2020年11月17日 11:51 弁護士ドットコム
動画に登場するのは、縄文土器や石器を「発掘」する外国人グループ。次々とスコップで土を掘り返し、出土する遺物に興奮する様子が映し出されている。
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この動画は、岩手県花巻市内で撮影され、外国人の女性ユーチューバーによって、11月上旬にYouTubeで公開されたのもの。女性ユーチューバーは日本在住で、フォロワー数が60万人を超える。
しかし、11月上旬にこの動画が公開されると、考古学関係者などの間では土を深く掘り返してまで遺物を探す行為に対して、違法ではないかとの懸念が広まった。
さらに追加で公開された動画では、ユーチューバーたちは遺物を花巻市総合文化財センターに持ち込み、「鑑定」してもらっていた。これらの動画は現在、非公開となっている。
こうした「発掘」に法的問題はないのか。また、もしも土器や石器などの遺物を発見した場合はどうしたら良いのか。花巻市総合文化財センターに取材した。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
花巻市総合文化財センターによると、土器や石器が持ち込まれたのは11月10日。そのときの様子を担当職員はこう振り返る。
「外国人の男女2人が来て、『土器を拾ったのだけど、本当に古い時代の土器なのか見てほしい』と言われて、対応しました。遺物は、土器の破片や剥片石器で、中には縄文時代後期の土器が含まれていました」
また、外国人ユーチューバーは、「遺物をこうやって拾って持ってくることは、違法かどうか」を聞いたという。
「うちには、市民の方が土器などを拾って持ち込むことがあります。こうした遺物は法的に『拾得物扱い』となり、国民共有の財産になるとお伝えしました」
もしも工事などで偶然、埋蔵文化財が発見された場合、遺失物法4条1項に基づき、拾得物(落し物)として警察に届け出なければならない。勝手に持ち帰り、自分のものにすることはできない。
岩手県文化振興事業団埋蔵文化財センターのホームページでも、「土器や石器などを発見したら、もよりの市町村教育委員会に教えてください」と呼びかけている。
今回、ユーチューバーが公開していた動画で問題視されたのは、土を掘削するなど「発掘」をしていることだった。
文化財保護法92条では、埋蔵文化財を発掘調査する際、文化庁長官への届出を義務づけている。土木工事や発掘調査以外の目的で、遺跡や遺物が出土する土地(埋蔵文化財包蔵地)として知られている場所で発掘する場合でも同様だ(同93条)。
このため、考古学関係者からは、ユーチューバーたちが「無届けの発掘をしたのではないか」「92条に違反しているのではないか」という指摘がされた。
これに対して、花巻市総合文化財センターでは「土器や石器を発見したという場所は、これまで埋蔵文化財包蔵地としては知られていませんでした」と説明する。その場合は、文化財保護法の対象外となる。
しかし、「ただし、遺跡と認められていない場合であっても、土器が出るからといって安易に掘削することは、万が一遺跡だった場合に影響があるので、好ましくはないです」と指摘する。
花巻市総合文化財センターでは、動画がすぐに非公開となったため、どのような行為があったかなど確認できておらず、現時点では掘削をともなわず、地面で遺物を拾うだけの「表面採集」だったと判断している。
花巻市総合文化財センターでは、ユーチューバーたちが持ち込んだ遺物を精査し、採集した場所も現地調査する予定だ。
「現地調査で埋蔵文化財包蔵地だとわかれば、岩手県の教育委員会に届け出て、正式に登録されます。その場合は、安易な掘削などは文化財保護法違反となりますので、気をつけていただければと思います」
土器や石器を持ち込んだユーチューバーたちにも、注意喚起するという。
考古学ファンが遺跡などで、遺物を表面採集することは少なくない。また、近年ではユーチューバーが国内の遺跡を訪れて紹介したり、遺物を表面採集したりする動画もある。
しかし、一方で、遺物を発見した際にどう取り扱ったらよいのか、適切な方法が十分知られているとは言えない。今後、埋蔵文化財についての知識や理解をより広く周知していくことが求められる。