2020年11月07日 09:41 弁護士ドットコム
2020年4月から施行された改正意匠法で、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する蔦屋書店が「内装の意匠」第1号として認められました。
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改正意匠法で新たに保護の対象となったもので、登録されたのは、「天井までの高さがある書架に囲まれたロングテーブルのある内装の意匠」とCCCが「本の小部屋」と呼んでいる「書架で囲まれた小部屋が連続する空間の意匠」です。この内装は、蔦屋書店の各店舗でも採用されています。
これに対して、ネットでは「蔦屋書店みたいな内装の本屋さんを描いたり、発注するのはダメ?」といった疑問が寄せられました。実際には、どのようなことが保護されているのでしょうか。知的財産法にくわしい齋藤理央弁護士に聞きました。
改正意匠法のポイントは?
「これまでは、意匠法の保護対象は『物品』でした。つまり形があって、持ち運びができる商品のデザインが保護の対象でした。
このため、昨今のビジネスで重視されている特徴的な売り場やオフィスなど『空間のデザイン』は、意匠法の守備範囲外となっていました。しかし、有名デザイナーに依頼するなど、企業は『空間のデザイン』に費用や労力をかけていることがあり、これを保護する要請が強くなっていました。そこで、法改正により保護対象を拡大し、新たに『建築物』や『内装』のデザインについても、意匠登録ができるようになりました」
つまり、「蔦屋書店の内装」を真似した内装の店舗は許されない?
「意匠権は、権利者以外の人間が、意匠の『実施』をすることを禁止できます。この『実施』というのがどういう意匠の使い方であるかは、意匠法に具体的に定められています。蔦屋の意匠は、本棚など物品の組み合わせのようです。
物品を組み合わせた内装の意匠の場合、意匠に関係する物品を実際に製造したり、使用すること、つまり蔦屋の意匠を再現した店舗内装を現実に再現したり、使うことは禁止されます。
そして、意匠権は著作権と違って、『真似したかどうか』はあまり問題になりません。問題になるのは『似ているかどうか』です。真似をしていてもしていなくても、似てしまっていれば、店舗のデザインを変更したり、求められれば賠償金を払わないといけない場合もあります。
ある内装と意匠登録を受けた内装が『似ているかどうか』の判断については、法改正がされたばかりでまだ裁判例がないところですが、一般的に些末な部分にとらわれず、デザインのポイントになっている部分を見比べて、似ているかどうかを判断します。
内装の場合、内装デザインのポイントになっている家具や什器などを見比べて醸し出される統一的な美観が似ているかどうかを判断することになると思われます」
では、「蔦屋書店の内装のようなイラストやCG」を制作したり、使ったりすることは許される?
「先ほどお話したように、物品を実際に製造すること、つまり蔦屋の意匠を再現した店舗を現実につくることは禁止されます。
しかし、物品を再現したイラストやCGを作成することは、それが製造のためだけに用いられる設計用のプログラムなどでない限り、実施の内容として法律が定めていないので禁止されていません。
つまり、蔦屋書店の内装をイラストやCGで制作することは意匠法において禁止されません。
ただ、これから到来する可能性が高いVR(ヴァーチャル・リアリティ)時代においては、顧客に仮想現実の店舗やオフィスに来てもらうケースも出てくるでしょう。そうしたVRの時代が来ることを考えると、保護の範囲をさらに拡大する必要も今後出てくるのかもしれません」
なお、蔦屋書店の内装とともに、「くら寿司」の「回転寿司店の内装」も登録されています。「やぐら」を組んだ空間で、アートディレクターの佐藤可士和氏が手がけました。
【取材協力弁護士】
齋藤 理央(さいとう・りお)弁護士
I2練馬斉藤法律事務所。東京弁護士会所属・著作権法学会、日本知財学会会員。著作権など知的財産・IT法などに力を入れている。著作権に関する訴訟等も複数担当し、担当事案にはリツイート事件などの重要判例も含まれる。
事務所名:I 2練馬斉藤法律事務所
事務所URL:https://i2law.con10ts.com/