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「新人研修」で罵声、人格否定など…自殺社員遺族がゼリア新薬らと和解

2020年11月24日 19:21  弁護士ドットコム

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ゼリア新薬工業(東京都中央区)に入社した男性社員(当時22歳)が自殺したのは、入社後の研修でのパワハラなどが原因だったとして、遺族が、同社や研修の請負企業などを相手取った損害賠償請求訴訟で、和解が成立した(11月20日付け)。


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遺族らが11月24日、会見で報告した。生きていれば、30歳だった。



父親は「2年半前に訴訟を提起して、やっと和解が成立した。事故から7年半。半分ホッとした。息子の墓前に報告できます」と語った。



母親は「和解しても、悲しみは今も変わらない」とした。



●自死するまでの経緯

男性は2013年に大学を卒業し、同年4月に入社。8月9日までの予定で、研修施設での宿泊を伴う研修に参加した。5月18日までに精神疾患を発症し、同日、施設から帰宅する途中で自ら命を絶った。



このうち、4月10日~12日は、「ビジネスグランドワークス社(BGW)」による「意識行動変革研修」が実施された。



男性は研修中、被告の講師から、「吃音」や「過去のいじめ」について、参加者の前で発言を要求されたことを「研修報告書」に書き残していた。吃音が同期らに知られたことに「ショックはうまくいい表すことができません」とつづっていた。



労基署は、大声で挨拶することなどを指示され、涙を流す受講者が多数いたことも、確認しているという。



遺族は、BGWの研修はもとより、ゼリア本体の研修も6時間の睡眠も確保できないほど長時間にわたるものだったとして、著しい心理的負荷があったと主張していた。



2015年5月19日、労基署は、意識行動変革研修において、強い心理的負荷があったとして、男性の死について労災認定している。



●提訴から和解へ

遺族は2017年8月8日、およそ1億500万円の損害賠償などを求めて、ゼリア社、BGW、当時の講師を相手取り、東京地裁に提訴した。



一方、研修内容に問題がなかったとするBGWは、労基署がゼリア社やBGWなどに事実確認をしないまま、不十分な検証によって労災認定したとして、賠償責任の不存在を確認するための訴訟を提起していた。



和解が成立したのは2020年11月20日。



ゼリア社との和解内容は非開示。BGWとの間でも、原則非開示だが、「被災労働者が死亡したことについて、原告らに衷心より哀悼の意を表する」と「哀悼の意」を和解内容に盛り込むことが決まった。



当時の講師との間では、講師が原告らに哀悼の意を表わすとともに、和解時に100万円の解決金を支払うことなどで合意した。



ゼリア社は会見終了後、編集部の取材に「本件訴訟が11月20日、和解によって終了したのは事実。和解条項の中身は開示できませんが、亡くなられたかたやご遺族に対して、哀悼の意を表するのは従前より変わりありません」とコメントした。



●「記録をとっておいて」と遺族

この裁判には、原告側の証人として、男性と一緒に被告の講師から同じ研修を受けた同期の元社員や、5年上の元社員2名も協力したという。



父親は、元社員らが、研修の内容を毎日きっちりメモをとって、正確に残していたことが重要だったと振り返る。



「労災にからむ長時間労働やパワハラは、証拠を提出できないと、裁判で和解に持ち込むのは難しい。つらい目に遭っているかたは、ぜひ記録を取って」



また、父親によれば、陳述した元社員らは「意識改革変容研修」の過酷さを「洗脳研修」と表現したそうだ。



原告の代理人を務めた玉木一成弁護士によれば、ゼリア側は、意識改革変容研修は、社会人になるために重要で意義のある研修と位置付けていたという。



「事故の2年後、ゼリアは新入社員研修の意識変容研修をやめた。新入社員にさせるのは危険であり、過度な心理的負荷を負わせないように配慮する必要があると知らせられた」





●母親「息子を失った悲しみは今も…」

会見に登壇しなかったが、母親は「愛する息子が、親より先に逝ってしまいました。息子を失った悲しみは、今も変わることなく続いています。バカ野郎! なめるなよ! ふざけるな!など罵声を浴び、大声や全力疾走を強要され、(中略)息子の葬儀には、企業から弔辞もはありませんでした」とコメントを発表し、癒えぬ心のうちを明かした。