2020年11月26日 18:21 弁護士ドットコム
外資系セキュリティー大手「マカフィー」(東京都渋谷区)の40代の女性社員が、強要による退職は無効であるとして、地位確認や慰謝料など計約1600万円を求めて、東京地裁に申し立てていた労働審判について、調停が11月25日に成立した。解決金の有無や金額は非公表。
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女性が11月26日、会見を開き、「労働審判手続きを無事に終了することができて良かったと思っています」と報告した。
申立書などによると、女性は2017年11月、営業職として入社。2019年9月、会議室で上司と面談していたところ、常務執行役員パートナー営業本部長と人事部長が入ってきて、退職強要とともに、退職確認書への意に沿わない署名をさせられたと主張していた。
「サインしなければ解雇通知します」などと、その場での署名を迫られ、退職強要は2時間にもわたったとした。
そこで、労働者の自由な意思に反した退職強要は無効であり、退職の合意は成立していないことや、未払い賃金、慰謝料などを労働審判で求めていた(2020年5月13日)。
女性は調停成立前(労働審判の間)、「労働審判が始まっても、会社側は退職強要はないと主張を続けていました」と話していた。
代理人を務めた指宿昭一弁護士は、労働審判の申し立て時に反響があったとし、調停成立によって、さらに良い影響があるのではないかと話す。
「マカフィーのような有名企業で申し立てがなされたのは、幅広いインパクトがあったようで、外資系で働くかたから相当数の相談が私に届いた。
『あの報道を見た』と言ってくるかたが多かった。私はよく会見をするが、こんなに手応えのある報道は少なかった。
守秘義務がついたのは残念だが、本人が『よかった』と述べることで、外資系で働く人には大きな励みになり、企業にとっても影響があると思う」
コロナ禍で、外資系企業の解雇、退職勧奨が増加しているという。指宿弁護士のもとにも、退職勧奨だけで、週に2件ほどの相談があるそうだ。
「退職合意書を示して、サインしなければ解雇だと求めてくる強引な事例は、とりわけ外資系企業で多いように思う。サインしてしまったとき、裁判や労働審判まで進むケースは少なく、躊躇してしまっている」
行動をためらう背景は、外資から外資への転職・採用活動において、「バックグラウンドチェック」を導入する企業が、特に大手で多いことがあるという。
これは、前の会社での働きぶりに関する報告であり、転職前の職場の上司などに提出させるものだという。
退職時にトラブルになると、この「チェック」の際に、上司から良い報告がされないと不安を感じるため、不本意な辞め方を受け入れてしまう実態もあるという。
しかし、指宿弁護士は「私のところに相談にくる外資系のかたは、バックグラウンドチェックをかなりの確率で心配してくるが、実際に事件が解決したあとで、レター(報告書)を出してもらえないとか、変なことを書かれて困ったという事例は実は皆無です。過度に気にする必要はないと思う」と呼びかけた。
女性は「職場の労働問題について、専門家である弁護士に相談し、労働審判を申し立てて本当に良かった。法的手続きには躊躇もあったが、お願いしてみて、私たち労働者は日本の法律に守られていると身をもって実感した」と話した。