2020年11月18日 20:41 弁護士ドットコム
公益財団法人日本ダウン症協会(JDS)は、日本ダウン症学会とともに、「ダウン症のある方たちの生活実態と、ともに生きる親の主観的幸福度に関する調査」を実施し、単純集計の調査結果を報告した。
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ダウン症のある人と、その親ら約4471人(JDSの全正会員)を対象に、アンケート用紙を送付し、1581通の回答を得た(調査期間:2020年7月10日~7月31日)。
ダウン症の人の8人に1人が「雇用」の形で働いているという実態がデータ上明らかになった。また、低所得の世帯が少ないこともわかった。「良いデータ」「悪いデータ」にかかわらず、議論の広がりを期待して「すべて情報は出していく」とした。
調査は、ダウン症の人の生育歴、生活状況、健康状態や、保護者の精神状態について把握しようとするもの。
JDSは11月18日、会見を開いて、中間報告をおこなった。
知的障害者のくくりで、同様の調査は実施されていたが、ダウン症に限定して、1500人超の回答(回収率35.4%)を得た調査は、これまでになかったものだという。
新型出生前診断(NIPT)など、胎児の先天異常を調べる出生前診断については、適切な実施の体制をめぐり、厚労省の委員会で議論がされている。
単純集計段階であるが、結果として明らかにされたこともある。回答者の世帯年収分布において「300万円未満」は14.4%だった。国民生活基礎調査では、「300万円未満」は30.6%(2018年)である。
JDS代表理事の玉井邦夫さんは「いわゆる低所得世帯の率が明らかに低い」と指摘する。
ダウン症を含め、障害を持った子どもを産み育てることに不安を感じた親が、経済的理由から妊娠中絶を選択することも背景にあるとして、「お金がかかるという不安が保護者にあることが、データからうかがえると思う」と話した。
また、本人の就労状況を調べたところ、8人に1人(12.6%)が「一般就労(一般企業の障害者枠雇用も含む)」や「就労継続支援A型」など、最低賃金法が適用される「雇用」のかたちで働いていることがわかった。
「8人に1人が、雇用のレベルに到達していた。ここまで高い率とは予想していなかった」
玉井さんは、情報の不足や、ネガティブなイメージの広がりから、「妊婦の中には、お腹の子がダウン症だと言われていなくても、世間で出生前診断が取り上げられれば、不安になるかたもいるだろう」と話す。
JDS理事の水戸川真由美さんによれば、ダウン症の疑いがわかった親のほとんどがネットをググり始めるという。
インターネットでは、幼いダウン症児の情報は豊富にあっても成人してからの情報はほとんどないという。また、正確でない情報も転がっている。
そこで、調査結果の活用を期待している。
「遺伝カウンセリングの場や、ピアサポートの場で活用していただきたい。安心できる情報を提供したい」
調査では、保護者の幸福度が高いという結果も示された。一方で、玉井氏は「成人期のダウン症のかたは、こだわりの問題など、生活に難しいところもある。正直、ネガティブなデータも出る。それも実態です。そこに対して発信することが我々の仕事。隠さず出していきたい」とする。
保護者がどのような精神状態にあるのか、どんな生活を実際に送っているのか。「データを示すことで、反響を見て、その後の調査の方向付けにもなる。まずは、最初の石を投げたい」
厚労省の委員会でも、このデータが活用され、議論の広まりが生まれることを望んでいる。
2021年2月11日の「世界ダウン症の日 キックオフイベント」(オンライン)で調査の詳細な報告がされる予定だ。