2020年11月11日 10:22 弁護士ドットコム
さいたま市で今年8月、男性3人が乗った車が川に転落し、そのうち後部座席にいた1人が死亡した事故で、埼玉県警は11月5日、車の保険金を目当てにわざと事故を起こしたとして、運転していた男性および同乗していた男性を傷害致死の疑いで逮捕した。
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時事通信などによると、3人は友人同士。転落した際には全員車に乗っていたが、死亡した男性だけ逃げ遅れてしまったという。
事故後、関係者による情報提供から保険金詐欺の疑いが浮上。車を故意に転落させ死亡させた疑いで、一緒にいた2人が逮捕された。
もし仮に3人で保険金詐欺を計画していたのであれば、死亡男性も車を転落させることに同意し、その危険性を承知していたと考えられるが、それでも傷害の罪に問われてしまうものなのだろうか。本間久雄弁護士に聞いた。
――保険金詐欺を計画し、車を転落させることに全員が同意していたとしても、死亡者が出た場合は傷害の罪に問われてしまうのでしょうか。
傷害罪はいわゆる「個人的法益」に関する罪で、被害者の同意のある傷害については、法益(刑法が守るべき利益)を保護する必要性に乏しいことから、違法性が阻却され、罪に問われないとされています。
ただし、被害者の同意があっても、なお法益を保護する必要性がある場合は違法性が阻却されません。
保険金詐取の目的のために、被害者が自動車の追突による傷害に同意したというケースに関して、判例は「(同意は)保険金を騙し取るという違法な目的に利用するために得られた違法なものであって、これによって当該傷害行為の違法性を阻却するものではない」としています(最高裁昭和55年11月13日決定)。
具体的な事情などにもよりますが、今回のケースも上記判例と同様の保険金詐取事案ですので、被害者の同意によって違法性は阻却されず、傷害(致死)罪に問われる可能性は高いでしょう。
――保険金詐欺以外で、同意があっても傷害の罪に問われた例はありますか。
暴力団で被害者の同意のもとに"指つめ"(指の一部を切断)をしたというケースで、同意は公序良俗に反し無効として、指を切断した暴力団員に傷害罪の成立を認めた裁判例があります(仙台地裁石巻支部昭和62年2月18日判決)。
――今回のケースでは、傷害致死の疑いで逮捕されています。
犯罪行為をおこなったとき、予想していた以上の重い結果を引き起こしてしまった場合に、その重い結果についても罪に問う犯罪を「結果的加重犯」といいます。
傷害致死罪は、傷害罪の結果的加重犯であり、行為者に傷害の故意しかなくとも、傷害によって人が死亡してしまったときは、その行為者には傷害致死罪が成立し、死の結果まで責任を負わなければなりません。
【取材協力弁護士】
本間 久雄(ほんま・ひさお)弁護士
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。
事務所名:横浜関内法律事務所
事務所URL:http://jiinhoumu.com/