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「植えたのは私だけどさ…」別居中の妻が支払うべき? 庭の木の撤去費用

2020年11月09日 10:01  弁護士ドットコム

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別居した後、元の家に残した物がトラブルの火種になることもある。夫の元から離れて暮らす女性から弁護士ドットコムに相談が寄せられた。


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別居して1年になる相談者に、夫から書面が届いたそうだ。



「あなた(=相談者)が植えた木が大きくなり撤去の費用を夫婦共有の財産から支払いたい」



さらには、もしも相談者がそれを承諾せず、「撤去が遅れ隣の家に被害が出てトラブルになった場合、全責任は相談者にある」という記載があったという。



離婚を考えている相談者は「別居して一年たち放置されていた木の撤去費用を負担しなければならないのか。トラブルの責任は私にあるのか」と疑問を持っています。



相談者は費用負担をする必要があるのでしょうか。夫婦や男女問題に詳しい下大澤優弁護士に聞きました。



●木は夫婦の共有財産として考える

ーー別居中でも、相談者が家の敷地に植えた木の撤去費用は、夫婦の共有財産から支払うべきなのでしょうか?



ご質問へのご回答にあたって、まずは木の実質的所有者は誰であるかという点を考えてみたいと思います。なお、自宅・土地の所有権名義が夫婦のどちらにあるのかという点は脇に置いて考えます。



夫婦の持ち家に木を植えた場合、夫・妻のどちらが植えたかにかかわらず、木の所有権は夫婦双方に帰属する(つまり、夫婦共有財産となる)と解釈することが自然です。ですので、木が夫婦の実質的共有物であることを前提としてご回答をいたします。



●「夫婦で完全に折半」は妥当ではない

本事案では、「夫婦の共有物の管理に要する費用をどのように分担するか」が問題となります。別居中といえども、夫婦は婚姻生活から生じる費用を各々分担しなければなりません(民法第760条)。



木の管理費用を婚姻生活から生じる費用と考えた場合、ひとつの解決方法として、「夫婦の収入に応じて負担割合を決める」(解決方法A)ことが考えられます。例えば、夫の年収が500万円・妻の年収が200万円である場合、5:2の割合で費用を按分(あんぶん)することになります。



他方で、夫が単独で自宅に住んでいる点に着目し、「別居後の住居管理費用は、居住者が単独で負担すべきである」という考え方(「解決方法B」)もあり得ます。



この場合、まずは夫が木の撤去費用を負担し、自宅の維持管理の貢献度は離婚時の財産分与の場面で考慮し得るにとどまります。私見では、解決方法Bの方が適切であり、家庭裁判所の実務にも沿うのではないかと考えます。



いずれにせよ、「木の撤去費用は夫婦が2分の1ずつ負担すべきであり、共有財産からの支出が許される」との結論を採ることは硬直的に過ぎ、妥当ではないと思われます。



●植えた木のせいで隣家に虫が大量発生…責任は?

ーーたとえば、木の枝などが隣家の敷地にまで伸びるなどして、隣家の建物を傷つけたり、木があるために虫が隣家で大量発生したりした場合に、対処の責任は、別居中の相談者にあるのでしょうか? 



木が原因で他人に損害を与えてしまった場合、まずは「被害者との関係で責任を負う者は誰か」を考え、その後に、「夫婦間の責任分担をどうするか」を考える必要があります。



被害者との関係でいえば、責任を負うべきは自宅・土地の所有権者(登記簿上の所有者)です。本事案で、自宅土地の所有権名義が夫にある場合、被害者に対し損害賠償責任を負うのは夫となります。



被害者に対し損害賠償金を支払った後は、夫婦の責任割合に応じて、夫婦間での分担を考えます。夫が損害賠償金を被害者に支払った場合、妻に対し、妻の責任割合に応じた分担を求めるわけです。



夫婦間での責任割合を考えた場合、結局は最初の質問へのご回答と同様の結論に行き着くと思われます。つまり、「別居後の住居管理費用は、居住者が単独で負担すべきである」という考え方(上記解決方法B)を採るならば、管理を怠った夫がその責任を負担すべきである(妻が損害賠償金を負担する理由はない)という結論となります。




【取材協力弁護士】
下大澤 優(しもおおさわ・ゆう)弁護士
2012年司法試験合格、2014年に弁護士登録。勤務弁護士を経て2016年に定禅寺通り法律事務所(仙台市)を開設。離婚・男女関係のトラブル(婚約破棄等)に注力している。
事務所名:定禅寺通り法律事務所
事務所URL:https://jozenji-law.com/