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厳しすぎる王将戦「棋譜利用ガイドライン」、ファンのつぶやき萎縮、将棋普及に悪影響か

2020年12月16日 11:51  弁護士ドットコム

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日本将棋連盟は12月14日、タイトル棋戦「王将戦」(主催:スポーツニッポン新聞社・毎日新聞社)における「棋譜利用ガイドライン」を公式ホームページで公開した。個人や家庭内などの「私的利用」以外の棋譜利用は、すべて申請した上で許諾が必要とするなど厳しいものとなっている。


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連盟はこれまで、2019年9月公表の「棋譜利用に関するお願い」に基づき、私的利用の範囲を超えて棋譜を使用する場合は事前申請するよう求めてきた。



これに対し、将棋YouTuberのすぎうら氏が今年3月、実際には棋譜利用がほぼ認められていない状況について、質問状を送付。連盟は4月、主催者とガイドライン作成も含め協議しているなどと回答していた。



●厳しいガイドライン、「一手のみ」のツイートさえ自粛必要かも

別のタイトル棋戦「王座戦」(主催:日本経済新聞社)については今年9月、ガイドラインを公開。一定の範囲で申請なくても棋譜を利用できるよう、具体的な図面の枚数や指し手の数なども定められており、他棋戦のガイドライン策定においても一つの指標となるのではないかと思われた。



しかし、前例踏襲とはならなかったようだ。王座戦の棋譜については申請不要の利用を広く認めていた「非商用」についても、王将戦の棋譜についてはすべて申請を求めており、主催者から利用の可否に加え「利用料」を含む利用条件を知らせる形となった。



利用料は商用、非商用で異なり、対局から2カ月経過した棋譜の利用については利用料を引き下げるか、無料にするという。個人や家庭内などで棋譜を楽しむ「私的利用」に限り、申請なく無料で利用可能となっている。



王将戦のガイドラインについて、すぎうら氏の代理人をつとめた杉村達也弁護士は「『棋譜利用に関するお願い』を踏襲したにすぎず、将棋普及の面では歓迎できるものではない残念な内容」と話す。



「王将戦は有料チャンネルでしか観られない棋戦であり、利用料の設定など王座戦と異なる事情があったのかもしれません。



特に、利用料の徴収については、教育機関や将棋教室での棋譜利用すら減免にとどめるなど、厳格な姿勢でいることがうかがわれます。



申請なしでの利用が私的利用の範囲に限られる点も含め、棋譜を利用したい将棋ファンにとっては、SNS等で『一手だけの発信』をするにも躊躇してしまう内容であり、王座戦のガイドラインから後退してしまった形という印象です」(杉村弁護士)



ツイッターで「▲4五銀」などと気軽につぶやくことも難しくなってしまうのだろうか。



「ガイドラインや連盟HPの『棋譜利用に関するお問い合わせフォーム』を見る限り、一手かぎりでも『棋譜』に含まれると日本将棋連盟は考えているようです。



また、棋戦名が王将戦であることを明示しないで指し手のみを示してツイートした場合であっても、『棋譜』に当たる可能性があり、利用者側にとってそのツイートをして良いのか判断が難しいです。



たとえば、王将戦でA棋士による新手が現れたとして、その当日、『A棋士の新手“▲4五銀”が出ました』とツイートした場合、王将戦と明示していないとしても、『当日行われていたのは王将戦なのだから、棋譜利用に該当する』などと王将戦の主催者側から判断される可能性があるということです。



ただし、日本将棋連盟が棋譜利用に関してここまでの規制をすることに法的根拠があるかは疑わしく、指し手のツイートをしたとしても損害賠償請求等が認められる可能性は低いと考えられます。



しかし、日本将棋連盟が今回のガイドラインを発表したことによって、指し手を記載して感想を述べることなどの表現行為について委縮効果があることは明らかであり、将棋の普及発展を阻害する可能性は否めません。



以前、棋聖戦第二局で藤井聡太七段(当時、現二冠)の指した一手が話題となりましたが、ああいった盛り上がりは今後の王将戦では見られなくなってしまうかもしれません」(杉村弁護士)