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ウーバー配達員による交通事故、責任を負うのは誰? 弁護士が注目する「規約」の盲点

2020年12月04日 10:11  弁護士ドットコム

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歩行者を自転車ではねてけがを負わせ、そのまま逃走したとして、食事配達サービス「ウーバーイーツ」(Uber Eats)の男性配達員がこのほど、重過失傷害とひき逃げ(道交法違反)の疑いで書類送検された。


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共同通信などによると、男性配達員は2020年8月20日夜、東京・池袋で、自転車で走行していたところ、歩いていた女性と衝突した。女性は軽いけがを負ったという。



コロナ禍での巣ごもり需要拡大にともない、ウーバーイーツの利用者は増えているが、その一方で配達員による交通事故などのトラブルも発生している。



別のウーバーイーツの配達員による事故を2020年10月、大阪市の女性会社役員が、ウーバー・ジャパンに対して、約250万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴したと報じられている。



この事故では、女性が歩行中、背後から配達員の自転車に追突され、けがを負った。ウーバー側は請求棄却を求めているという。



●規約「ウーバーイーツと配達員は雇用関係にない」

ウーバーイーツの配達員が配達中に事故を起こしたなら、ウーバーイーツもその責任を負うのが自然なようにも思える。宅配ピザをバイクで配達する従業員が交通事故を起こせば、店舗側にも責任を問うだろう。



しかし、ウーバーイーツと配達員との関係は、一般的な企業における「雇用主と従業員」と同じものではない。



ウーバーイーツの利用規約にあたる「ユーザー条件」には、次のような記述がある。




「貴殿は、Uberがデリバリー等サービスを提供するものではなく、全ての当該デリバリー等サービスはUber又はその関連会社により雇用されていない独立した第三者の契約者により提供されることを了承することとします」




つまり、ウーバーイーツは配達員を雇用していないと明言しており、「雇用主と従業員」の関係にはないと考えているようだ。



雇用関係がないとすると、ウーバーイーツ配達員が事故を起こしても、雇用主ではないウーバーイーツに対して責任を追及することはできないのだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。



●「ウーバーイーツが使用者責任を負うべき」

——ウーバーイーツは配達員と雇用関係にないとしているようです。



従業員による損害について、雇用主に責任を追及しようとする場合に考えられるのは「使用者責任」(民法715条)です。「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と規定されています。



——「ある事業のために他人を使用する者」とは、雇用主などでしょうか。



雇用契約上の雇用主が典型ですが、雇用主に限定されているわけではなく、実質的にみて、使用者が被用者を指揮監督するという関係があれば足りるものと解されています(最高裁昭和42年11月9日判決)。



その背景には、従業員などを使用することで収益を得ている事業者は、その見返りとして、従業員などが起こした事故などによって第三者に損害を与えた場合には責任を負担すべきだという考え方があります。



——ウーバーイーツとその配達員との関係についてはどうでしょうか。



ウーバーイーツは、配達員との関係は雇用契約ではなく、配達員は独立した個人事業主であるといった反論をしているようです。



しかし、ウーバーイーツと配達員との間の法律関係はともかくとして、ウーバーイーツが、事業として、配達員に注文を伝達し、その伝達を受けた配達員が商品を顧客に配達するということが組織的におこなわれ、これによってウーバーイーツが多額の収益を得ていることは疑いありません。



また、ウーバーイーツが、注文すべき商品、配達すべき場所、配達員に求める標準的な配達時間等について、実質的に配達員を指揮監督しているだろうことは容易に推認できます。



したがって、配達員が配達中に交通事故を起こし、第三者に損害を与えた場合には、ウーバーイーツが使用者責任を負うべきであろうと考えます。



——配達員に依頼している注文者が使用者責任を負うことはあるのでしょうか。



ウーバーイーツのサービスの利用者は、配達員に直接の指揮監督はしていませんし、配達員の配達によって「事業」を営んで収益を得ているわけではありませんので、サービスの利用者が使用者責任を負う可能性は低いと思います。



●「コンプライアンスの姿勢に乏しい規約に思える」

——ウーバーイーツと配達員が雇用関係にないことは規約で示されています。



この規約は、サービスの利用者とウーバー側との間の規約であり、ウーバー側と契約関係にない交通事故の被害者には適用されません。



また、消費者であるサービス利用者とウーバー側との関係についても、法の適用に関する通則法11条(消費者契約の特例)に基づき、一定の場合には日本の法律の強行規定が適用されます。



——サービス外の第三者には及ばないということですね。



ウーバーイーツの規約を見ましたが、ほかにも気になる点がありました。



オランダにおいて設立された非公開有限会社である「Uber B.V」が契約当事者です。そして、以下の内容が表明されています。




「Uberは、本サービスの利用に関連し・・・起因する逸失利益、逸失データ、人身傷害又は物損を含む、間接損害、付随損害、特別損害、懲罰的損害又は派生損害について、・・・何ら責任を負いません」
「Uberは本サービス又は本サービスの使用を通して要請されるサービス若しくは物品の信頼性、適時性、品質・・・利用可能性、又は本サービスが妨害や誤謬がないことの表明保証又は保証も何ら行いません」




また、オランダ法を準拠法としており、サービスに関連する紛争は、国際商工会議所の調停規則に基づく調停手続に強制的に服せられると記載されています。



要するに、利用者に損害が生じても一切の責任は負わないし、契約関係はオランダ法によって解釈され、日本国内では裁判もできませんよ、という内容です。



——日本での利用者にとって、かなり不利な内容のように見えます。



海外の事業者のこうした姿勢は、日本国内の法令を遵守する姿勢、すなわちコンプライアンスの姿勢に欠けており、顧客保護、消費者保護の観点も抜け落ちているのではないでしょうか。



また、配達員との関係でも、雇用関係を否定し、団体交渉にも応じないといった報道がされており、日本の労働法制も軽視されていると言わざるを得ません。



——今後も同じような事故が起きないとも限りません。



日本の法制度を遵守する姿勢に乏しい海外企業に対しては、日本の裁判所や行政機関において、より厳しい対応が必要であるように思います。




【取材協力弁護士】
秋山 直人(あきやま・なおと)弁護士
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は溜池山王にあり、弁護士3名で構成。不動産関連トラブル、企業法務、原発事故・交通事故等の損害賠償請求等を取り扱っている。
事務所名:たつき総合法律事務所
事務所URL:http://tatsuki-law.com