企業人事のみなさんから最近受けた相談で、以下のようなものがありました。
「生産性が低下している」「メンタル不調を訴えるメンバーが増えている」
「上司のマネジメント力の差が目立ってきている」
みなさんの現状はいかがでしょうか。今回はリモートワーク下においても、メンバーとのコミュニケーションをしっかりと取っていく際にポイントとなる"上司の質問力"についてお伝えします。(文:働きがい創造研究所社長 田岡英明)
メンバーの思考が変われば行動も変わっていく
「皆さん、今日の朝ごはんは何を召し上がりましたか?」
こう聞かれると、皆さんは「何を食べたかな?そうだ、今朝はフレンチトーストとコーヒーだった!」といった形になるはずです。人間は一日に約6万回の思考をしていると言われています。どのような質問を他者から投げかけられるのか、もしくは自分に投げかけるのかが我々の思考を支配していくのです。
世界の賢者は、思考が言葉となり、言葉が行動となり、行動が習慣となり、習慣が性格を作り、性格が人生を決めていくと言います。つまり、メンバーに生産的な行動を促すには、メンバーの思考を知り、メンバーの思考の変化をもたらすことが大切になってくるのです。
良質な質問はメンバーを理解することを促すとともに、メンバーの思考を変化させていきます。そして、メンバーの行動変化につながっていくのです。
話の抽象度を意識する質問一例「要するに?」「具体的に言うと?」
対面のコミュニケーションであれば、相手の表情や仕草から、心理状態を読んでいくことができますが、リモート環境では難しいのが現実です。リモートワーク下においてもメンバーの現状を理解していくには、上司の質問力がポイントとなります。
そこで、"抽象の梯子"を自由に上り下りできる質問力を鍛えていきましょう。抽象の梯子とは、物事の抽象度を大きくしたり、細かくしたりする際に用いられる表現です。
例えば、"車"を例にとって説明すると、"車"の抽象度を上げると"乗り物"、さらに上げると"物体"となります。一方、抽象度を下げると"トヨタ"で、さらに下げると"クラウン"だったりします。
同様に、メンバーとの会話の中でも抽象度を上げさせたり、下げさせたりするのです。抽象度を上げる質問には、具体的に以下のようなものがあります。
「要するに?」「一言で言うと?」
「これまでの話をまとめると?」
他方、抽象度を下げる質問には、以下のようなものがあります。
「具体的に言うと?」「何がそう思わせたの?」
「誰が?いつ?何が?どこで?誰に?」
といったものです。これらの質問を自由自在に使える自分をつくり、リモート環境でもメンバーが話す内容の理解を深めていきましょう。
思考を広げるための質問も
質問にはメンバーの言っていくことを理解するのみではなく、メンバーの思考を広げるための質問も存在します。メンバーの凝り固まった考え方を質問により緩め、広い考え方や違った目線をもたらすことができます。
みなさんご自身にも使えますが、思考を広げる質問としては以下のようなものがあります。
「その目標が出来たとしたら、何が要因かな?」
「行動を止めているものは、何だろうね?」
「そう思わせたものは、何?」「それをやらなかったら、どうなるの?」
といったものです。これらの質問を投げかけられると、人はこれまでとは違ったものの見方で目の前の現象を見ることができるようになっていきます。リモート環境でもメンバーの思考や行動の可能性を広げ、成長につなげていくことが出来るのです。
リモートワーク下では、コミュニケーションが一方通行になりがちです。そして、一方通行のコミュニケーションは孤立を生み、生産性を低下させます。今回お伝えした"上司の質問力"を鍛え、リモートワーク下においても生産性の高い現場を作ってください。
【著者プロフィール】田岡 英明
働きがい創造研究所 取締役社長/Feel Works エグゼクティブコンサルタント
1968年、東京都出身。1992年に山之内製薬(現在のアステラス製薬)入社。全社最年少のリーダーとして年上から女性まで多様な部下のマネジメントに携わる。傾聴面談を主体としたマネジメント手法により、組織の成果拡大を達成する。2014年に株式会社FeelWorks入社し、企業の管理職向けのマネジメント研修や、若手・中堅向けのマインドアップ研修などに携わる。2017年に株式会社働きがい創造研究所を設立し、取締役社長に就任。