2020年11月20日 11:31 弁護士ドットコム
選択的夫婦別姓制度に賛成する人は70.6%——。早稲田大学の研究室と市民団体による合同調査の結果が11月18日、早稲田大学で発表された。
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選択的夫婦別姓をめぐっては1996年、法務相の諮問機関である法制審議会が制度導入を提言。法務省は法案を準備したが、自民党の反対にあい、国会提出は見送られた。選択的夫婦別姓を求める人たちは裁判を起こしたが、2015年に最高裁は夫婦を同性とする規定は「合憲」という判断を下した。
その後、選択的夫婦別姓を求める人たちが何度も国を相手取って提訴。現在も、4つの違憲訴訟が最高裁に上告されている。また、地方議会でも国に対して制度導入を求める趣旨の意見書は157件、可決してる。
それでも、なかなか実現しない選択的夫婦別姓制度。調査から浮かび上がった「反対」の背景とは?(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
2015年の夫婦別姓訴訟の流れをくむ第二次夫婦別姓訴訟の判決が2020年10月、東京高裁であった。選択的夫婦別姓訴訟弁護団では、裁判の流れや判決について、少しでも前進したところを指摘する姿勢を常にとっている。
ところが、その日の会見で、同弁護団事務局長、野口敏彦弁護士はめずらしく憤りをあらわにした。
理由は、判決の前日にTBS系の情報ワイドショー番組『グッとラック!』で放送された元衆院議員の亀井静香氏のインタビューだった。
「その中で、亀井さんは『選択的夫婦別姓は、俺がまともなことを言ったからつぶれたんだよ』と言っていました」
民主党政権下だった2010年、民法改正法案が提出されようとしたが、連立与党の国民新党代表で内閣に加わっていた亀井氏が反対、実現しなかった。
「その理由について、『伝統文化というか、生活文化だね。家の玄関にアパートみたいに夫婦別々の表札をかけなきゃいけない、子どもが父ちゃんの名前を名乗るか、母ちゃんの名前を名乗るか、子ども同士で名前が違っちゃう。あえてそんな事をする必要はないよね』とも言っていました。
これだけのために、どれだけの人が結婚できず、子どもを産む選択肢を放棄せざるをえず、幸せになれなかったのか。これから国会で議論が進むと思いますが、この点を本当に肝に命じていただきたい。
日本の憲法は個人を尊重しています。しかし、亀井さんや一部の人たちの考え方は、家族、あるいは国家を個人よりも上位のものとしています。一体、なにを守ろうとしているのか、そこを真剣に考えてほしいです」
法制審議会の答申から四半世紀。選択的夫婦別姓を望みつつ、実現を見ないまま、亡くなっていった人たちもいる。
国会の鈍い動きに反して、選択的夫婦別姓に賛成する世論は年々、高まっている。
2018年に公表された内閣府世論調査では、国民の66.9%が民法改正に賛成および容認。特に30代では84.4%という高さだった。2019年の国立社会保障・人口問題研究所による調査では、「夫婦が同姓である必要はない」とした人が50.5%となった。これも30代は60.3%だった。
2020年1月、朝日新聞社による世論調査では、さらに自民党支持層にも「賛成」が広まっているという結果となった。選択的夫婦別姓について「賛成」が69%で、「反対」が24%と、賛成が大きく上回ったが、自民支持層でも63%が賛成、反対は31%にとどまったのだ。
これらさまざまな調査をふまえ、実施されたのが今回の調査だった。実施したのは、早稲田大学法学学術院の棚村政行研究室と全国の議会から国会を動かそうとはたらきかけている市民団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」だ。
この調査は、20代から50代の男女7000人が対象。特に、結婚する可能性が高いと想定される20~30代の女性で「賛成」が多く、いずれも80%を超えた。
一方、ユニークなのは、「反対」を尋ねる際の「自分は夫婦同姓がよい。他の夫婦も同姓であるべきだ」という選択肢だ。この回答を選んだ人は14.4%で、40代男性で20.5%、50代男性では23.4%と他の世代・性別に比べて多かった。
反対する理由として、「夫婦は家族を作ることだから同姓がいいと思う。夫婦別姓だと家族がバラバラになったように感じるから」(男性57歳)、「昔からの伝統を大切にしたい。夫婦同姓が日本のルールだから」(男性50歳)などがみられた。「短絡的な離別の抑制」(男性56歳)という意見もあった。
棚村教授は、「反対の理由に多いのは、別姓では夫婦の一体感が失われる、名前が一つじゃないと家族じゃない、という意識。これについて、私たちは考えていく必要があると思います」と評した。
選択的夫婦別姓に反対する人からよく聞かれるのは、「伝統だから」という理由だ。
調査発表に参加した立命館大学法学部の二宮周平教授(家族法)は、これに対して「事実に反する」と指摘する。
「庶民が苗字を名乗ることができたのは1870年からです。1898年、明治民法の制定により、家族の基本は家にあるとし、戸主および家族は家の氏を称するとされました。
女性は婚姻して夫の家に入り、夫の家族となることから、その家の氏を称しました。家制度が結果として夫婦同姓をもたらしたのです。古来の伝統というのであれば、武士階級は源頼朝と北条政子のように夫婦別姓でした」
また、反対理由として根強いものに、「家族としての絆が失われる」「子どもがかわいそうだから」という意見がある。これに対しても、事実婚で夫婦別姓の両親の家庭で育ったという大学生の小泉知碩さんは真っ向から否定する。
「子どもがかわいそうとか、絆がなくなるとか言われますが、それはまったくないです。一体感のある別姓の家族として、絆に問題があるといわれているようで、悲しく思います。
これから結婚する世代としても、選択的夫婦別姓を実現してほしいです」
2020年1月、国会で選択的夫婦別姓についての質問がされた際、「嫌なら結婚するな」と野次が飛んだ。自民党の杉田水脈衆院議員ではないかと指摘が相次いだが、自民党は明らかにしなかった。
一方で、同じ自民党内で、選択的夫婦別姓の実現に向けた動きもある。稲田朋美衆院議員は11月13日、衆院法務委員会で結婚後も旧姓の使用を続けられる制度の新設を提案、民法改正のための私案を明らかにした。
橋本聖子女性活躍担当相も、12月に男女共同参画基本計画に「選択的夫婦別姓」の実現に向けた検討をする方針を盛り込むことを明らかにしている。
これに対して、自民党の高市早苗衆院議員や山谷えり子参院議員、片山さつき参院議員らが発起人となり、家族や地域社会の絆を重視する議員連盟「『絆』を紡ぐ会」(仮称)が今月、設立されると報じられている。いずれも、選択的夫婦別姓には反対の立場をとる議員たちだ。
そうした中、注目をあつめているのが、菅義偉首相である。実は、選択的夫婦別姓を推進する立場で活動してきた経歴を持つ。11月6日の参院予算委員会でもそれについて触れ、「私は政治家として、そうしたことを申し上げてきたことには、責任がある」と述べた。
「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」の井田奈穂事務局長は、「壁に穴が空いたかなと思いました。私たちが求めているのはたった一つ。望まない改姓をゼロにしてください、ということです」と期待をこめて語った。