雨となった難しい第14戦トルコGPの予選で2番手と4番手を確保したレッドブル・ホンダ。日曜日もレース前に雨が降り、レースは予選と同様、ウエット路面でスタートした。
つまり、状況としてはレッドブル・ホンダにとって悪い展開ではなかった。にもかかわらず、レッドブル・ホンダは優勝できなかっただけでなく、表彰台を逃し、マックス・フェルスタッペンが6位、アレクサンダー・アルボンは7位に終わった。なぜ、レッドブル・ホンダはトルコGPで勝てなかったのか。
フェルスタッペンはスタートでのつまずきを原因のひとつに挙げた。
「グリッドの汚れた側でグリップが不足していて順位を落とした」
確かにスタート直後に2台とも加速せず、集団に飲み込まれるようにして1コーナーに進入していったが、クリスチャン・ホーナー代表が「大きく出遅れたものの、巻き返しを図ってオープニングラップの終わりには4番手と5番手につけていた」というように、フェルスタッペンが失ったポジションは結果的にふたつで、アルボンはひとつだけと、致命的な出遅れにはなっていなかった。
さらにフェルスタッペンは路面の雨量が徐々に少なくなり出してウエットタイヤからインターミディエイトへのタイヤ交換のタイミングでもポジションをひとつ上げ、3番手を走行していた。つまり、この時点で勝つチャンスは十分残っていた。
しかしこの後、勝機はレッドブル・ホンダから離れていく。18周目にフェルスタッペンが2番手を走るセルジオ・ペレス(レーシングポイント)を抜こうとしてコースアウトし、スピンを喫し、タイヤにフラットスポットを作ってピットインを余儀なくされた。
「キンク(シケイン)でチェコ(ペレスの愛称)との差を大きく縮めたので、オーバーテイクを仕掛けようとしたら、前車の水しぶきを派手に浴びてしまい、縁石に乗ってスピンをした」(フェルスタッペン)
レースだから、相手を抜こうという行為自体は責められることではない。しかし、あのとき、あそこまでリスクを犯して抜く必要があったのか。クリスチャン・ホーナー代表はこう言う。
「レースのあの段階ではまだDRSが使えず、マックスは追い抜きを仕掛けるのに苦労し、結果的にセルジオに近づきすぎてスピンを喫してしまった」
ウエットコンディションでは走行ラインは1本しかなく、走行ライン以外はとても滑りやすい。しかも、DRSが使えないのなら無理にオーバーテイクを仕掛ける必要はなかったというのが、決して結果論ではないことは、この日優勝したルイス・ハミルトン(メルセデス)の走りを見ればわかる。スタート直後の混乱を除けば、このレースでハミルトンがオーバーテイクしたのはDRSが使用可能となった後の37周目のペレスだけだった。
■タイヤ交換は3回。新たな課題が浮き彫りに
ただし、仮にあのスピンがなくても、この日フェルスタッペンは優勝できなかったかもしれない。というのも、18周目にピットインしてインターミディエイトにタイヤを交換したフェルスタッペンは25周後の43周目に3度目のピットストップを行い、三たびインターミディエイトにタイヤを交換していたからだ。
「すぐに劣化してしまうインターミディエイトで、ただひたすら前を走るマシンを追い、グリップがなくなって、サバイバルするだけの複雑なレースだった」(フェルスタッペン)
この日のレッドブル・ホンダがタイヤに厳しかったことは、スピンしたフェルスタッペンに代わって3番手に浮上したアルボンも、12周目に交換したインターミディエイトを最後までもたせることができずに、34周目にピットインして、結局7位でチェッカーフラッグを受けていたことでもわかる。
これに対して、勝ったメルセデスのアンドリュー・ショブリン(トラックサイドエンジニアリングディレクター)は、勝因を次のように分析した。
「今日はDRSがない状態では本当にオーバーテイクが難しかった。したがって、ピットウオールで戦略に関する最大のポイントはインターミディエイトをどれだけ引っ張るかだった。その期待にルイスは見事に応えた。彼のタイヤのマネージメントは本当に素晴らしかった」
8周目に中古のインターミディエイトに交換したハミルトンは、その後50周をノンストップで走り切り、予選6番手から見事な大逆転優勝を成し遂げた。
2021年にメルセデスを倒して王座を勝ち獲りたいレッドブル・ホンダにとって、今回のトルコGPは新たな課題が明確になった一戦となった。