2020年11月14日 09:11 弁護士ドットコム
ボーナスの不支給は不合理な格差には当たらないーー。今年10月、「非正規格差」をめぐる複数の事件で最高裁判決が言い渡された。そのうちの1つ「大阪医科大事件」では、正職員と仕事内容は一緒だったとして、ボーナスを求めていた元アルバイトの原告が敗訴した。
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事例に沿った判断で、一般論は示されていないものの、格差是正の流れが後退しないか、影響が懸念されている。
ただ、世の中を見まわしてみると、まだ少数ではあっても非正規労働者にボーナスを支給している会社はある。たとえば、通信大手のKDDIだ。
同社の労働組合はさらに、2017年春闘から“異例”の要求をしている。それは、非正規の社員にも正社員と同じように「月給の何カ月分」という形でボーナスを出してほしいというものだ。まだ合意はみていないものの、待遇は着実に向上しているという。同組合の取り組みを紹介したい。
近年、非正規労働者の加入が増えているが、かつては労働者の権利を守るはずの労働組合が、非正規を排除するなどして、「正社員クラブ」と揶揄されることがあった。
一方、KDDIでは2012年に会社とのユニオンショップ協定を締結。契約社員も含めて入社すると自動的に労働組合に入るようになった。組合員1万2060人のうち、契約社員はおよそ15%に相当する1700人いる(2020年現在)。
要望などを集約するため、定期的に職場で意見交換の場をもうけており、契約社員に限定した相談窓口なども用意しているという。
「役割の違いはあっても、ミッションの達成に貢献している点においては、正規・非正規の違いはありません」
こう話すのは、KDDI労組の登尾直樹事務局長。雇用形態に関係なく、事業の発展に必要だからこそ、労働者はその職場にいる。実際に同組合では労使交渉の中で、着実に格差の解消を進めてきた。
たとえば、2013年春闘で初めて、正社員と比べれば少額だが、契約社員のボーナスを獲得。弔事、結婚などで休む際も有給になった。
契約社員のベースアップにも力を入れている。特徴的な年を紹介すると、2015年春闘では総合職のベア平均月2700円に対し、契約社員は月4800円。さらに2016年春闘では、総合職の平均500円に対し、契約社員は月5457円と大幅アップで妥結している。
2017年春闘からは、冒頭で紹介したように、契約社員も正社員と同じ「月給の何カ月分」で支給するよう求めている。会社とはまだ合意を見ていないものの、契約社員のボーナスはこの年、前年倍額の10万円が支給された。その後も少しずつ増えている。
こうした進展があるのも、企業側に格差是正への意識やインセンティブがあるからといえる。ただし、原資が無限大にあるわけではない。
「会社には会社の立場があるので、一足飛びに解決する問題だとは思っていません。組合としては、説得できる理屈を立てて、粘り強く交渉していかなくてはならないと考えています」(登尾事務局長)
今回の最高裁判決を受けて、KDDIのように非正規の待遇を上げるのではなく、反対に正社員の待遇を下げることで、「同一労働同一賃金」にする企業が出てくるのではないか、という懸念も出ている。そうしたときにも、労働組合は重要な役割を持つ。
賃金などの待遇は労使の話し合いで決めるのが基本だ。この機会をとらえて、労働者側も改めて労働組合の意義について考えてみるのも良いのではないだろうか。