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人工知能は「夫婦円満」の夢を見るか? AI婚活の行く末は「人間の選別」かもしれない話

2020年12月15日 10:21  弁護士ドットコム

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年間の離婚件数は2000年前後のピーク時より減っているものの、いまなお20万を超えている。だが、もしかしたらAI(人工知能)によって減少する未来がくるかもしれない。


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坂本哲志特命担当大臣(少子化対策)が12月8日の記者会見で、2021年度からAIを活用した自治体の婚活支援事業を後押しする考えを明らかにし、話題を呼んでいる。



AIを活用したシステムでは、趣味や価値観などに関する回答データなどを基に、希望条件と異なっても「自分に合う可能性のある相手」を割り出して提案することができるそうだ。



読売新聞オンライン(12月7日)によれば、10を超す県がすでにAIによるシステムを導入。2018年度に約1500万円をかけてシステムを整備した埼玉県では、2019年度に成婚した38組のうち、過半数の21組がAIの提案によるカップルだったという。



「結婚」については早くも一定の成果を見せているという「AI婚活」。だが、結婚はあくまでスタート。少子化対策ということならば、「離婚」を防ぐことも重要なミッションとなるはずだ。はたして、AI婚活は離婚減少に一役買ってくれるのだろうか。小林正啓弁護士に聞いた。



●精度の高さと個人のプライバシーは表裏の関係

——少子化対策の一環として、国が「AI婚活」を支援するようです。



一言で「AI婚活」といっても、どのようなシステムなのか分かりません。



人工知能といえるためには、システムの運営会社が最低限、ディープ・ラーニングを用いて、数万人から数百万のデータを分析し、婚活に有益な情報が抽出されたDMP(Data Management Platform)を保有し、ここに利用者個人のデータを当てはめて、その人の性格などを評価し、最適な相手とマッチングする仕組みを備えている必要があると考えます。



——仕組みを備えるだけでも大変なように思いますが…



ここでいう「数万人から数百万人のデータ」とは、一人ひとりの性格、価値観や嗜好、行動履歴などの記録です。



従前はこのようなデータを集めるのに多大な労力を要しましたが、現代では個人のネット閲覧履歴や購買履歴を収集することによって、比較的容易に収集することができます。



これらの情報を分析すれば、従前の手法では分からなかった意外な性格分析が可能になり、婚活のための相性判断に役立つかもしれません。



——個人のネット閲覧履歴や購買履歴の収集については、個人情報を探られる気持ち悪さのようなものもありそうです。



精度の高いDMPを生成するためには、ネット上の行動履歴を個人ごとに紐付けていく必要がありますが、それは、当該個人のプライバシーを探られることと表裏の関係にあります。



まして婚活に有用な情報を抽出するためには、ネット通販の履歴や、映画・音楽の試聴履歴、果てはアダルトコンテンツの利用履歴などの情報が有益になるかもしれません。



紐付けのための個人情報は、最終的には統計処理されて抹消されるとしても、利用される側からすれば気持ちのよいものではないでしょう。



●様々な要因がある「離婚」を防ぐ手立てになるかは未知数

——実際の「AI婚活」は、「結婚」についてはすでに一定の成果を見せているようですが、将来の「離婚」も未然に防いでくれるのでしょうか。



婚活にAIを用いた結果、離婚が減るか否かは、少なくとも現時点では証明されていませんし、将来的にも判断が困難な問題であると考えます。我々弁護士の経験に照らしても、離婚するには多種多様な要因があり、それらが複雑に絡まりあっているからです。



とはいえ、離婚の一つの原因が夫婦間の相性の悪さや価値観の相違にあることは事実ですから、AIによって相性がよいと判定された相手と結婚すれば、離婚のリスクは減るかもしれません。少なくとも、そう信じることが大事ではないかと思います(笑)。



——人間関係はそう簡単に割り切れるものではないということですね。



ただし、ここまで考えてくると、「数万~数百万のデータを分析したDMPに基づく婚活」システムには、根本的な問題が内包されていることも指摘せざるを得ません。



●待ち受けるのは「AIによる人間の選別」?

——どのような問題でしょうか。



精度の高いシステムであればあるほど、利用者の浮気、暴力、浪費等の離婚原因となる性向を探知できるはずであり、そのような性向が閾値(境目となる値)を超えた利用者は、婚活システムが「離婚減少」をうたう以上は、システムから排除されなければなりません。



——結果として「AIによる人間の選別」が行われるということですね。



そのようなことが許されるか、仮に許されるとしても、婚活システムの利用料を収益とするシステム運営会社が、特定の利用者を排除することに踏み切れるか、踏み切れずに紹介して離婚に至った場合、婚活システム運営会社はある種の「契約不適合責任」を負うのか、などの問題が垣間見えるところです。




【取材協力弁護士】
小林 正啓(こばやし・まさひろ)弁護士
1992年弁護士登録。ヒューマノイドロボットの安全性の問題と、ネットワークロボットや防犯カメラ・監視カメラとプライバシー権との調整問題に取り組む。
事務所名:花水木法律事務所
事務所URL:http://www.hanamizukilaw.jp/