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『ONE PIECE』ルフィとドフラミンゴの勝敗を分けたのは? ドレスローザ編、複雑な物語を読み解く

2020年12月08日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 尾田栄一郎の『ONE PIECE』(集英社)は「週刊少年ジャンプ」での連載が1997年から続き、97巻まで刊行されているファンタジー漫画だ。70~80巻にかけて展開されたドレスローザ編は、主人公のルフィたち麦わら海賊団とドンキホーテ海賊団の対決の背後で、ドレスローザ王国の興亡をめぐる人間ドラマが展開された長編エピソード。様々な勢力が入り乱れ、複雑な物語が長きに渡って展開されるドレスローザ編は、もっとも『ONE PIECE』らしい物語となっていた。


※以下、ネタバレあり。


 ドレスローザ編は大きく分けると70~75巻(前半)と76~80巻(後半)の二部構成となっている。


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 政府公認の海賊・王下七武海の一人であるドンキホーテ・ドフラミンゴを倒すために、七武海のトラファルガー・ローと手を組んだルフィ達は、ドフラミンゴが支配するドレスローザ王国へと潜入。やがてルフィ達は、国民といっしょに暮らすオモチャたちが、実はドンキホーテ海賊団のシュガーが持つ「ホビホビの実」の能力によってオモチャに変えられた反逆者だったことを知る。一見平和な王国に見えたドレスローザを裏から支配する邪悪な権力によって、蹂躙される人々と、この国で暮らしている小人族(トンタッタ族)にルフィ達が手を貸し、オモチャに変えられた人々の呪いを、麦わら海賊団のウソップが解いたことで情勢は大きく変化。ルフィたちは人間に戻った反乱軍と手を組み、ドフラミンゴに戦いを挑む。


 しかし、国民に本性を知られたドフラミンゴは「イトイトの実」の力で“鳥カゴ”を発動。触れたものを切断する鋭い糸の束で作られた檻がドレスローザ全体を覆い、国民を閉じ込めてしまう。糸は少しずつ範囲を狭めていき、このままでは国民全員が皆殺しにされてしまう。そんな状況を作り出したドフラミンゴは、おれを倒すか、おれに楯突くルフィたちに裁きを加えるか、どちらかを選べと言って、ルフィたちに億単位の懸賞金をかける。


 つまり、鳥カゴによってドレスローザは、世界政府が海賊に賞金首を賭けて命を狙う『ONE PIECE』世界の縮図に変わってしまったのだ。


 ドレスローザ編の後半で、ルフィが戦うドフラミンゴは、複雑な背景を持った悪役だ。ドフラミンゴは世界の頂点に立つ天竜人(世界貴族)だったが、父親が天竜人の地位を放棄し、地上に移住したことで人生が大きく変化。天竜人に対して恨みを持つ人間たちから迫害を受け、追われる身となったドフラミンゴは、後にドンキホーテ海賊団の幹部となるトレーポルたちと出会い、「イトイトの実」と拳銃を与えられる。


 その後、父を殺し、その首を差し出すことで、天竜人の故郷「マリージア」に帰ろうとするが、逆に命を狙われることとなり、ドンキホーテ海賊団を結成。やがて七武海の一人となり、ドレスローザ王国を奪い取る。その一方で、ジョーカーと名乗り、人工悪魔の実「SMILE」や武器を新世界の海賊たちに売る闇ブローカーとしても暗躍する。


 そんなドフラミンゴは「悪のカリスマ」と呼ばれ、恐れられているが、仲間に対する愛情は深く、失敗を咎めず仲間たちをファミリーと呼ぶ優しい一面もある(しかし、裏切り者は容赦なく殺す)。その意味で悪役ではあるが、とても魅力的なキャラクターである。


 ドフラミンゴは、海賊の幹部連中からは、ドフィと呼ばれている。音の響きがルフィと似ているが、これはおそらく意図的なものだ。仲間を大切にするという面において、ルフィとドフラミンゴは似ている。


 しかし、ルフィが世界政府打倒を掲げる革命軍のリーダーであるモンキー・D・ドラゴンの息子であるのに対し、ドフラミンゴは、(失墜したとはいえ)天竜人の血筋、この出自の違いは、そのまま戦い方や仲間に対する考え方の違いとなって現れている。


 ルフィが自分から率先して行動する猪突猛進型で、仲間たちはルフィが動き出してから、彼の行動をフォローしようと好き勝手に動き出す。対してドフラミンゴはとても戦略的で、文字通り「裏から糸を引く」タイプだ。理不尽な管理システム(ゲーム)を作り出し、人々を支配する計算高さこそが、彼の恐ろしさだ。最終的に戦いは、ルフィと国民全員が共闘したことで、ドフラミンゴは敗れる。


 何が二人の勝敗を分けたのか?


 戦いが終わった後、ルフィと共に戦った7人の海賊が率いる海賊団(合計5600人)が、ルフィの仲間に加わりたいと申し出る。しかし、ルフィは大船団の船長となると「窮屈」と言って断ってしまう。そして自分は偉くなりたいわけじゃないと言い、親分子分ではなく、お互いに困ったら助け合おうとまとめてしまう。


 その後、ルフィにとって海賊王になるということは、“偉くなること”ではなくて“自由になること”なのだと、海賊の一人が理解する場面があるのだが、ルフィの本質を的確に言い表した場面である。


 自由を求めたルフィと、支配と管理を追求したドフラミンゴ。仲間に対する考え方の決定的な違いが、二人の明暗を大きく分けたのだ。


(文=成馬零一)