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BTS J-HOPE、“希望”をこめて届ける歌 メンバーやARMYからの愛をパフォーマンスに昇華させるムードメーカー

2020年12月06日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『BE (Deluxe Edition)』

 BTSが12月2日の『2020 FNS歌謡祭』(フジテレビ系)第1夜に登場し、米・ビルボードシングルチャート“HOT100”1位に輝いた「Dynamite」を披露した。スーツに身を包み、美術館のようなセットを前に立った6人。肩を手術して療養中のSUGAは、残念ながらこの日のステージを共にすることはできなかったが、離れていても彼らは確かに繋がっている。背後に飾られている絵画が、7人で旅したリアリティ番組『In the SOOP』で描かれたものであることからも、その思いは十分に伝わってきた。


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 もちろん、この絵画に込められた特別な思いに胸を熱くできるARMY(ファン)についても同様だ。今は直接会うことは難しいけれど、想いはずっと繋がっていることを、このセットで伝えたかったのではないか。そんなBTSらしい、粋なはからいを感じさせるステージだった。


 いつものように、すっと心に染み込むように歌い始めるJUNG KOOK。そこに飛び込んでくるのは弾けるようにエッジの効いたRMのラップだ。スイートなボーカルと、スパイシーなラップ。一見すると、相反するような歌声が絶妙なバランスで両立しているのが、BTSの楽曲だ。そして、その調和をとっているのが、次に歌うJ-HOPEと言っても過言ではない。


 J-HOPEは、もともとボーカルとしてデビューを予定していたが、事務所の意向を受けてラッパーへと転身した異色の経歴を持つ。学生時代からダンスが得意で、オーディションでも2時間踊り続けたという伝説が語られるなど、才能豊かなJ-HOPE。事務所に入る前からラッパーとして活躍してきたRMやSUGAと肩を並べるラップを披露している姿を見れば、彼の万能さが見て取れる。


 「ラップバトル」という言葉があるように、特定の誰かをディスったり、世の中への不満をぶちまけたりと、元来ラップは攻撃的なイメージが強い。だが、J-HOPEのラップは、そんな刺々しい印象はない。否定より肯定を好み、〈楽しんで 自信を持って〉と歌うのだ。


 〈My name is My Life〉とは、ソロ曲「Hope World」での歌詞の一節だ。彼は自分の活動ネームに“HOPE”を入れた。これはギリシャ神話の「パンドラの箱を開けると底には“希望“だけが残った」に由来しているという。パンドラの箱は、災いをもたらすために触れてはいけないものの象徴とされている。


 今、私たちが住む現代でいうパンドラの箱を開ける行為は、人々の本音を広めることかもしれない。悪口や強い言葉が一瞬にして広まる今、私たちはそうした言葉に傷つき、惑わされ、簡単に絶望する。だからこそ、J-HOPEは歌に“希望“を込めて届けようとしている。それが、世界を少しでも生きやすくする唯一のアクションだと信じて。


 改めて、J-HOPEを目で追いながら「Dynamite」のパフォーマンスを見てほしい。首、肩、腕、足……と、動かしたいところと止めたいところを明確に分けられる身体能力の高さに驚かされるはずだ。そして、カメラが他のメンバーにフォーカスしているときにも、常に笑顔を絶やすことなく踊っていることがわかる。この仲間と、この楽曲を、歌い、踊ることができる喜び。それを全身から感じ取ることができる。その溢れんばかりの幸せが、見ている人の希望になる。こんなにも生き生きと表現できる人がいる世界に生きているのだ、という希望に……。


 先程は、“ボーカルからラッパーへと転身した“とサラッと書いてしまったが、そこにはJ-HOPEの並々ならぬ努力があったことは想像に難くない。音楽授賞式『2018 Mnet Asian Music Awards(MAMA)in HONG KONG』で、大賞の「Artist of the Year」に選ばれたとき、受賞スピーチでいつも笑顔なJ-HOPEがくしゃくしゃになって涙を流していたのを思い出す。


「本当にたくさん苦労しましたし、みなさんからたくさんの愛をもらったので、絶対にお返ししたいと思っていました」


 その言葉からわかるのは、J-HOPE自身の希望はARMYの愛であるということだった。いつもムードメーカーとなってメンバーを笑わせ、バラエティではくるくると変わる表情で楽しませてくれるJ-HOPE。彼がいるから、どんなに厳しい状況においても、BTSは前向きに努力を続けられたに違いない。メンバーやARMYからの愛をまっすぐに受け止め、そのエネルギーをパフォーマンスへと昇華させ、大きな希望を見せてくれる。そんなJ-HOPEがいるBTSが、このパンドラの箱に満ちた世界から求められないわけがないのだ。(佐藤結衣)