日本初のインターネット広告の効果測定システムを開発し、インターネット広告大手として広く名の知れた存在である旧オプトホールディングが、7月1日付けで「デジタルホールディングス」に社名を変更した。
大胆に変えたのは名前だけではない。仕事のやり方も大きく切り替えている。現在の社員の出社率は2割以下。6フロアあったオフィスも年内に3分の1を解約し、残りのスペースもリニューアル工事をしたという。
そこまでの変化を進めたのはなぜなのか。新たな会社にはどのような人材が求められるのか。デジタルホールディングスグループのCHRO(人事最高責任者)を務める石綿純氏に、リモートでインタビューを行った。(キャリコネニュース編集部)
創業者は「インターネット広告に乗り込んだときと同じワクワク感」
――かなり大胆な社名変更ですが、異論は出ませんでしたか。
社外取締役からは「こんな大事なことを簡単に決めていいのか?」と驚かれましたが、経営ボードのメンバーはすんなり納得していました。
当社は、26年前にファクシミリのダイレクトマーケティングの会社として創業し、2000年にインターネット広告業界に乗り込みました。そのときも、先を見越して始めたものの、最初は全然相手にされなかった。それでも世の中が変わるタイミングで、まずはやってみようと考えたわけです。
世の中が大きく変わるデジタルシフトにどう関与していくか。お客様から求められているものにどう応え、当社の企業価値をどう作り上げていくか。
具体的に見えていない部分もありますが、今回のデジタルシフトは「第三の創業」といえるもので、創業者の鉢嶺登(代表取締役会長)も「インターネット広告に乗り込んだときと同じようなワクワク感がある」と言っています。
――社員の反応はいかがですか。
ホールディングス(持株会社)の名前が変わること自体は、一般の社員からすると、そんなに強いインパクトではなかったかもしれません。
ただ、インターネット広告からデジタルシフトに舵を切ると決めた中での社名変更なので、中身をどういうふうに入れていくのか、実際に結果を出していかなければ、変わったとは認められない。
創業社長だった鉢嶺が3月に会長になり、創業メンバーの野内敦が社長・グループCEOに就任しました。野内はおそらく、当社で最もデジタルシフトを積極的に進めなければならないと強く考えているひとりです。
その彼が、毎月約1500人の社員が集まるオンラインの全社グループ会議で、私たち経営ボードが何を考えているのか、どういう市場認識でデジタルシフトに向かっているのか、当社の存在意義は何なのか、ということを説明し続けています。
このような取り組みもリモートになってから可能になったわけですが、こういうことを重ねることで、会社の方向性が変わったことが徐々に伝わってきたかな、という印象を受けています。
ビジネス全体をデジタル化する「DX」を支援
――事業はどのように変わっていくのでしょうか。
インターネット広告事業は、もちろんこれからも続けていきます。ただし今回のコロナ禍では単に広告だけでなく、ECの領域などでお客様のニーズが大きく変わっています。広告代理を軸に、お客様のマーケティング全体のデジタル化を進め、さらにマーケティング以外の領域にもデジタル化を広げていきます。
デジタル化のステップには、まずは紙のメディアや広告をデジタル化したようにアナログをデジタルにする「デジタイゼーション」という段階があり、業務プロセスをデジタル化する「デジタライゼーション」という段階がある。
これにとどまらず、ビジネス全体をデジタル化する「DX」(デジタル・トランスフォーメーション)という段階があります。
この3つの段階の一連の流れを、弊社では「デジタルシフト」と定義していますが、顧客の状況にあわせてこの全てのフェーズでデジタルシフトをご支援していきます。そのなかでも、最終段階であるDXこそ、日本の国力をあげていくうえで非常に重要だと考えております。
――これまで関わってきたデジタル化事業にはどんな例がありますか。
早い例だと、2005年に電通さんとeマーケティング事業で資本・業務提携を行い(2017年解消)、営業からプランニングまでできる人材を常駐させながら一緒にビジネスを行ってきました。
また日本経済新聞社さんとは、日経IDの会員向けビジネスを検討し、「オフィスパス」というシェアオフィス使い放題サービスを開発しています。抱える会員に付加価値を提供することで更なるビジネスに転換していきたいというニーズは、他の会社にもあるでしょう。
このほか、LINEさんとの協業で、事故が起きてから写真を撮って保険の依頼をするまでの手続きをスマートフォン上で完結するサービスを、損害保険業界と一緒に作り上げました。
この4月には、LINEを最大限に活用してデジタルシフトを推進するため「LINE Innovation Center(ラインイノベーションセンター)」を新設し、開発パートナーの枠を超えて「顧客の事業創造」までの企画、設計、開発を担うサービスを提供し、ビジネスインフラとして採用できる環境づくりに取り組んでいます。
オフィスは「コミュニケーションの場」に
――コロナ対応のリモートワーク導入は円滑に進みましたか。
2012年に四番町(東京・千代田)にオフィスを移転してから、コミュニケーションの活性化や柔軟な働き方を進めてきました。しかしテレワークについては、ワーキングマザーの社員が週1回使う用途を除けば普及率は高いとはいえませんでした。
それが、今回の新型コロナ禍で一気に進み、全従業員に配っていたスマートフォンやノートパソコンが活用されて、テレワークをスムースに導入することができました。
現在は「出社は週2日以内、部署ごとの出社率は40%以内」というルールを設けていますが、実際の出社率は2割以下です。人事のメンバーも20人以上いるのですが、きょうは1人しか出社していません(笑)。
――テレワーク下の課題はどのように認識されていますか。
やはりコミュニケーションの問題です。当社には以前からコミュニケーション重視の文化があり、それを促すスペースをオフィスに設けたりしていたのですが、通常のテレワークの中ではそれが失われる懸念がありました。
今回、オフィスのフロア数を減らし、残りのスペースをリニューアルする際に、各部署からメンバーを募って「ワークスタイル改革プロジェクト」を作り、新しいオフィスのあり方を検討しました。出された結論のひとつは、集中して仕事をする場所はオフィスでなくても、在宅勤務でもいいのでは、ということです。
一方で、オフィスはみんなが集まって、偶発的な出会いがあったり、ディスカッションで発散したりすることで、イノベーションが生まれる場所にしていこうということ。今後コロナがどうなるか分かりませんが、収束していって人が集まり始めたときに、コミュニケーションを活性化できるような新しいスペースを作っています。
4月入社の新入社員は、入社式もリモートで行いましたし、1ヶ月半の前研修もリモートで実施して、非常に効率よくできた側面もあるのですが、彼らはまだ一度も同期が一同に会したことがない。それに対するストレスはあると思います。
現在は一人ひとりに先輩社員のメンターを付け、コミュニケーションを密にしていますが、それでも足りないと感じています。彼らにも、新しいオフィスの使い方を一緒に考えようと呼びかけています。
デジタルを通じて「新しい事業開発」できる人を求む
――オフィス回帰を始める会社もある中で、デジタル化を前提にスピーディな事業展開を進める御社ですが、求める人材像は変わっていますか。
まずマネージャーについて言うと、コロナの前と後では、仕事の本質は変わっていません。メンバー一人ひとりとコミュニケーションができていたグループは、コロナ後もほとんど問題なく仕事が進んでいます。
一方で、きめ細かいコミュニケーションのひと手間をかけないマネージャーのところから、いろんな問題が起きています。ちょっとした気配りをやれるかやれないかの違いですが、それができれば、オンラインだろうがリアルだろうが、基本的には変わらないというのがやってみた実感です。
――マネージャー以外ではどうですか。
現在は採用面接のほとんどをリモートで行っているのですが、リモートが得意でない人がいるのは事実です。それは、リモートでも自分の考えを論理立てて説明できるかどうかの違いで、もちろんあるのが望ましい人材です。
まずはデジタルシフトをしていく当社の存在意義を理解してもらい、共感してもらえる人が欲しいですね。新しい事業開発をデジタルを通じてできる人。ビジネスモデルを考えて形にできる人。それによって、世の中に貢献したいと考えている人です。
広い意味で、デジタルを使って世の中に貢献していくことが、当社のミッションです。デジタル化されていないもの、デジタルによってもっと便利になるものがあるはずで、まだまだ気づけていないものがある。そういうものに気づかせてくれる人、新しい価値を創造できる人を求めています。