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「小さな高級車」が増えてきた? そのルーツと現状は

2020年12月18日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
最近、日本では「小さな高級車」と呼びたくなるクルマが増えてきた。狭くて入り組んだ道路の多い都市部でも扱いやすいうえ、見た目は安っぽくないし、幅広い用途で使える。こんなクルマが今、求められているのかもしれない。なので本稿では、小さな高級車のルーツを探り、現在の選択肢を一瞥してみたい。
○小さな高級車の元祖は?

1970年~80年代、欧州では小さなボディに上質な内外装を持つ「小さな高級車」と呼ぶべきクルマが何台かあった。そこで思いつくのが、この2台。フランスのルノー「5(サンク) バカラ」と英国の「バンデンプラ プリンセス」である。

「5 バカラ」は全長3,950mm、全幅1,590mm、全高1,370mmのコンパクトなFFモデル。マルチェロ・ガンディーニによるエクステリアデザインは今見ても小粋だ。エンジンはノーマルモデルで1.4L。高性能モデルには1.7Lの4気筒SOHCエンジンを搭載して低速トルクを向上させていた。トランスミッションは5速マニュアルとATを用意。タイヤは165/65R13だった。1985年ごろの販売価格は確か250万円で、最大の特徴は上質なレザー内装が奢られていた点だ。豪華な装備と890キロの軽い車体、パワフルなエンジンで、小さな高級車の元祖と呼ばれた。

もう1台は英BMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)の「バンデンプラ プリンセス」だ。1962年から1974年まで生産していた小型モデル「ADO16」のバリエーションの1つで、「ADO15」(初代ミニ)の成功を受けて開発された。 開発者はサー・アレック・イシゴニスだ。FF、横置きレイアウト、ワイドトレッド、ロングホイールベースといった基本設計はミニから受け継いでいる。

ボディは全長3,727mm、全幅1,534mm、全高1,346mmと小さい。フロントには水冷直列4気筒OHVエンジンを搭載。ミニは大衆車だったが、バンデンプラ プリンセスは高級車として開発されていて、ウォールナットのダッシュボード、スミスのメーター、職人による手縫いの分厚いレザーシート、後部座席用のウォールナット製格納式ピクニックテーブルを装備していた。当時はロールスロイスを所有するファミリーがセカンドカーとして購入することが多く、狭い街中の移動などで愛用されたという。顔もロールスロイス風で、「ベビーロールス」とも呼ばれていた。

○トヨタ「ヤリス」が小さな高級車の新世代?

1990年代に入ると、小さな高級車を目指す幾種ものモデルが日本でも登場したが、どれも力不足感が否めなかった。ベースモデルのデザインや使用している素材の質感など、その要因はさまざまだ。

しかし、ここへきて、その流れがちょっと変わってきた気がするのは筆者だけではないのかも。上級モデルに比べてもデザインがしっかりしていたり、機能が全く劣らなかったりと、小さくても魅力的なクルマが日本に増えてきたからだ。

例えばトヨタ自動車のコンパクトモデル「ヤリス」。先代(ヴィッツ)よりも小さくなったボディは「GA-B」プラットフォームの採用により軽量、高剛性、低重心になっていて、ハイブリッド(HV)モデルは91ps/120Nmの1.5リッター直3エンジンに80ps/141Nmのモーターを組み合わせ、ワインディングでも高速でもきびきびした走りを見せる。燃費は実測で30.7km/Lとすこぶる良好だ。

現代の車両に不可欠な安全装備も上級車顔負け。「トヨタセーフティセンス」(ACCやLKA含む)に加え、トヨタ車として初採用となる高度駐車支援システム「アドバンストパーク」を搭載している。コンパクトカーに駐車アシストは不要なのではと思っていたのだが、この機能、実際に試してみると、狭い都内の駐車場などでもちゃんと使えて便利なことに気づくはずだ。

そのほかでは、マニュアル式ながらシートポジションを記憶させられる「イージーリターン機能」、スムーズに乗降できる「ターンチルトシート」、音声認識も使える「ディスプレイオーディオ」など装備が充実。鮮やかな2トーンカラーも選べて見た目もばっちりだ。

同じプラットフォームを採用する「ヤリス クロス」のHVモデル(E-Four)になると、さらに走りのフィールドが広がる。フロントに91ps/120Nmのエンジンと80ps/141Nmのモーター、リアに5.3ps/5.2Nmのモーターをそれぞれ搭載する電気式四輪駆動方式の恩恵だ。

ヤリスよりも少し大きいボディのおかげで後席の居住性は向上し、荷室は広くなっている。電動パーキングブレーキの採用により実現した全車速対応式ACCも嬉しい装備だ。2トーン塗装で優れたデザインをまとうボディなどにより、上級車種を凌駕する魅力にあふれたクルマになっていると思う。

○「フィット」と「ホンダe」も高級感あり

ヤリスと同時期にデビューしたホンダのコンパクトモデル「フィット」も、小さな高級車を名乗る資格を持っている。ライフスタイルに合わせて5タイプから選べるシンプルかつ和み系のデザイン、広い視界、ボディーカラーに合わせた内装などからは、安っぽさが微塵も感じられないのだ。特に上級モデルの「ネス」や「リュクス」あたりのHVモデルを選べば、イイ線をいくのでは。109ps/253Nmのモーターと72ps/127Nmの1.5L4気筒エンジンを組み合わせたe:HEVは、走りも燃費も文句なし。ACCは全車速対応式で、渋滞でもきちんと追従運転を続けてくれる。

ホンダといえば、電気自動車「ホンダe」(Honda e)はまさに、小さな高級車だ。初代「シビック」を現代風に再解釈したようなコンパクトでキュートなエクステリア、サイドカメラミラーシステム、ダッシュボード全面にデジタルモニターを使用したインストゥルメントパネル、充電中に退屈しないアプリ、ちょっと“おバカ”なところもかえってカワイイ音声認識の車載AI「パーソナルアシスタント」、押しボタン式のシフトセレクト、木目のブラウンとグレーのファブリックを組み合わせたセンスのいいインテリアなど、ユーザーをひきつける魅力にあふれている。

RR方式を採用した走りや軽自動車を凌駕する小回りの利き具合(最小回転半径4.3m)など、走行面も素晴らしい。EVの航続可能距離286キロ(標準グレード、WLTCモード)は少し短いと考えるユーザーもいるだろうが、ホンダeはシティコミューターとして開発されたクルマであり、ホンダのその割り切りかたにはかえって清々しさを感じてしまう。オプションなどを入れると500万円に届こうかという価格も、小さな高級車らしい。

○小さいかどうかは見る人次第? 海外の現状は

海外に目を向けると、小さな高級車として最初に思い浮かぶのがボルボのコンパクトSUV「XC40」だ。欧州や中国の動きに合わせ、全モデル電動化の道を突き進むボルボでは、最小モデルのXC40にもプラグインハイブリッド(PHV)やマイルドハイブリッド(MHV)を導入し、パワートレインを一新。来年には電気自動車(BEV)バージョンも日本に上陸するそうだ。

スタイリッシュなエクステリアと北欧テイストあふれるインテリアの組み合わせは、今でも全く色あせていない。安全面では最高速度を時速180キロに制限するとともに、クルマを共有する相手の運転経験が浅かったり、高齢だったりした場合に、さらに低い制限速度を設定できる「ケアキー」を導入するなど、独自の考え方を貫いている。

もう1台挙げたいのは、メルセデス・ベンツのコンパクトSUV「GLB」だ。最大の特徴は、全長4,640mmというそれほど大きくないボディに3列7人乗りシートを配しているところ。全長が5mを超える大型SUVは今、ミニバンからの乗り換え組から注目を集めるなど人気のジャンルになりつつあるが、さすがにこのサイズで3列シートを実現したクルマは少ない。

GLBでは前後のウインドウを立てることで車内の空間を確保している。実際に3列目に乗り込んでみると、結構使えるシートになっていることがわかった。ゆったりとした走りを見せる2Lディーゼルモデル(200d)もいいが、2Lガソリンターボエンジン搭載モデル(250 4MATICスポーツ)は峠道が攻められるほど活発な走りも提供してくれる。最新のインテリジェントドライブは安心して使うことができ、音声認識のMBUXは認識精度が高い。価格は696万円と高価だけれども、所有できればその満足度は高そうだ。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)