2020年11月18日 10:52 弁護士ドットコム
新型コロナウイルス感染が急増する北海道で、11月17日、札幌市の「警戒ステージ」(道独自の指標)が「4」に引き上げられた。不要不急の外出自粛などを要請することが決まった。
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しかしながら、政府の観光支援事業「Go To トラベル」については、利用の制限はしない。「Go To イート」も他道府県の扱いと変わらない運用になる見込みだ。
あいまいなルールに翻弄されることになるのは道民だ。特に、コロナの打撃を受けやすい飲食業は困惑している。札幌市の繁華街ススキノで飲食店を経営する弁護士に、北海道が直面している問題を語ってもらった。(編集部・塚田賢慎)
北海道は11月17日、対策本部会で、27日まで「警戒ステージ4」相当の措置を取ることを決めた。札幌市を対象とするもので、「感染リスクが回避できない場合」に、不要不急の外出自粛、および市外との不要不急の往来自粛を要請する。
17日には、道内の感染者が13日連続で100人を超え、10日連続で死者が確認されている。
しかし、鈴木直道知事は、政府の観光支援事業「Go To トラベル」について、市町村などの意見を聞いたうえで、制限しないとの見解を示した。
道民には外出自粛などを要請しているのにもかかわらず、全国から人の往来を許容する「Go To」を継続するなど、方針には「矛盾」との批判もある。
中村浩士弁護士は、札幌市の繁華街ススキノで、刑期を終えた出所者を支援する飲食店「おかえり」を昨年11月に開店した経営者だ。しかし、コロナの影響で、経営は揺らぎ、理念の実現もあやぶまれているという。
中村弁護士は、北海道の飲食業界が突きつけられている課題を語った。
ーー外出自粛要請など、今回の北海道の対策をどう見ますか
新型コロナ収束の見通しが付かない中で「Go To トラベル」及び「Go To イート」の導入を決め、かつ、PCR検査数が飛躍的に増加している現状においては、感染者数が一定程度増えるのは最初から分かっていたことです。
ですので、札幌市民に外出自粛要請を出すにしても、「Go To」をやめるにしても、まずは科学的な具体的検証の結果を公表すべきだと思います。
導入前に比べて現状が本当に悪化していると評価できるのか。また、悪化している原因は、本当に、「Go To」による人の動きの活性化が主原因なのか。そして、それを止めなければ改善できないのかについて、感染者数の単純な増加という数字のみに踊らされるべきではありません。
検証によって、やはり現状が悪化していると判明した場合でも、たとえば、感染防止策の徹底の呼び掛けや感染防止策の履行状況の確認、あるいはこれらを徹底している店舗とそうでない店舗に対する給付金支給に差異を設けるなど、具体的対応策の実践が先決だと考えます。
これらのことをしないまま、不要不急の外出自粛要請などをしても、実際の効果も到達目標も不明です。このような行政の抽象的な対応は、批判逃れのための「やったふり」でしかないと思われます。
「Go To」は、観光業、飲食業等の最後の命綱です。これらを廃止して経済活動を止めてしまうことは、多くを廃業に追い込むことになりかねません。具体的な検証がなされることなく、やったふりの行政の対応に振り回され続ける場合には、観光業や飲食業等の不公平感と無力感を更に募らせるばかりで、到底納得できないことだろうと思います。
ーー北海道では、全国に先駆けて、2月28日に緊急事態宣言が出されました。ここまで札幌市内の飲食店がおかれた状況を振り返っていただけますか
2月の宣言以降、札幌市内の飲食店の廃業が相次ぎました。「Go To トラベル」及び「Go To イート」の導入もあり、ようやく復調の兆しが見えてきた矢先に、再び不要不急の外出要請が出されるに至り、約2週間前からのススキノの客足はぴたりと止まってしまいました。
ススキノの多くの飲食店は、廃業か存続か、の厳しい選択を迫られています。よって、軽率に「Go To」を廃止できない行政の判断は、理解できるところです。
「ススキノの飲食店」も千差万別です。接待を伴う飲食店、感染予防対策が不十分な店や全く対策をしていない店、感染予防対策を丁寧に実施している店があります。
最大の問題は、これらの店をすべて一緒くたにして「ススキノの飲食店は危険」とのイメージだけが広がり、感染の危険や不安を煽ることだと思います。
真面目に万全の感染予防対策を講じていながら、客がゼロないし1組しか入らないススキノの店もあれば、ススキノから少し離れた札幌市内の店では、対策が全く講じられずに密の状態になって繁盛している光景も珍しくありません。
十分な感染予防対策を講じずに密状態を生めば、地域に関わらず、感染は発生して拡大しえます。感染予防対策を十分に講じている店舗とそうでない店舗とを峻別して把握し、後者に対する自粛要請や店名公表などによって、感染源を撲滅していく具体的な対応策の検討と実践。それこそが、行政のなすべき急務ではないでしょうか。
ーー中村弁護士が手がける飲食店は、刑期を終えた出所者を雇うなどの取り組みもしています。飲食店を通じた出所者支援において、コロナはどのように影響していますか
出所者支援の現状として、就職の受け皿となる建築や運送等の職種において、職場提供の支援をしてくれる協力雇用主は多数いらっしゃるのですが、支援にご協力いただける職種はかなり限定されてしまう実情があります。
そこで、性別や年齢を問わず、短期間からでも柔軟な勤務シフトで働きやすい飲食業における更生支援を考え、2019年11月15日に更生支援の居酒屋「おかえり」をオープンしました。
しかし、コロナの感染拡大に伴い、4月からの一時休業を余儀なくされました。その間、競合の少ない「洋食店」でのリニューアルの準備を整え、コロナの拡大も少し落ち着き始めた10月15日にようやくリニューアルオープンさせたばかりでした。
出所者の受け入れ予定も来年1月下旬に決まり、ようやく再起への道すじが見えてきました。そんなときに、またもや今回の事態となり、店を持続できるのかどうかの窮地に立たされています。
夢と希望を与える職場としての飲食店運営が、持続できるかどうかすらも分からない不安定な働き場になりつつある現状は、とても悲しいことです。一刻も早い新型コロナウイルスの終息を願うばかりです。
【取材協力弁護士】
中村 浩士(なかむら・ひろし)弁護士
刑事弁護及び犯罪被害者支援のほか、一般企業法務を数多く手掛ける検事出身の弁護士。
札幌弁護士会・犯罪被害者支援委員会元委員長、日本弁護士連合会・犯罪被害者支援委員会元委員
事務所名:弁護士法人シティ総合法律事務所
事務所URL:https://city-lawoffice.com/