2020年12月12日 09:31 弁護士ドットコム
国内外の映画のあらすじを紹介、解説する動画ジャンルが、YouTubeで人気を博している。だが、その中には、映画を編集して短くし、日本語の字幕・ナレーションをつけたものもあり、ネット上では「漫画村の映画版だ」といった批判の声があがっている。
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ネット上で問題視されているYouTubeチャンネルがある。
このチャンネルでは、2時間くらいの長さの映画本編を10分程度にまとめた動画が複数投稿されている。一見すると、公式トレーラー(予告編)とあまり変わらないようにも思えるかもしれないが、実際は本編を見なくてもよいくらいの"ネタバレ"となっている。
このチャンネルは、YouTubeで人気となっており、1本あたり数百万回の再生数の動画もある。時間のない視聴者にとっては、うれしいものかもしれないが、権利関係はクリアしているのかという疑問は残っている。
ツイッター上では、このチャンネルに対して批判の声も少なくない。もし、映画の権利者に許諾なく、こうした動画をつくって、YouTubeにアップしていた場合、法的にどんな問題があるのだろうか。著作権にくわしい唐津真美弁護士に聞いた。
――映画の権利者に無断で、映像を編集してアップしてよいのか?
映画は、著作権法で守られている著作物です。著作物を翻訳したり、変形したりする行為を著作権法では「翻案」といい、権利者に無断で映画を編集して動画を作成することは、著作権(翻案権)侵害になります(著作権法27条)。作成した動画をYouTubeなど、動画サイトにアップする行為は、公衆送信権(同23条)の侵害にあたります。
また、動画の作成者は、まず、DVDなどの映像をいったん自分のパソコンにコピーしたと思われます。自分や家庭内で楽しむ目的(私的使用目的)で著作物をコピーする行為は、原則として著作権侵害にはならないのですが(同30条)、編集動画をつくって配信する目的でコピーする場合は、私的使用目的の範囲外なので、コピー行為自体も著作権(複製権)侵害になります。
ちなみに、DVDのコピーガードのような技術的保護手段を解除したと認識しながらコピーした場合には、たとえ私的使用目的であっても複製権侵害になるので注意してください。
――ほかにも問題はあるのだろうか?
映画の著作権は、通常、映画会社や製作委員会など、映画製作の資金を負担した者(会社)が持っていますが、映画の「著作者」は、映画監督のように映画全体に創作的に貢献した者だと規定されています。
著作者には、著作権とは別の著作者人格権という権利があり、その1つとして、著作物を自己の意に反して改変されない権利(同一性保持権)を持っています(同20条1項)。今回のような編集動画の作成は、著作者の意思に反していると思われますので、著作者の同一性保持権も侵害することになります。
結論として、こうした動画の作成と配信は、著作権法的には問題だらけだといえるでしょう。
――別のチャンネル主は「フェアユース」(米著作権法で認められた著作権侵害にならない利用行為)と主張している。日本の著作権法ではどうなるのか。
日本の著作権法にも「権利制限規定」という規定があり、一定の場合には、権利者の許諾を得ないで著作物を利用することが認められています。先ほど述べた「私的使用目的の複製等」もその1つです。
映画の一部を利用する場合には、権利制限規定の1つである「引用」が適用される可能性も考えられます。著作権法は、公表された著作物の引用が「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」であれば、許諾を得ない利用を認めています(同32条1項)。
近年の裁判例では、(1)利用の目的、(2)方法、(3)態様、(4)利用される著作物の種類や性質、(5)利用される著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合的に考慮して引用の成否が判断されています。
今回のような動画の場合、メインのコンテンツが動画そのものであって、態様から見ても引用と解釈するのは難しいと思われます。
さらに、利用された映画は、DVDや有料配信サービスなどで取引されているものです。公式の予告編と違って、内容がほぼ全部わかってしまうので、これを見て「有料でも全部を見たい」と思う人もいるでしょうが、「全部わかったからもう見ない」という人もいそうです。
諸々の要素を考えても、引用として無断利用が認められる可能性は低いと思われます。
――動画に字幕をつけるのは問題ないのか?
動画には、あらすじを説明する字幕がつけられています。この字幕も映画に基づいて制作されたものですが、2時間前後の映画を数百字の文章にまとめているので、映画の映像作品としての特徴はもはや維持されていないといえます。
既存の作品を参考にしても、新しい創作物を作ったといえる場合には「翻案」とはいえず、著作権侵害にはならないので、あらすじの掲載自体は著作権侵害ではないと思われます。
ただ、世の中には映画のあらすじを紹介するサイトやSNSが多く存在しています。他人が書いたあらすじを動画にそのまま流用したような場合には、あらすじという文章についての著作権(複製権・翻案権)侵害になります。
――問題のチャンネルを観た感想は?
率直に言ってよくできていると思いました。アクセス数が多い動画があることも納得できます。
しかし、その人気は、他人の著作物を無断で利用したことで得られた可能性があります。動画制作にも相当の労力を費やしたと思いますが、それによって無断利用が正当化されるものではありません。YouTubeは、個人の発信の場としても高い価値があると思いますが、ほかの著作権者の利益を守ることを心に留めながら活動してほしいと思います。
【取材協力弁護士】
唐津 真美(からつ・まみ)弁護士
弁護士・ニューヨーク州弁護士。アート・メディア・エンターテイメント業界の企業法務全般を主に取り扱う。特に著作権・商標権等の知的財産権及び国内外の契約交渉に関するアドバイス、執筆、講演多数。第一東京弁護士会仲裁センター・仲裁人。
事務所名:高樹町法律事務所
事務所URL:http://www.takagicho.com