2020年12月19日 08:51 弁護士ドットコム
「今年は無断キャンセルに始まり、コロナ、入湯税引き上げ、いろいろありました…」
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2020年1月、栃木県の那須塩原や日光の温泉地にある宿泊施設で、宿泊予約の無断キャンセルが相次いだ。
8つの施設が、予約した男女らを相手に、キャンセル料計約280万円を求める訴訟を起こした。宇都宮地裁大田原支部は、原告の訴えを認め、支払いを命じる判決を下していた。
ただでさえ、宿泊業界は新型コロナウイルス感染拡大で大打撃を受けた。支払いの状況と、GoToトラベルの一時停止の影響を聞いた。(編集部・塚田賢慎)
無断キャンセルを訴えられていたのは、千葉県で飲食店を経営する女性1人と、従業員の男性2人。女性の指示で、2人が8施設に宿泊を予約したものの、予約当日になって訪れなかったという。
約36万円の損害があった塩原温泉旅館「湯守田中屋」の田中佑治専務によると、女性は出廷したが、男性らは裁判にも出ず、今でも連絡が取れていない。
裁判所は、男性2人に支払いを命じた。女性とは和解交渉を通じ、11月から、約280万円の分割払いが始まったそうだ(来年12月の完済後、宿側の代理人が各施設に振り分ける)。
8軒のうち、被害額がもっとも大きい宿は約60万円の損害を受けた。
無断キャンセルの本当の理由は、男性らとコンタクトが取れないため、今もわかっていない。
「判決が出たので、男性らとコンタクトを取りたい。所在を再度調べているところです。働いている形跡があれば、そこからも回収しようと考えています」
「和解調書のなかに『本件無断キャンセルにより損害を与えたことについて謝罪する』という一文が入っています。女性から口頭での謝罪はありませんが、裁判に出席もしていただきましたし、誠意は受け止められます」
「田中屋」は今、他の多くの同業者と同じく、コロナ、GoToに振り回されている。
「田中屋」の田中三郎社長が「無断キャンセルで始まり、コロナ。大変な1年でした」と話を引き継ぐ。
年末年始の予約の「100%近く」が、政府支援策「GoToトラベル」を利用したものだったという。
ところが、12月14日、政府はGoToトラベルの12月28日~1月11日までの一時停止を発表した。
「停止によって我々の業界は大打撃です。12月31日と1月1日に限ってキャンセルはほぼ出ていませんが、その前後についてはものすごいキャンセルが出ています。現段階(12月18日)で年末年始のキャンセル率はだいたい5~6割になりそうです」
12月24日までのキャンセルは無料になる。しかし、そうとは知らない予約客もいるはず。宿では、予約客に1件ずつ連絡を入れて、キャンセルについて意思確認をするという。
「GoToで安くならないのであれば、泊まらないというかたもいる。それはしかたありません。食材もすでに仕入れてありますので、お泊まりいただけるとありがたいのですが」
9月~11月まで、GoToによる恩恵は確かにあったという。「突然、年末年始で止まって、ハシゴをはずされたようなものです」
田中屋をはじめ、温泉街では感染対策を講じている。それでも「GoToトラベルが諸悪の根源のように報じられている」状況に疑問を感じるそうだ。
自粛要請を受け、宿は4月・5月に休業した。「我々は政府や市に従って動いています。感染防止に努力してきた。これからもするつもりです。気持ちよく帰ってほしいということで。 おかしいと騒いだところで、利益を追求していると指摘されるでしょうし、我々は粛々と従うしかありません」
そのような状況にあって、12月1日からは那須塩原市の入湯税が最大200円上がった。
入湯税を塩原温泉で働く人たちのPCR検査に使うというのだ。
「私は塩原温泉旅館共同組合(49軒所属)の理事長として、大反対したが、9月28日の市議議会で値上がりは決まってしまいました。お客様からのクレームがあったときに、説明する矢面に立つのは我々です」
年末年始の本当のキャンセル率がどれだけになるかわからない。「こんな状況だから、無断キャンセルでもあれば、死活問題です」