FIA-F2選手権の最終戦で見事な走りを披露し、選手権を3位で終えた角田裕毅。これにより、角田はF1でレースに出場するのに必要なスーパーライセンスを申請するためのスーパーライセンスポイントを獲得した。
角田はホンダの育成ドライバーであると同時に、レッドブル・ジュニアチーム所属のドライバーでもあり、レッドブルの若手育成を指揮するヘルムート・マルコはかねてから、アルファタウリからF1デビューさせる旨のコメントを述べていた。
アルファタウリのチーム代表を務めるフランツ・トストも、以前FIAの公式会見で角田のF1デビューに関して「それはレッドブルが判断すること。もちろん、それ以前にスーパーライセンスを取得する条件を満たさなければならない」と、スーパーライセンスを取得できれば、アルファタウリからF1にデビューする可能性が高いことを示唆していた。
しかし、F2選手権が終了した翌週の第17戦アブダビGPの週末に入っても、レッドブルからもアルファタウリからも、2021年のシートに関する正式な発表は行われていない状況だ。
その件をアブダビGPの前日の木曜日に尋ねられたダニール・クビアトは「発表が遅れている理由がわからない」と、角田が2021年にアルファタウリ・ホンダからデビューするという発表が遅らせていることに首を傾げていた。
「すでに決定は下されている。それを伝えるのに、なぜこんなに時間がかかっているんだろうね。これ以上のことは、ヘルムート・マルコに聞いてくれ」(クビアト)
その理由をアブダビGPでマルコは今のところまだ明かしていないが、その理由のひとつに、トスト代表のレース屋としての哲学が大きく関わっている可能性がある。それは、去りゆくドライバーへ対するリスペクトだ。
クビアトが言うように、すでに本人には2021年のシートが用意できないことは伝えてあると思われる。しかし、それをメディアに公表すれば、その週末、メディアからの質問攻めに会い、レースに集中できなくなる。
もちろん、2013年のマーク・ウエーバーや2016年のジェンソン・バトンのように、ベテランドライバーが引退を自ら発表したような場合は、トストもその門出を祝うだろうが、26歳のクビアトにはまだ今後がある。最終戦といえども、全力で戦ってほしいという思いがあるのではないだろう。
そのことを物語るのは、アブダビGPの金曜日のフリー走行に角田が出走しなかったことだ。
第12戦ポルトガルGPでトスト代表は「金曜日のフリー走行1回目を一度走ることになるだろう」と語っていたため、ハースが来年F1にデビューするミック・シューマッハーを走らせたように、アルファタウリも角田を走らせるのではないかと思われたが、アルファタウリはレギュラードライバーのふたりを走らせた。
そのことをホンダの山本雅史(マネージングディレクター)はこう語る。
「アブダビGPのフリー走行で角田が走る予定は、まったくなかった。(クビアトが)最後になるかどうかはわかりませんが、最終戦はレギュラードライバーがしっかりと戦うというのがフランツ(・トスト代表)の考え方だし、私もそれに賛同しているので、アブダビGPで(角田を)乗せる話はもともとなかった」
考えてみれば、2018年限りでチームを去ったブレンドン・ハートレーに関しても、最終戦が終わるまで、トスト代表は何も発表はしなかった。
つまり、角田のアルファタウリ入りの発表が遅れているのは、チームとホンダの間に何か問題があるわけではないと考えていいだろう。あとは時間が経つのを待つだけだ。