや形状からして「刃物」には該当しませんが「人の生命身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」に該当する可能性はあります。しかしながら、上述したように、模造刀を正当な理由なく携帯すれば、より罪の重い銃刀法違反となりますので軽犯罪法違反を論じる実益はあまりありません。
【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身。企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/