メルセデスの強さの理由を、F1第16戦サクヒールGPでルイス・ハミルトンの代役としてマシンを走らせているジョージ・ラッセルは、「すべてにおいて、目配りがきちんとされている」と表現した。
そして、その精神をチームに植え付けたのは、チーム代表のトト・ウォルフだ。彼は、私欲を抑えて、チームのために物事を俯瞰して見ることができる数少ない指導者だ。それは、時にメルセデスのチームの内にとどまらず、F1界全体を見通すときもある。
たとえば、ホンダが2021年限りでF1から去ることを発表し、レッドブルが2022年以降もホンダのパワーユニット(PU)を使用したいため、パワーユニットの開発凍結を1年前倒しして2022年から適用してほしいと主張していると聞くと、いち早く支持したのがウォルフだった。
今回はロマン・グロージャン(ハース)の件で、チームの垣根を越えた発言を行った。
前戦バーレーンGPで大クラッシュに遭ったグロージャンは、サクヒールGPを欠場したものの、最終戦復帰に向けてトレーニングしている。しかし、現時点で復帰するかどうかは決定していない。もし復帰が叶わなければ、グロージャンにとって、バーレーンGPが最後のF1となる。
そのため、グロージャンはハースが開いた会見で、もし、アブダビGPに復帰できなければ、そのときは全チームに電話して、シーズンオフにテスト走行させてほしいとお願いするつもりだと語っていたという。
そのことを、サクヒールGPの予選後の会見で尋ねられたウォルフはこう回答した。
「もし、彼がこれまでにレースをしたことのあるすべてのチームから、そのような機会を与えられず、さらに我々がそれをやることを許されるのなら、そのときは我々が彼の思いを成就させてもいいと考えている」
果たして、グロージャンはF1最後のレースとなるはずだったアブダビGPに復帰できるか。もし、復帰できなかったとき、どこかほかのチームがグロージャンのためにテストを行うのか。
ウォルフの発言を、F1界が知らないはずはない。