にわかに信じられない出来事だった。
第16戦サクヒールGPの決勝レースにおいて、最終コーナーでクラッシュを喫したジャック・エイトケン(ウイリアムズ)のフロントウイング回収のためにバーチャルセーフティカーが導入された62周目に、1-2体制を築いていたメルセデスが、2台を同時にピットインさせた。
しかし、ピットの準備が整っておらず、ジョージ・ラッセルの静止時間は5.3秒、バルテリ・ボッタスに至っては27.4秒も費やす結果となった。さらにラッセルのタイヤは間違ったセットが装着されたとして、翌周再びピットインすることになった。
メルセデスのトラックサイドエンジニアリングディレクターを務めるアンドリュー・ショブリンは、今回の件について次のように説明する。
「ピットストップで起きた問題は、無線のメッセージの優先を操作するシステムに起因するものだった。セーフティカーが導入されたとき、我々はピットクルーたちにタイヤ交換の指示を出し、各車のタイヤを準備するよう伝えていた。ところが、その指示を出していたとき、同時に別の無線メッセージが流れたことで、一方のピットクルーへのメッセージが妨げられてしまった」
考えられることは、エンジニアからピットクルーに2台同時にピットインするという指示を出したとき、ドライバーからの無線が入ったために、そのドライバーのタイヤを管理しているピットクルーにタイヤ交換の指示が届いていなかったのではないかということだ。
つまり、ピットインの指示はボッタスのタイヤを管理するピットクルーにしか入っておらず、トップのラッセルがピットインしてきたにもかかわらず、ボッタスのタイヤを持ったピットクルーが出てきて、ボッタスのミディアムタイヤを装着してしまった。
2台目のマシンがピットインしてきたため、今度はラッセルのタイヤ担当のピットクルーが慌ててタイヤを持って出て行って、一度はタイヤを装着するが、そのときにはメルセデスのスタッフたちの何人かが、誤ったタイヤをふたりに装着していることに気づき、ボッタスのマシンからラッセル用のミディアムを外し、仕方なく、一旦外したユーズドのハードタイヤを装着させるしかなかった。
無線に問題があったことはレース後、メルセデスのエンジニアが無線システムを供給しているドイツのリーデル社の担当と、ピットウォールで話し合っていたことでもわかる。したがって、今回のピットストップミスは「ピットクルーの責任でない」とショブリンは明言する。
しかし、その後再びピットインして正しいタイヤを装着して出て行ったラッセルが2番手までポジションを回復していたことを考えると、まだチャンスはあった。それはボッタスのタイヤ交換だ。
ピットクルーが誤ったタイヤを装着していることに気づいて、ボッタスのマシンからタイヤを外したとき、慌ててユーズドのハードを履かせず、ミディアムを履く判断をすべきだった。レース用に残っていたボッタスのタイヤは3セットあり、1セットはスタートで使用、もう1セットは直前にラッセルが使用していたが、さらにもう1セットあった。
しかも、慌ててハードを履いて出て行ったとき、ボッタスはカルロス・サインツJr.(マクラーレン)の8秒前でコースに復帰していたことを考えると、ミディアムを持ってくる時間はあった。
しかし、その判断ができないくらいピットは混乱していた、というわけだ。