2020年11月25日 18:51 弁護士ドットコム
沖縄・宮古島市の元市議で、自営業の石嶺香織さんが、産経新聞の記事は名誉毀損にあたるとして、東京地裁に慰謝料など計220万円の損害賠償と、ネットに残る記事の削除を求める裁判を起こした。11月26日には第1回口頭弁論がある。
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石嶺さんらは11月25日、会見を開き、「記事は全くの創作」と訴えた。提訴は9月23日付。
訴えの原因となっているのは、産経新聞が2017年3月23日付朝刊、およびネットニュース(3月22日付)、で掲載した「自衛隊差別発言の石嶺香織・宮古島市議、当選後に月収制限超える県営団地に入居」と題した記事。
産経の記事を引用する。
「市によると、市議の月収は約34万円。石嶺氏には1月と2月の給与として2月21日に税などを引いた約62万円が支給された。県営住宅の申し込み資格は、申し込み者と同居親族の所得を合計した月収額が15万8千円以下とされ、石嶺氏は当選前の平成27年度の所得に基づき入居が認められ、今年(編注:平成29年=2017年)2月に入居した。
仲介業者が市議の月収を確認し、資格より大幅に上回るため入居するか確認したところ、石嶺氏は『住む所がないので1年だけ入居させてほしい』と答えたという。」
訴状や会見での報告によると、石嶺さんが県営団地の申し込みをしたのは、2016年7月のこと。抽選に落ちたが、11月になり、県の委託業者である「住宅情報センター」(仲介業者)から、2017年2月に入居可能と連絡があったという。
2017年1月22日、石嶺さんは宮古島市議補選に当選。市議になる前の収入証明書を提出していたが、当選後に、県の土木事務所から「入居に法的に問題がない」との説明を受けたという。
この件について、当時、仲介業者である「住宅情報センター」とやりとりは全くなかったそうだ。
石嶺氏は2017年2月1日、県営団地に入居した。
産経の記事では、「月収制限超える県営団地に入居」、「資格より大幅に上回る」との記述があった。
しかし、沖縄県営住宅の設置及び管理に関する条例に基づく、入居の収入基準額は、石嶺さんの世帯の場合、月21万4000円だという。
そして、入居申込書の提出当時の世帯年間総所得は172万9600円で、控除額などを引いた認定月収(政令月収)は1万7466円であり、「月収制限を超える」ことも、「資格より大幅に上回る」こともなかったと主張。
また、記事終盤では、伝聞の形で石嶺さんの発言をカギカッコで紹介している。
しかし、この文章については、「全くの創作である」と断じた。
代理人を務める神原元弁護士は「本人に全く取材をしていない。報道倫理にもとづいていない」と語った。
石嶺さんは「記事が出た後で、仲介業者(住宅情報センター)に確認したら、取材を受けたということでしたが、担当者は違うことを書かれたと言っていました」と話す。
このようなことから、記事には真実性が認められず、意図的に条例に反して県営住宅に入居したことを指摘し、社会的評価を低下させるものであると訴えている。
記事の影響で、ネット上には「県営団地に『住むところがない』との理由で不正入居している」などの書き込みがなされた。記事掲載の日にも、駐車できないように、団地駐車場にブロックを置かれるなどの嫌がらせがあったという。
記事が出された当時、誹謗中傷が起こるなどしたことで、「精神的にもかなり疲弊し、産経新聞に抗議文を送るだけで精一杯だった」とした(なお、抗議文への回答はなかったという)。
また、市議でなくなったあとも、裁判を起こせば、その中傷やバッシングが再燃するおそれがあったという。「恐怖心がわきあがり、なかなか踏み切れませんでした」
しかし、「伊藤詩織さんや大坂なおみさん、MeTooの声をあげる女性たちの存在に励まされた」ことなどから、3年半の時間がたってから裁判に至ったと話した。
石嶺さんは、2017年1月の宮古島市議補選で初当選。
3月9日、自身のフェイスブックで「海兵隊の訓練を受けた陸上自衛隊が宮古島に来たら、米軍が来なくても絶対に婦女暴行事件が起こる」と発言。後に謝罪のうえ撤回した。
これをめぐり、市議会で辞職勧告決議案が可決されたが、辞職を拒否。同年10月の市議選で落選した。
なお、原告らによれば、県営住宅には、石嶺さんのほかにも宮古島市議が住んでいるという。
「以前入居していたかたと、現在入居しているかたがいる。議会事務局も問題と捉えていない」(石嶺さん)
県営住宅に市議が住むことを問題視するのであれば、その市議らについても、産経は記事にするべきでないかと会見で呼びかけた。
そのうえで、「全国紙が、なぜ私にそこまでスポットを当てて記事にしたのか、目的は別のところにあるのでは」と指摘した。
産経新聞社は、編集部にファクスでコメントした。
「名誉毀損には当たらないと考えています。具体的には裁判の中で主張、立証していきます」