2020年11月14日 09:31 弁護士ドットコム
「夫が会社内で浮気をしていますが、会社は何もしてくれません」。弁護士ドットコムに夫の社内不倫に悩む女性が相談を寄せている。
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相談者によると、夫は部下の女性と不倫しているという。夫が不倫相手に「大好きだよ」などのメールを送っていることや2人で泊まっていることも分かった。夫が不倫していることは夫の上司も把握しており、上司が「公私混同している」と注意したこともあったという。
これまで夫の会社では、不倫していた社員が解雇や降格になったこともあるそうだ。これを知った相談者が夫の上司に話をしたところ、「個人の問題なので、個人間で解決すべき。会社は関係ない」と言われたという。
相談者は会社の対応に納得できない様子だ。そもそも、会社は社内不倫をしている職員に対して、なんらかの処分をすべきなのだろうか。
村木亨輔弁護士は、つぎのように説明する。
「就業規則において、労働者の私生活上に非行があった場合に懲戒事由として規定する場合があります。
従業員が他の従業員と不倫関係になったとしても、本来、プライベートな事柄ですし、業務に関係がない職場外の問題なので、懲戒処分の対象にはならないようにも思えそうです。
しかし、過去の裁判例では、会社が社内不倫を企業の秩序や社会的評価に影響を及ぼす問題にあたるとして懲戒処分を行ったところ、その有効性が争われたケースや、実際に懲戒処分が認められたケースがあります」
具体的に、どのようなケースで懲戒処分が認められたのだろうか。
「たとえば、少し古いものですが、東京高判昭和41年7月30日(判例時報457号60頁)があります。
この裁判例では、妻子あるバス運転手が、未成年の女子車掌と不貞関係を長期間継続し、妊娠させ、さらに中絶させて退職するに至ったこと等は、労働協約に定める『著しく風紀・秩序を乱して会社の対面を汚し損害を与えたとき』にあたるとして、会社が下した解雇処分は有効であると判断しました。
判決において裁判所は、職場環境から運転士と女性車掌が長時間一緒に勤務したり、宿泊を共にしたりすることから不純関係が生じやすいため、会社としても風紀を厳に戒める必要があったところ、運転士と女性車掌との関係によって女性車掌が退職したことや、他の女子従業員に不安動揺を生じさせて求人に悪影響を招いたこと、会社の社会的地位や名誉、信用を傷つけ業務の正常な運営を阻害して会社に損害を生じさせたこと等を重くとらえました。
そのため、不貞関係そのものよりも、運転士と女性車掌との社内恋愛があったことを重視した判断といえそうです」
村木弁護士によると、今回のケースにおいて相談者の夫が部下と不貞関係にあったとしても「懲戒処分を下すか否かは会社の裁量の問題」だという。
「相談者が会社の対応に納得できなかったとしても、そのことを問題視することまではできないでしょう」
不貞行為は「違法」行為だ。しかし、相談者が会社に社内不倫の事実を密告することも「不法行為」と判断されてしまうおそれもある。
村木弁護士は、次のように指摘する。
「不倫相手から、各人の名誉ないしプライバシーを侵害したとして『不法行為』(民法709条)に基づいて損害賠償を請求されるおそれは否定できません。そうすると、不倫相手に反撃の機会を与えかねませんので、その点は注意が必要です」。
【取材協力弁護士】
村木 亨輔(むらき・きょうすけ)弁護士
虎ノ門法律経済事務所神戸支店の支店長弁護士。東京本店を中心に、全国に33の支店があり、今後も各地に拡大する予定。本店支店間が相互に連携を取ることにより、充実したリーガルサービスの提供を可能とする。
事務所名:虎ノ門法律経済事務所 神戸支店
事務所URL:https://kobe-t-leo.com/