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人気YouTuber「フィッシャーズ」に殺害予告…同じ過ちはいつまで繰り返されるのか

2020年12月09日 14:41  弁護士ドットコム

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ネットでの誹謗中傷が社会問題となっているにもかかわらず、同じ過ちはいつまで繰り返されるのだろうか。


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人気YouTuberグループ「フィッシャーズ」のモトキさんが12月5日、グループ公式チャンネルで、殺害予告を受けたことを明らかにした。



モトキさんは、グループの別チャンネルにアップした動画について、「マジで今から殺す」「500万用意しとけ」「家燃やすから」などのコメントがきたと説明。これらすべて同一人物によるものだという。



「正体がわからない」「マジで殺意あるかもしれない」とモトキさんは恐怖を感じているという。動画に出演していた同メンバーのシルクロードさんは「金銭も要求されてるんだ、脅しですね。普通に脅迫」と指摘した。



「これだけ登録者数や視聴者がいれば、そういうこと起こるでしょ」と言われることについて、モトキさんは「それは違うと思う。登録者数がいっぱいいれば、(殺害予告などを)言っていいということにはならない」と反論。



シルクロードさんも「(こういった投稿は)少ない方ではあったけど、数の問題じゃない。一件でもあれば事件なのよ」と話した。



人気YouTuberや著名なタレントは注目を集める存在であるがゆえに、動画配信サイトやSNSなどで誹謗中傷などの対象となりやすい。動画やSNSへのコメントなどで殺害予告を受けた場合、被害を受けた側はどう対応すべきだろうか。清水陽平弁護士に聞いた。



●「脅迫罪」「恐喝未遂罪」となる可能性がある

——今回のケースでは、どのような犯罪が成立しますか。



今回投稿されたコメントを個別に見れば、「マジで今から殺す」「家燃やすから」については、生命、身体、財産に対し害を加えることを告知しているため、脅迫罪にあたる行為といえます。また、「500万用意しとけ」は、金銭を請求している点で恐喝未遂罪が成立しえます。



同一人物により連続的にされているということであれば、全体として一連のものだとして、恐喝未遂罪として検討されるのではないかと思います。



——このような投稿は「殺害予告」などと言われますが、殺人未遂罪などは成立しないのでしょうか。



殺人未遂罪は、殺人の実行の着手があったものの、殺害を遂げなかった場合に成立します。



殺人罪については、生命という法益の侵害が現実的に生じるおそれがある行為があった場合に、実行の着手があったと見られることになります。



このような投稿だけでは、恐怖は感じるとしても、あくまでも「言っただけ」の状態で、生命が脅かされる現実的な危険が生じてはいないため、殺人罪の実行の着手があるとは言えません。



したがって、少なくともこの時点で、殺人未遂罪が成立することはありません。



——民事上の責任はどうでしょうか。



民事的にも、このような行為は不法行為であると評価することができ、損害賠償の請求をする余地があります。



ただし、損害賠償請求をするためには、前提として相手がどこの誰であるかを明らかになっている必要があるため、まずは相手を特定する必要があります。



●取りうる手段は主に2つ「警察へ相談」「投稿者の特定」

——コメントされた側としては、どのような対応が考えられますか。



目に入るのが不快というだけであれば、コメントを非表示にするといった対応がまずありえます。



ただ、実際に責任を追及したいということなら、取りうる手段は大きく分ければ2つです。



1つは警察に刑事事件として相談をする、もう1つは相手を特定するための作業をするということです。



——実際に刑事事件として扱ってもらうことはできるのでしょうか。



個人的な経験で言えば、どのサイトにされているのかや、被害の程度、相談した警察のネットリテラシーの程度といったことも関係してくるため、ケースバイケースという印象が大きいです。



残念なことではありますが、「でも、実際に今まで何もされてないでしょ?」などとして対応してくれない例も多いかなと思います。



——相手を特定するにはどうすればよいのでしょうか。



投稿するためにアカウントが必要なサービスであれば、そのアカウントが投稿している他の内容を探してみるとか、何か関連情報がないかを探すというのは一つの方法です。



ただ、「捨てアカウント」(通報されたり削除されたりすることをあらかじめ念頭に置いた、使い捨てのアカウント)で投稿されている場合だと、そういった情報は普通はないと思われます。



——今回のような投稿は「捨てアカウント」によるものが多そうです。



その場合は法的に特定していくことになります。



ざっくりと説明すれば、(1)投稿がなされたサイトに対してIPアドレス等の開示請求をし、(2)開示されたIPアドレスを元に、使用されたプロバイダへの契約者情報の開示を求める、という2段階の手続きを取ることが必要です。



通常は裁判手続が必要になるため、時間と費用がかかることになります。



●反省しているなら、何はともあれ素直に謝罪すべき

——法的な対応のほかに、何か取りうる方法はありますか。



モトキさんのように、動画配信サイトで情報発信をしているのであれば、それを利用することがありうると思います。



たとえば、「反省し、きちんと謝罪をしてくれれば許す」「申し出がなければ、法的措置を取っていく」といった謝罪を促す動画を公開することなどの方法が考えられます。



——今回のケースで、投稿者が非を認め、反省している場合はどうすればよいでしょうか。



仮に上記のような動画などが公開されなくても、コメントの内容は法的に見ても許される限度を超えるものと言えるため、素直に謝罪をしていくのが適切なのではないかなと思います。




【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省が主催する「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の構成員となっている。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第3版(弘文堂)」などがある。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp