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誘拐犯と疑われて…迷子助けた経験者に聞く「もう警察に連れていきません」「僕はまた声かける」

2020年11月10日 13:31  弁護士ドットコム

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見つけた迷子を保護することは、今やリスクなのかーー。弁護士ドットコムニュース編集部の記事「迷子で泣く女児、助けるのはリスク? 虐待問題との共通点『面倒ごと避ける大人増えた』」に反響がありました。


【関連記事:【前回の記事】迷子で泣く女児、助けるのはリスク? 虐待問題との共通点「面倒ごと避ける大人増えた」】



その多くは、子どもに声をかけることで、「犯罪を疑われてしまう」「親との間でトラブルになる」など、助けたくても助けられない社会になっている、という意見でした。



実際に、迷子を見つけて、行動に移したという人に話を聞かせてもらいました。



●40代独身男性「もう交番には連れていきません」

1人目は、40代男性の河本さん(仮名)、独身です。迷子の子どもに声をかけて、交番に連れていったことが2回あります。「誘拐犯扱いされたので、3回目は連れていきません」と言います。



迷子を見つけたのは、およそ5年前と、3年前のことで、いずれもショッピングモールの近くでした。



5年前は、家族とはぐれて泣いていた小学校低学年くらいの女の子。



3年前は、おじいちゃんの家に行く途中で迷ってしまった小学校高学年くらいの女の子。涙目になっていたといいます。



「どちらの子も、状況はだいたい同じで、まわりの人たちの、『あの子、迷子じゃないか』の声で気づき、近くに交番があることを知っていたので、交番に行こうねと声をかけて向かいました。



小学生の女の子だったので、何か言われないか心配はありました、手をつながず、体にも触れないように気をつけて歩きました」



交番到着後、子どもを引き渡した河本さんは、警察から「疑いの目を向けられた」と感じたそうです。



「帰ろうとしたら、男の警察官から、不審な目ときつい声で、名前、携帯番号、自宅の住所や会社まで聞かれ、『家にまで行くことがあるかも』とまで言われました。なんで会社や住所まで聞かれるのか不明ですが、完全に疑われていると思いました。



2回とも『保護してくれてありがとう』なんて感謝の言葉は全くなかったです。その日一日機嫌は悪かったですよ」



●声をかけず、通報することにします

1回目に怪しまれて嫌な思いをしても、それでも再度助けた理由は「迷子だったから、それだけです。そこで躊躇してたら人としてねぇ」。



しかし、3回目があっても、声はかけず、通報だけにするそうです。



「迷子を保護したとされる男性が、逮捕され、実名報道される事件があったからです」



男性があげたのが、2019年末に関西地方で起きた未成年者誘拐事件です。



各紙の報道によると、男性(当時24)が、男子小学生(当時11)を誘拐したとして逮捕されました。男子とは以前から面識があり、一緒にいただけだと容疑を否認したとされます。母親に叱られて、夜1人でいたところに声をかけ、翌昼まで一緒に行動していたようです。複数のメディアが当時、実名で事件を報じました。



その後の経過は明らかではありませんが、当時、インターネットで話題になりました。ネットではこの他にも同種の事件をあげて、助けづらい理由とする書き込みがありました。ことの顛末が分からないからこそ、萎縮効果を生んでいる部分もあるのでしょう。



「自分も一歩間違ったらああなっていたとゾッとしましたよ。



自助、自己責任がまかり通る社会ですけど眼の前の迷子くらいは助けられる社会であって欲しいですね」



●また助けます

「また同じことがあっても、また助けます」と話すのは、独身の30代男性、西山さん(仮名)です。



2019年の冬、すっかり日が落ちた午後6時ころのこと。西山さんの住む都市近郊で、小学校2~3年くらいの男の子を見つけました。



「学校の前で泣いていました。その時間は車の往来が多く、泣いている子どもが1人だけというのも、何だか危ない気がしたので声をかけようと思いました。



リスクは特に考えていませんでしたが、図書館司書として普段から子どもと話をしていたので、話しかける抵抗感がなくなっていたのだと思います」



どうやら、母親とケンカして家を飛び出したものの、帰ってみると、鍵がかけられたうえ、みな出払ってしまったようでした。



西山さんが声をかける様子を見て、他に男性たちも集まりました。



泣いている男の子の話では、書道教室にお兄ちゃんがいるとのこと。徒歩10分ほどの教室です。



「私が教室まで連れていきますと他の2人に提案すると、高校生が『1人だと怪しまれるかもしれないので、僕も一緒に行きますよ』と名乗り出てくれました」



ここで初めて、西山さんは、リスクについて「なるほど」と思ったそうです。



西山さんと、高校生に、手を繋いでもらった男の子は、だんだんと落ち着きを取り戻したといいます。一度、母親が戻っていないか自宅を確認したうえで、書道教室に向かい、男の子が教室に入るところを見届けて、その場を去りました。



●嫌なことをしているわけじゃないから、自信を持ちたい

この先、同じ状況に出くわしたとしても、「リスクのことは念頭に置きつつも、同じ行動を取ると思います」と話します。



「嫌な目で見られても、嫌なことをしている訳ではないので、そこは自信を持とうと思います。それに素通りすると、僕自身、とてもモヤモヤすると思います」



ーー助けて良かったでしょうか?



「もちろんです」



●自治体や警察の広報が必要?

河本さんも、西山さんも、警察も含め、記事に出てくる大人たちは、自分のなすべきことをしたのだと思います。



それでも、河本さんのように、いやな思いをする人が現れてしまうのは、子どもを見つけたときに、どう対応すればよいのか、ハッキリとしたルールがないのも一因ではないでしょうか。



通報する。交番に連れていく。声をかけるべきだ。いや、かけるべきではない。不審者扱いやトラブルを嫌って、二の足を踏む人が多いのであれば、警察や自治体が指針を示してもよいかもしれません。