2020年12月01日 10:51 弁護士ドットコム
「ウーバーイーツをやろうにも、我々のような小規模の飲食店では利益が出づらい。だから自分たちで出前を始めたんです」
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東京と埼玉の境にある「東京都北区赤羽」。飲み屋街として知られるこの街も、新型コロナウイルスによって大きな影響を受けた。
そこで今年4月、居酒屋を経営する篠原裕明さん(52)は周りの店舗に声をかけ、「赤羽出前団」を結成。料理のデリバリーを始めた。取り組みは、飲食店の生き残り戦略として、テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」など複数のメディアで取り上げられた。
しかし、最近になって赤羽住民は出前団を利用できなくなってしまった。新型コロナの感染再拡大で需要増が見込まれるのにだ。
いったいなぜか。理由は、篠原さんが“親会社”から店を取り上げられてしまったからだ。鍵を変えられたので、中には入れない。店の電話番号も不通になり、共通の番号だった赤羽出前団にもつながらなくなってしまった。
篠原さんは親会社を訴える準備をしており、赤羽の飲食店関係者の関心を集めている。
篠原さんが経営していた「やきとん大王 赤羽店」は、飲食店がひしめく赤羽一番街にある。今年10月26日の営業開始前、この店から、荷物が次々と運び出され、店先に積み上げられていった。親会社の仕業だった。
スタッフから連絡を受けた篠原さんは店舗に駆け付けた。親会社側と言い合いになったが決着はつかず、営業を断念。以来、鍵が変わっているので中に入れないでいる。
店のシャッターには、「親会社に勝手に鍵を変えられてしまったため、臨時休業とさせていただきます」との張り紙をした。ゴタゴタの中、予約客の電話番号も確認できなくなり、キャンセルの連絡ができなかったという。
11月下旬になって店は営業を再開した。しかし、篠原さんや元々のスタッフの姿はない。親会社が別のスタッフに営業させている状態だ。
なぜこんな事態になったのだろうか。
篠原さんはもともと、親会社の社員として、この店の店長をしていた。しかし、営業時間は12時~24時。スタッフも少ないから、店長の労働時間は長い。労働基準監督署の指導を受けることもあったという。
その後、営業時間は短縮され、しばらくすると親会社から、社員ではなく業務委託として店を経営することを持ちかけられた。そして、2019年7月に独立。篠原さんは労働者ではなく、経営者という立場になった。
独立に際しては、委託料など、毎月150万円ほど(家賃除く)を親会社に支払う契約になっていた。ところが、独立から1年たった2020年7月、契約見直しのタイミングで、親会社に金額の根拠が不透明な部分をただすと、今回のように鍵をつけ変えられ、営業できなくされてしまったという。
このときは、数日で再開できたが、以来、会社とはほぼ没交渉。契約の見直しもできていないとして、委託料などの支払いは控えてきた。
すると10月、冒頭のように事前通告なしで締め出しを食らった。今回は、親会社が別スタッフで営業を再開しているため、戻る場所もない。
篠原さん側は、法的措置をとらずに鍵をつけ変え、追い出したのは違法な「自力救済」に当たるなどとして、営業ができなかったことによる損害賠償などを求めて、裁判を起こすという。
「今までのスタッフと、赤羽の違う場所で新しく店を開く予定もあります」(篠原さん)
親会社側は、取材に対して「法的な話し合いをしているところ。一切お答えできない」と回答した。
ただし、状況からこちらも未払いの委託料などを求めて裁判を起こしてくる可能性が高いとみられる。