2020年12月14日 10:11 弁護士ドットコム
会社側が労働者に自社商品などの購入を求める「自爆営業」。切手や年賀はがきなどの買い取りを強いられる郵便局員、店頭で売れ残ったクリスマスケーキなどを自腹で買い取るよう強制される店員などについて、しばしば報道される。
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ネット上にも「自社ブランドの洋服を強制的に買わされる」「アルバイトでも自爆営業しないといけない」などの声も上がっている。
弁護士ドットコムにも自社商品の購入を強要され、悩んでいるという人たちから複数の相談が寄せられている。中には、自社の「自動車」購入を迫られた人もいる。
相談者によると、他社の車に乗っている人は会社の駐車場の利用許可がおりないという。会社からは自社の車を購入するよう強制されていることもあり、相談者は駐車場を利用するためにしぶしぶ買ったそうだ。
しかし、いくら社内割引があるとはいえ、車は安い買い物ではない。相談者は、自社商品の購入を会社側が強制することに疑問を抱いているという。
いわゆる自爆営業は違法ではないのだろうか。島田直行弁護士に聞いた。
ーー会社側が自社商品の購入を強制する、いわゆる「自爆営業」に法的な問題はないのでしょうか。
自爆営業は社員のノルマが前提です。ノルマの語源は、ロシア語で「個人などに割り当てられた標準的な作業量」という意味だそうです。しかし、日本では社員が達成するべき目標という意味で用いられています。
社員に対して目標を設定することは問題ありません。ですが、ノルマがペナルティを伴うものとなれば話は違ってきます。
労働契約における労働者の義務は「労働力の提供」であって、「売上目標の達成」ではありません。そのため、労働者は目標を達成しなかったからといってペナルティを受ける立場にありません。
自社商品を「無理に購入させること」「一方的に給与から代金を控除すること」は、いずれも労働基準法に違反する行為です。態様によっては強要罪が成立する可能性もあります。
ーー「自爆営業」を強いられた場合、どのように対処すべきでしょうか。
ペナルティを強いられるような場合には、労働基準監督署や弁護士に相談するべきです。弁護士に相談すれば、返金の交渉をしてくれるでしょう。それでも解決しない場合には、裁判手続を利用することになります。
その場合に予想される争点は、任意性の有無です。社員が「購入を強いられた」と主張しても、会社から「協力を求めただけ」と反論されることが想定されます。
そこで、社員はメールあるいはSNSといった客観的な証拠が残る方法で購入する意思がないことを明確に伝えておくべきでしょう。
企業はクーリングオフをはじめとした消費者保護の規制を受けつつ、存続のため売上を確保しなければならない立場にあります。そのしわ寄せこそ自爆営業でしょう。
誰かの犠牲のもとで成立するような事業は不健全で被害者を増やすばかりです。「応じられません」と声をあげることが企業の正常化への一歩につながるものと考えます。
【取材協力弁護士】
島田 直行(しまだ・なおゆき)弁護士
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。著書に『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』、『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』(いずれもプレジデント社)
事務所名:島田法律事務所
事務所URL:https://www.shimada-law.com/