2020年12月17日 10:21 弁護士ドットコム
朝鮮学校への補助金に批判的なブログの呼びかけに応じて、弁護士の大量懲戒請求をおこなったブログ読者たちを弁護士が訴えた訴訟。全国でブログ読者側の敗訴が続いてる。
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10月には、東京弁護士会に根拠のない懲戒請求をしたとして、佐々木亮弁護士と北周士弁護士が男女6人に損害賠償を求めた裁判で、最高裁は、被告側の上告を退ける決定をした。佐々木弁護士らの裁判で、賠償命令が最高裁で確定したのは初めて。
佐々木弁護士によると、大量懲戒請求をおこなった人たちは中高年が多い。一方で、佐々木弁護士らが呼びかけている和解に応じてきた一部の人たちは、「ブログには知らないことが書いてあって、真実だと思ってしまった」と謝罪してきたという。
弁護士の大量懲戒請求という前代未聞の事件。渦中にある佐々木弁護士は、どうみているのだろうか。(弁護士ドットコムニュース・猪谷千香)
佐々木弁護士のもとに、懲戒請求書が送られてきたのは、2017年6月。最初はおよそ200通、少しおいてまた100通、200通と増え、年末までには1000通を超えた。
懲戒請求の理由には、「違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、その活動を推進する行為は、日弁連のみならず当会でも積極的に行われている二重の確信的犯罪行為である」とある。
佐々木弁護士といえば、ブラック企業大賞の実行委員をつとめるなど、労働問題に取り組んでいることで知られる。自身の仕事を振り返ってみても、「朝鮮学校」との関わりはまったく身に覚えがなかった。
調べると、「余命三年時事日記」というブログが震源地であることがわかった。
このブログは、日弁連や各地の弁護士会が2016年、朝鮮学校への補助金停止に反対する声明を出したことを非難。ブログ読者にこれらの声明に関わったとされる弁護士への懲戒請求をするよう、呼びかけていた。
佐々木弁護士は実際には声明に関与していなかったにもかかわらず、ターゲットとなっていた。日弁連によると、2017年だけで13万件もの懲戒請求があったという。
そこで、佐々木弁護士と北弁護士は2018年11月、こうした懲戒請求をおこなった人に対して、損害賠償を求めて提訴を始めた。
「これまでに東京地裁だけで900人、大阪や広島、福岡などの地裁を含めると1000人近い人たちを提訴しました」と話す佐々木弁護士。
現在も係争中の訴訟は80件に及び、その半数が各地の地裁、残りは高裁で争われている。そのうち、男女6人に対する訴訟などを含めた5つの訴訟で最高裁は10月、被告45人の上告を退け、賠償命令を下した東京高裁判決が確定している。
これ以外にも、地裁や高裁で確定している訴訟の判決は、すべて佐々木弁護士側の勝訴だ。
「訴訟で、彼らの主張はおおむね画一的で、一貫しています。こちらで提出している証拠は不正に入手したものであり、訴訟自体が無効だという言い方をします。ブログの指導を受けていて、本当にそう信じているのだと思います」
彼らは一体、どのような人たちなのだろうか。
「韓国や中国を良く思っていない中高年層が多いです。訴えようと思って調べたら、もう亡くなっているというケースもあります。男性、女性の割合はそれほど偏りがありません」
佐々木弁護士たちが呼びかけた和解に、自ら応じてきた人たちもいる。彼らは真摯に謝罪し、こう弁明するという。
「ブログを信じてしまいました。これまで知らなかったことが書いてあって、マスコミが報じていることは嘘で、ブログが真実だと思ってしまった。日本を良くするという理由で、懲戒請求をしてしまいました」
懲戒請求をした人たちを提訴したという理由で、佐々木弁護士のところにはさらに懲戒請求書が届いたという。「もう数えてませんが、全部で3000通は超えていると思います」と苦笑する。
大量懲戒請求事件では、佐々木弁護士と北弁護士以外にも、ターゲットになった弁護士たちが各地で提訴している。その一人である金竜介弁護士が都内男性を訴えた訴訟でも2019年10月、最高裁が男性に対する賠償命令を下した高裁判決を支持。佐々木弁護士たちの裁判以外でも、各地でブログ読者側の敗訴が続いている。
佐々木弁護士は今、これらの訴訟をどのようにみているのだろうか。
「個別の不法行為について大量に賠償請求することについて、すべてを集計すると、実際の被害額よりも大きくなるのでは、という反論があります。
しかし、その反論を肯定してしまうと、違法行為をする人数が多ければ多いほど賠償金の額が下がることになります。たとえば1人あたり1000円の賠償金を払えばいいんだということになれば、違法行為をする人は絶対に増えるでしょう。
ただ、ほかの訴訟をみても、基本的には裁判所はきちんと私たちの請求に基づいて判断してくれていますので、今後、同じようなことが起きても、この枠組みで訴訟が可能になると思います」
また、訴訟には別の意義もあるという。
「インターネット上の不確かな情報を鵜呑みにして、他人に加害行為をするときに、現実世界では不法行為として責任を取らなければなりません。
ネット上の誹謗中傷が社会問題化していますが、あまり度が過ぎているものについては、ネットだから許されるとか、ネットの情報を信じてしまっただけだから許してほしいという言いわけは通用しません。そうしたことも、この裁判で示すことができていると思っています」
【佐々木亮弁護士略歴】
旬報法律事務所。東京都立大学法学部法律学科卒。司法修習第56期。2003年弁護士登録。東京弁護士会所属。東京弁護士会労働法制特別委員会に所属するなど、労働問題に強い。